カメラのUIとしてのレトロスタイル
ニコンから「Z fc」というレトロスタイルのミラーレス一眼が発表され予約が好調の様です。
もう一つOMデジタルソリューションズから「E-P7」が発売されました。
この2つの機種に共通しているのが「レトロスタイル」です。
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フォト・コミュニティを盛り上げてユーザーとの接点をつくり、上手にプロモーションをおこなうことでレンズシステムを構築し、その後は定期的にボディーを買い替えてもらうというのがメーカーの「レンズマウントビジネス」の基本的な考え方です。
いわゆる「ガチ勢」の人たちは常に一定の人数がいますが、限られた人数を複数のメーカーが取り合っている状況で、とくに近年ではニコン/キヤノンからソニーにレンズシステムをスイッチする動きがでてきていました。
特にニコン/キヤノンがミラーレスの新マウントを出したことによって、ユーザーがこれまで揃えてきたレンズシステムの意味が薄れてしまったことで起きた現象です。
そんな中で重要なのがこれから写真の表現に興味を持ち長期的な趣味にしてくれるユーザーを育てていくことです。スマホで誰もがカメラを持ち歩き写真を発信する時代に新しい一眼ユーザーを生み出そうとしています。
作画を趣味にするユーザーを育てる方法
これまで一眼カメラの入門機と言えばEOS Kissの成功以来「パパママカメラ」と呼ばれる子供の成長に合わせて写真を撮っていくカメラが幅をきかせていました。
ところが最近はメーカーが趣味性の高いレンズに重点を置いてきていることから、パパママカメラのダブルズームキットで満足してしまう層ではなく、新しいポジションの入門機が必要になってきていました。
そんな思いがあってかメーカーでは「ステキな写真のハウツーサイト」の提供に力をいれてきています。オリンパスの「SWEET PHOTO(現在は終了)」から始まり、ニコンの「nikostop」、富士フイルムの「IRODORI」という風に広がってきています。
これらのサイトを運営しているのが全てレトロスタイルのカメラを出しているメーカーであることも面白い点だと思います。
作画表現する意識するカメラ
現在のカメラは被写体にカメラを向けてシャッターを切れば撮影することはできます。そこから一歩踏み出し、素敵な写真を撮るために「どんな表現をしようか」と考えるのが作画意識です。
何十年か前まではこのような余計なことをしようとすると失敗してしまったり、思い通りに表現できなかったりしていましたが、最新のカメラでは被写体を画面のどこに置いてもピントをきちんとあわせたり、さまざまなピクチャーモードが提供されていたりして多くの人が楽しめるものになっています。
実際のどのくらいの人が作画表現を意識した撮影をおこなっているのか分かりませんが、カメラをレトロスタイルにすることで、それが増えると考えているのです。
カメラのユーザーインターフェイスといえば、液晶モニタやシャッターボタン、ダイヤルなどを想像しますが、ユーザーを撮影する気分にさせるユーザーエクスペリエンス(UX)のためのUIとしてカメラのスタイルが注目されている訳です。
実用カメラ/趣味カメラ
なぜレトロスタイルが作画意識に繋がるのでしょうか? そのスタイルが現役だった時代にはそのデザインに作画をするカメラと言う意味は含まれていませんでした。
これは私の仮説ですが、現在の実用カメラとして黒くて大きいモダンスタイルの存在によって、それに対する特別な存在としてレトロスタイルの意味が生まれたと考えられます。
レトロスタイルは現在のカメラ技術からすると過剰な操作系を持っていて、それが作画操作を誘発します。露出補正やシャッター速などをダイヤルとして見せることで操作しないと勿体無いと思わせる作戦です。他にも作画モード用のボタンやレバーを持っている機種もあります。
この関係はガチ勢にはまったく当てはまりません。モダンスタイルのフラッグシップ機を使ってバリバリ作画を楽しんでいます。(私もコチラ派です)
レトロなだけでは不十分 これからはフォト体験
往年のフィルム一眼レフやレンジファインダーのスタイルを取り入れたカメラは、オリンパスや富士フイルムが中心になって展開してきましたが、ニコンもDfというカメラを出していましたので今回のfcの追加によってラインナップが揃った形になります。
このようレトロな外観だけでは十分ではなく、モノクロフィルムで撮影して自分で現像して楽しむようなクリエイティブな体験と組み合わされる必要があるのです。私のお勧めはスマホアプリやカメラ単体でコンビニのコピー機にモノクロA3のプリントが20円でできる仕組みです。接続のインフラはすでにあるわけですから直ぐに実現できそうです。
コンビニのコピー機の周りで老若男女がワイワイしながら写真をプリントしている姿はきっと最高の宣伝になるはずです。せっかくの社会インフラですから利用しない手はありません。多段階の露出やエフェクトを一覧プリントできるようにすれば何枚も出力したくなり、そのこだわりが新しいレンズや表現へのモチベーションへと変わっていくのではないでしょうか。
UXデザインにとってこのカメラスタイルの違いが何を生み出すか非常に興味があります。スマホ時代だからこそ特別なUXを生み出すのかもしれません。
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