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補正から、エフェクトへ。AI時代のUX
忠実性から、演出性へ
マイナスからゼロへ、ゼロからプラスへ
それぞれ表現は違うがデジタルカメラのUXに対するマインドセットの変化を表している。
これはデジカメの特殊な例ではなく、多くの製品で今起きている、これから起きる変化である。
機器の自動化のレベルが低かった時代には、必要に応じて人が手助けをしてあげなくてはいけなかった。
クルマの場合、ATで平地を走っている限りはシフトレバーを操作する必要ないが、坂道ではシフトダウンを手動でおこなわなければいけない場面が昔はあったが、今はさまざまな制御技術の進歩やカーナビと連動することでその場に相応しい動作をユーザーの操作無しにおこなえるようになってきている。
デジカメの場合も同様に、昔は逆光などでは露出補正が必要だったが、今は人物を認識して自動で適正露出に設定できるようになったり、さまざまなシーンを学習することで最適な設定を自動でできるようになってきている。
いずれの例も、製品の自動化が賢くなることで、マイナスな状況、補正が必要な状況が減っているということである。
ユーザーのやることが無くなっていく
製品が賢くなり、自動化が進むことで、失敗や事故が減ることはユーザーにとっても良いことではあるが、
クルマを操る悦び、写真を自分が撮ったと感じることが、減ってきていることでもある。
ユーザーは、自分に一定の役割と責任を持ちたいと思っており、これは全自動を追求する炊飯器や洗濯機とは少し違う、ヒトとモノとの関係である。
この状況に対して人は2つの方向で、自分のやることを作り出そうとしている。
一つは、(一部の)動化をOFFにして、自らがそれを実行する方法で、クルマではミッション操作を自分でおこなったり、カメラではフォーカスをマニュアルにしたりする。
もう一つは、自動化で役割が減りできた余裕によって、新しい役割を見つける方法である。
クルマではそれが何になるのかまだ分からないが、カメラでは新しい撮影テクニックを含む「エフェクト(演出)」をおこなうことが定着しそうである。
何もしなくても忠実な写真が撮れる時代に必要な演出
写真を失敗しないことが「写真が上手い」と言われた時代から、より魅力的な写真を撮ることが求められる時代になってきている。
写真が自分や家族、友人の間で、それを見る文脈を持った人にだけ見せていた時代から、デジタルネットワークを通して多くの知人(フォロワー)に見てもらうものに変わってきたことが理由であるが、
何と良いタイミングなのだろうか。ちょうど人の役割が無くなってきたところに、同じデジタル技術によって、新たな役割が必要とされる形になっている。
(もちろん偶然などではなく、デジタル時代だからこそ作画や演出が必要だということを、UXデザイナーが設計した結果である)
何もしないことがリスクだった時代から、何かすることがリスクの時代に
何かを自分自身でやりたい。何か意味(価値)のあることをやりたい。という2つの目的を「エフェクト」は達成させてくれるが、
それは同時に、失敗するリスク、残念な結果になるリスクを大きくする。
極端なエフェクトは、ばっちし決まると最高だが、外すとイタイことになる。
リスクが大きいということは、UIの役割が重要ということであり、デジカメUIはそれらのコントロールができるように、ユーザーにフィードバックを返し、充実した操作体験を提供しなけらばならない。
この新しいUI課題に対して、AI技術の進化を見通し、答えを出すメーカーが表れることが楽しみである。