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人間中心設計プロセスとプロトタイピング
デジカメUXマガジンの番外編として、デジカメUIのデザインプロセスを例にしながら人間中心設計プロセスとプロトタイピングについて書いてみます。
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複雑なシステムを開発するときに、いきなり仕様書を書いたり設計を開始することはできません。また一度に全体と詳細を作ることもできません。
そこで作業の「分割」が必要となります。まずは開発プロセスを分解してステップに分けていきます。
デジカメのようにユーザーが直接利用する機器では「人間中心設計プロセス(HCD)」が基本となります。
1つの開発を4つのステップに分割します。前半で「利用状況を把握して要求を明示」し、後半で「解決策を作成し評価」することになります。
実際にはどのように手を付けていけば良いか分かりにくいので具体的に説明していきます。
デジカメの場合には「利用状況を把握して要求を明示」で、水中などの環境視点、手袋をしているなどの操作視点、ユーザーの知識や目的などを総合的に利用状況として設定します。またユーザーが利用する様子を観察したり、自分自身で体験してみることも勿論やります。ペルソナやジャーニーマップを作ることもあります。
特に重要なのが、ユーザーの感情的な要求です。リスクがあってもワクワクしたいのか、安心してリラックスして使いたいのかなどを明確にすることが必要です。
企業では「やり直し」はありえない
HCDには「要求が満たされるまでプロセスを繰り返す」としか書かれていないため、実際の開発では何回ぐらい繰り返せば良いのか分かりません。
企業では、本格的に開発してみた結果、ユーザビリティの要求を満たさなかったのでもう一度最初から開発をやり直すという訳にはいきません。やり直しをしながらも確実に開発が進んでいくやり方が求められます。
例えば、アジャイル開発手法のように、小さな機能ごとに分解して個別の利用状況と要求を明示することもできますが、HCDでは「システムの」ということが重視されており個別機能だけにフォーカスすることを推奨していません。
システム全体を「ザックリ」から「詳細」へ進める
後半の「解決策を作成し評価」ではプロトタイプを用いて、本開発の前にユーザビリティ要求をシステム全体が満たしているかを確認します。
このプロトタイプは開発における「試作」や、デザインにおける「モックアップ」とは違うものです。
商品企画で決まった内容を、本格的な開発やデザインが始まる前に、「ザックリ」と実施するために、クイックにプロトタイプを作成し、早くユーザビリティ評価をおこないます。
”ダーティー”プロトのススメ
クイックに進めるためには「ダーティー」で作ることに慣れなければなりません。綺麗な設計やデザインという価値観を捨てることが求められます。
Webやアプリであれば、ペーパープロトがダーティープロトの代表でしょう。
デジカメのようにハードウェアを持った製品では、筐体は箱にプリントした操作パネルを貼っただけだったり、GUIも紙芝居という具合です。
作ってみる前は「そんな精度では十分な評価ができない」と思うかもしれませんが、書類だけで議論していたときよりも確実に多くのことを発見し評価することができます。
アプリの評価では、ユーザーの思考を見ることが中心ですが、ハードを持つ製品では、エルゴノミクスやフィジカルな状況も確認するため、アクティングアウト(実際に使っている状況を演じてみる評価手法)をおこないます。
プロトタイピングツールを使ってみる
もし箱ができて、GUIの紙芝居が用意できた後、評価までに2~3時間の余裕があれば、HOTMOCKというプロトタイピングツールを使ってみることをお勧めします。
PCの画面を適当なスマホやタブレットに転送(私はリモートデスクトップアプリを利用しています)すれば機器のディスプレーにすることができ、物理的なスイッチを押すと画面が変化するというプロトタイプを直ぐに作ることができます。
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最近では、さまざまなプロトタイピングツールが出てきており、それらをいかに使いこなすかが上流工程でのカギになります。下流工程へスムーズに移行することも重要なポイントになってきています。
私はAdobeXD、IndigoDesign、Qt(キュート)などが気になっています。
いづれも得意分野と不得意分野があり、上流開発から下流開発まで使えるものや、さまざまなUI方式、GUI表現ができるものはまだ無いため、ツールの導入はとても悩ましい状況です。
しかしツールは補助的なものであり、その制約に引っ張られてはいけません。あくまでも最終的にやりたいことを簡易的に実現する方法を工夫することが大切です。
お菓子の空箱がトランシーバーだった頃を思い出せばどんなものでも見立てることができるはずです。
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人間中心設計プロセスを実践することは難しいことですが、ポストイットや書類ではなく、私はクイック&ダーティーなプロトタイプを上流で作成することによって、ユーザビリティ視点を保てるようになり、周りのメンバーとも共有できるようになりました。