【500字小説】一緒に行こう?
"一緒に行こう?"
私は彼に問いかける。
彼と出かけるのは何か月ぶりだろうか。
"行くって、どこにいくのさ"
私ははっとする。
"特に考えてない、でも、そういうものでしょ?"
喉までこみ上げてきたが、なんとか横隔膜まで戻した。
そうだった。
彼には決定力がないのだ。
"水族館に、行きたいな。"
私はなんとか口にした。
彼は何故かまったく乗り気じゃない。
でもそれを問い詰める勇気は私にはないから、きっと何かがあったんだろうと考えるだけにとどめる。
やっぱり、今日は彼の様子がおかしい。
なぜか乾いているし、ちょっと力を入れたら破けてしまいそうだ。
だけど、久しぶりの外出は楽しかった。
いろんなところを回って、いろんな思い出を描いた。
そして帰り際、我が家が見えてきたねと話していた時、
バンッ
体に衝撃が走った。
”何してるの一体!”
女性の叫び声。
何故か、聞いたことがある声だった。
もう一度、女性の叫び声が聞こえる。
"早く行くわよ!"
"いくって、どこにいくのさ。"
あ。
そうだ。
そう思い出して、机から顔を起こし、突っ伏していた下書きノートを閉じる。
500字小説
――― 作者:樋口 今宵