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実家のやまもも

「やまもも」です。

花は、高知県の「県花」ですが、私、その花を知りません。

どういう形の花なのか、白い花なのか、赤い花なのか知りません。

見たことがありません。


「実」は、知っています。

昔、食べてましたから知っています。


田舎の実家の脇に「やまもも」の木がありました。

入り口手前にありますから、帰り道には必ず前を通ります。

50年前にはすでに大きな木だったですね。高さは屋根より高かったです。

誰が植えたのか定かではありません。爺さんなのか、その親父さんなのかわかりません。

物心ついた頃には、その「やまもも」を食べてました。それは記憶にあります。


その実は、色は紅紫色をしており、大きさはサクランボ大、味は甘酸っぱいものです。

果肉は、見た目は木イチゴのようではありますが、食感はちょっと違って、中に種があるのが特徴です。


子供心に美味しいものだ、貴重なものだということは分かっていました。

塩を少量振りかけると甘味が増すので、塩を振って食べてました。


初夏、梅雨の時期に食べることができます。

実家では、田圃で米を作っていたので、「やまもも」を食べる時期は田圃で稲が育っている時期と重なります。


その田圃には、谷から溝を伝わって水が流れ込みます。

途中、水は庭の池に落とされます。

2mの高さの滝になって岩にぶつかり砕け散るのです。

池を満たした水は、今度は田圃を満たします。

池に落ちる水の音、岩にぶつかる音、田圃からは蛙の鳴き声。

だんだんと暑くなる時期です。


裏山の上にもう1ヶ所「やまもも」の木があり、そこにも採りに行きます。

親父が山に行き、おふくろが家の脇の「やまもも」を採ります。

竹竿の先を枝を挟めるように加工して、実がついている枝ごと挟んで折って採るのです。


採れたての「やまもも」は、竹のザルに入れて食卓に出ます。

おやつですね。

爺さん、両親、妹、私の5人で「やまもも」が入ったザルを囲みます。

爺さんは、年寄りなので、少ししか食べませんが、旬の採れたてのものを食べれて満足そうです。
しわくちゃの顔がくしゃくしゃになっています。

両親は、自分で採って来たものだからすでに満足しています。

ガッツイているのは、私と妹です。

普段ひもじい思いをしている訳ではないのですが、バクバクバクバク口の中に放り込んでましたね。


採った「やまもも」は、学校の先生、寮の先生、下宿のおばさん等お世話になった方々に母親がパックに入れて渡してました。

「お世話になっています、有難うございます」と感謝の意を込めてお渡しするのです。


みなさん、珍しいと喜んでくれました。

当時も今も珍しいもので、今では「幻の果実」と言われているようです。

ネット通販では1.2kgで7,800円します。

「幻の果実」だけに高級品です。



私は、東京都内の大学に進学し、千葉県の会社に就職してからは7月に帰省することはないので、「やまもも」を口にする機会もなくなりました。

両親が「やまもも」を採ることはもうなくなったようです。

「やまもも」と聞けば、その甘酸っぱい味覚とともに、ザル一面に敷き詰めた紅紫の実、田園風景が同時に瞼の裏に投影され、その当時の光景がまざまざと思い出されます。


弘瀬厚洋

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