現象と演出
最近はマジック業界全体が現象主体の作品にシフトしてきてるように感じます
ネット上にあるビジュアルな現象などはその筆頭です
こういったマジックは
キラーマジック、キラーイフェクトとも呼ばれ
その名の通り強烈な現象だけで観客を斬り倒してしまう強烈なインパクトがあります
一方、昔はもっと演出に力を入れた作品が多かった気がします
これには時代的な背景があるのでしょう
昔はトリック自体がチープでした
よくよく考えらたり見られたりしてしまえば、トリックがバレてしまうものも多かったですし
バレないまでもどこか怪しい部分があり、トリックだけでは不完全だったと思います
そこで昔のマジシャンは演出に力を入れることにより
トリックから目を背けさせることが
【必要不可欠】だったのです
しかし、現在はトリックが進化してきました
現代はどんなに目を凝らしても、場合によっては触って調べても
トリックがまるで想像できないようなものも増えてきました
これ自体はマジシャンにとってありがたいことです
進化したトリックを使い、本当に魔法のようなことを体現できるようになったのです
そしてこの進化したトリックは
不思議な現象を見せるために演出をつけるという
【必要性を無くした】のです
現象だけで充分に不思議なものを示せるようになったからです
しかし、それは弊害も生みました
演出の必要性が無くなったため
演出を全くつけない、トリックだけの、現象だけのマジックが増えてきたのです
そうなってくると、マジシャンのキャラクター性が希薄になってきます
トリックだけならそのトリックを使える人なら誰が演じても同じになってしまうからです
最近はとてもすごい現象を見たのに
そのマジシャンの顔が全く思い出せないということも多くなりました
これはとても残念なことです
マジックに限らずパフォーミングアートというものは
その人が演じる唯一無二なものであるかこそ
たくさんのパフォーマーが存在できるのです
同じ現象をやるマジシャンが100人いたところで意味がありません
100人いるなら100様のマジックがあることが好ましいのです
また、キラーイフェクトは驚きこそありますが、あまり感動がないように思います
あまりにも現象が超常的すぎてしまい
かえって観客が冷めてしまうこともあるくらいです
これは昔言われた「Too perfect theory」に近い感じかもしれません
【人が感動するのはあくまで人に対してです】
例えば精巧なミニチュアがあったとします
人はこれに魅力を感じますが
それは人の手の技術によって作られた場合だけです
例えばそれが3Dプリンターなどによりボタン1つで作られたものだった場合
人はたちまち興味を失います
マジックもどんなに不思議な現象が起ころうと
「誰でもスイッチ1つで起こせる」
と思われてしまった場合
あまり興味を持たれません
それならマジックを見なくてもスマホの方がよっぽど不思議だからです
キラーイフェクト単体の演技はこれに近い危うさがあります
マジックは種を明かさないからこそ
その現象が人の努力によるものなのか
それとも単なる仕掛けのものなのか
観客には区別がつきません
進化しすぎた超現象は観客を置き去りにしてしまう可能性があるのです
実は厄介なことに、この問題に関してマジック愛好家は気づきにくいものです
なぜならマジック愛好家は
「不思議なものは誰かの努力で体現できている」
と感覚的に知っているからです
だからマジック愛好家は不思議なものを見た時
そのマジシャン、もしくは【そのトリックを作ったクリエイター】を素直に尊敬します
簡単にできるトリックを見ても
【簡単に効果的な現象を起こせる方法を作り出した人】をすぐに想像することができ
その人の功績に価値を見出せるのです
しかし、一般の人はそういった発想をあまりしません
簡単にできるのなら、それは労力のかからないチープなものに感じてしまう人も多いのです
勘違いしないでいただきたいのですが
「キラーイフェクトは良くない」
と言っているのではありません
「キラーイフェクトだけでは危うい」
と言っているのです
ではどうすれば良いでしょうか?
ここで演出の重要性がもう一度見直されてきます
演出とは人間が考え出すものです
単なる仕掛けのボタンを押すだけではなく
語りや身ぶり手振り、舞台効果や音響効果などを練り上げた演出は
それだけで
「マジシャンが試行錯誤して作り上げた作品である」
ということを顕著に示すことができます
現象単体で充分に魅力的なものができてしまうからこそ
逆に演出の重要性は今日的に高まっているのです
マジシャンはトリックのクリエイターを尊敬する
そして、観客はそのトリックが用いられたマジシャンの演技を尊敬する
こういう構図を作り出すことが必要なのだと思います
本来マジックにとって演出は
トリックがバレるバレない関係なく必要なものです
トリックは演出がついているからこそ魔法を感じさせることができるのです
トリックのままではビックリ箱やパズルに近く、魔法のイメージからは離れていってしまいます
以前はトリックが未成熟で不安定な現象力をマジシャンの演技力で補っていました
それからしばらくしてトリックが進歩し、現象を見せるだけで、その現象を起こせるマジシャンも評価を得られるようになりました
そして現代はトリックの現象力がマジシャンの演技力を追い抜いてしまってきているように思います
あまりに強すぎる現象にマジシャン側が振り回されてきているのかもしれません
こんな時代こそ
もう一度マジシャンは
マジシャン自身の演技力をもって優れたトリックを操りきる力が必要なのだと思うのです