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チェーン居酒屋の進化形は持込み自由の「時間貸しスペース」?

居酒屋の苦境は今に始まった話ではない

マクドナルドをはじめとするファストフードの売上が好調なのに対して、外食産業の中で苦しい状況にある業態の筆頭が居酒屋です。中でも、大手の居酒屋チェーンは店舗サイズに対して経済的な補償も少なく、瀕死とも言える状態に陥っています。

ただし、新型コロナの影響が大きすぎて実態が見えにくくなっていますが、実は居酒屋という存在に対してずっと逆風が吹いていたことは、改めて認識しておきたい点です。

以下は、日本フードサービス協会のデータですが、「パブ・居酒屋」のカテゴリーの売上高が対前年比で何%かを時系列で見たものです。

2000年:102.5%
2001年:104.8%
2002年:100.6%
2003年:98.0%
2004年:105.2%
2005年:106.5%
2006年:109.2%
2007年:103.9%
2008年:100.0%
2009年:94.2%
2010年:97.2%
2011年:95.5%
2012年:99.5%
2013年:96.5%
2014年:95.0%
2015年:94.3%
2016年:92.8%
2017年:99.0%
2018年:98.5%
2019年:98.9%
2020年:50.5%

過去20年を振り返ると、2007年まで堅調だった売上が、2008年に踊り場を迎え、翌2009年からは常に前年を下回っていることがわかります。実に10年にわたって微減傾向が続いているのです。

対前年比が90%代後半の数字も並んでいるので、変化がさほど大きくないように感じるかもしれません。しかし、仮にマイナス3%を10年続けると、市場は74%にまで減少しますし、これがマイナス5%であれば、市場規模は60%になってしまうのです。

外食市場全体としては2019年までは微増傾向でしたので、居酒屋という業態は明らかに「負け組カテゴリー」であり、コロナ以前からその存在が危ぶまれている状況でした。そこに新型コロナが追い打ちをかけたわけですから、メディアが「居酒屋崩壊」のように騒ぐのももっともです。

居酒屋に代わる「落としどころ」がこれから生まれる

こうした「居酒屋は終わった」という論調に対して、私自身としては同意する部分がある一方で、ちょっとした疑念も感じています。というのも、リアルで人と会える日常が戻ったときに、「駅近くなどアクセスの良い場所で、友人知人とともに、夜に飲食をしたい」というニーズはなくならないはずですが、居酒屋に代わる強力なプレーヤーが今のところ現れていないように思えるからです。

ちなみに「あのシェフのイタリアンに行きたい」とか「おいしい日本酒を飲みたい」というように、食に対する目的性が明確な場合、すなわち「グルメ」を求める場合には、これまで通り、それにふさわしい飲食店を訪れるでしょう。

しかし、世の中の全員がそれほど食に執着があるわけではありません。むしろ人とのコミュニケーションが主目的で、飲食に対するこだわりがそれほど強くない場合もたくさんあるはずです。そんなときに居酒屋、特にチェーン居酒屋は、その「落としどころ」として選ばれてきたように感じます。「ここがいい」のではなく、「まあ、ここでいいか」というような選択のされ方です。

前述の通り「駅近くなどアクセスの良い場所で、友人知人とともに、夜に飲食をしたい」というニーズはこれからもなくならないと私は思っていますが、だからと言って今の居酒屋が形態を大きく変えずに、そのニーズに応え続けていけるとも思えません。

ではこれからはどんな店や業態がそれを掴んでいくのでしょうか。仮説として3つの方向性を考えてみました。

「夜カフェ」や「コンテンツ付帯」

【方向性①】夜カフェ

厚生労働省の調査によれば、20代で飲酒習慣のある人はたった7.8%にとどまり、「お酒を飲まない人」は56.3%にものぼります。であるならば、20代の若者にとっては飲酒を前提にした居酒屋は有力な選択肢にはなりにくいでしょう。いくら居酒屋がノンアルコールドリンクを充実させても、そこがそもそも「飲み屋」である以上、集客には難しさがあるはずです。

一方で「カフェ」の夜にはポテンシャルを感じます。独立系のカフェは昔から食事やアルコールを楽しむことができて、若い世代が夜に集っています。しかし、いわゆるコーヒーチェーンではオペレーションの問題などから、夜の食事ニーズに応えきれているとは言えません(プロントはそこを充実させて二毛作を狙っています)。

ディナータイムに楽しめる食事メニューが増えたり、あるいは夜にはアルコール「も」提供したりすることで、「夜カフェ」がこれまでの居酒屋シーンの一部を奪っていく可能性はあるのではないでしょうか。その場合には、コーヒーチェーンやファミレス、居酒屋運営企業などによる、本気の業態開発が必要になるはずです。

【方向性②】コンテンツ主体の場に付帯

飲食物自体よりも、人とのコミュニケーションが主目的だった場合、コミュニケーションのための「コンテンツ」は強い来店動機になります。従来のケースで言えば、カラオケボックスやダーツバーなどがこれにあたります。その場合、あくまでカラオケやダーツを楽しむのが目的で、そこで注文するフードやドリンクは「付帯」にすぎません。

こうした「飲食を伴うコンテンツ消費」は、これからも可能性があると思います。例えば、映画やドラマ、ゲームなどが、スマホや自宅のテレビとは違うスケールや機能で楽しめるならば、繁華街でわざわざ人と集まる理由になるかもれません。

あるいは、この数年注目度の高いサウナ。一人で入るのもいいですが、誰かと誘い合って楽しむという話も耳にします。するとサウナの後に、ともに飲食を楽しむような利用シーンがありえます。最近のサウナでは、風呂上がりに上質なクラフトビールが飲めるような場所もありますが、提供する飲食物をもっと充実させる余地は大きくあるはずです。

このように、「誰かとコンテンツを楽しみ、そこに飲食の機能が付いてくる」というのも、ポスト居酒屋の一角になりうるでしょう。

本命は持ち込み自由の時間貸しスペース?

【方向性③】時間貸しスペース

個人的にもっとも可能性を感じているのがこれです。時間あたりいくらかを支払うと席や個室を利用できて、そこに各種飲食物を持ち込むことができる場所というのは、多くの人のニーズに応える可能性があると思います。

コンビニはドリンクも食べ物も充実していますが、併設のイートインスペースでは飲酒をしたり、大きな声で会話をしたりすることはできません。そんなときに、コンビニのすぐ近くに、それを持ち込んで飲食できる場があったらどうでしょうか。

あるいはウーバーイーツでその場所に好きな料理をデリバリーで届けてもらうことができたらどうでしょう。わざわざ離れたところから取り寄せなくても、近所の焼鳥屋なりピザ屋なりと連携して、そこから出前を取れるようになっていてもいいかもしれません。

仲間で集まって、飲み物を持ち寄ったり、出前を取ったり、飲み物や食べ物が足りなくなればコンビニに買いにいったりすることができる。そんな「自宅ではないけれど、極めて自由度の高い便利な場所」が、これから生まれてくるような気がします。

以前書いたこちらの記事では、飲食店における「料理」「サービス」「場所」という3つの機能が解体されていく可能性について触れました。居酒屋において、店側が料理やサービスを大事にしたい気持ちは当然です。

しかし、もしも好立地に店を構えるチェーン居酒屋にとって、実は「場所」にこそ最大の価値があるのだとしたら、一旦機能を解体して、料理や飲み物を自前で用意する発想を捨てるという大胆なアプローチはありえるのではないでしょうか。

駅前の利便性の良い立地において、その場所を基点にして提供価値を再設計した場合、外部のプレーヤーと連携することで、これまでとはまったく異なる新業態をつくることができるかもしれないのです。

もちろん本当に事業として成立するかという検証が必要なのは言うまでもありません。しかし居酒屋、中でもチェーン居酒屋はそのビジネスモデル自体が時代とズレてきているように感じます。であるならば、小手先のマイナーチェンジではなく、大胆な見直しも選択肢として持っておくべきではないでしょうか。

そう考えると、ワタミが居酒屋の多くを焼肉店へ転換するという戦略もある意味で理にかなったものに感じられます。


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