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キャンディライド:片田舎の500m戦から世界的種牡馬へ

この記事は、2019年5月2日にアルゼンチンの日刊紙『ラ・ナシオン(La Nación)』に掲載された"Candy Ride: el caballo al que rechazaron varias veces, fue crack invicto y sus hijos mueven millones"、および、2020年12月14日にチリの競馬メディア『エル・トゥルフ(El Turf)』に掲載された"René Ayub: "Gracias a Candy Ride nació mi hija""を翻訳・一部改編したものになります。

また、以前筆者が運営していた『南米競馬情報局』に掲載された内容をそのまま note に移したものです。


アルゼンチンのエリート?

 競馬が好きな人であれば、キャンディライド(Candy Ride)という名前を一度は聞いたことがあるに違いない。

 キャンディライドはアルゼンチンで産まれた牡馬である。アルゼンチンでは圧倒的な内容で3戦3勝(GⅠ2勝)という成績を残すと、アメリカに移籍してGⅠパシフィック・クラシック・ステークスを優勝した。通算成績は6戦6勝と土つかず。種牡馬となってからもガンランナー(Gun Runner)、ゲームウィナー(Game Winner)、ヴェコマ(Vekoma)といった名馬を輩出し、2022年の種付け料は7万5000ドルにもおよぶ。日本でもキャンディライドやガンランナーの産駒が走っている。

 これだけ読めば、アルゼンチンのエリートが順風満帆にアメリカン・ドリームを掴んだように思える。まるで甲子園のアイドルがドラフト1位で指名され、メジャーリーグでも大活躍したような印象を受けるかもしれない。しかし、キャンディライドはエリートどころか雑草であり、甲子園常連校どころか地方大会万年1回戦負けの弱小校出身なのである。


売れ残りの駄馬

 キャンディライドは1999年9月27日に、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにあるアボレンゴ牧場で産まれた。父ライドザレールズ、母キャンディガール、その父キャンディストライプスという血統。アボレンゴ牧場はアルゼンチンを代表する生産牧場であるが、キャンディライドは将来を嘱望された馬ではなかった。

 2歳時に売りに出された。しかし、父ライドザレールズが活躍馬を輩出していなかったことや、レントゲン写真で見る身体つきの悪さが買い手に嫌われ、3度も売れ残った。最終的に、当時コルドバ州の農牧省長官だったグメルシンド・アロンソ氏率いるオホス・クラーロス牧場に買われた。アロンソだけは血統にも馬体にも難癖をつけなかった。キャンディライドはコルドバ州の都市リオ・クアルトに送られ、デビューに向けて調教を積むことになった。


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