天才か?オシャレすぎる馬名3選
自分、馬名の由来を知るのが好きなんですよ。馬券にはまったく役に立たないけれど、知識欲を満たせると言いますか、外国語とか文化とかを知れて良い勉強になります。
響きがカッコいい馬名よりも、その馬が持っている歴史や背景から名づけられた馬名のほうが好きです。命名者のセンスの高さと溢れんばかりの知性に、憧れるどころか嫉妬さえ覚えます。
今回は、最近名づけられたスペイン語・ポルトガル語馬名限定になってしまいますが、個人的に心が震えた馬名を3つ紹介します。
1頭目がカントゥータ(Cantuta)です。父リアルスティール、母レディシャツィという血統の牝馬で、2021年に産まれました。
カントゥータとはアンデス山脈に生息する赤い花です。ペルーとボリビアの国花であり、インカ帝国では聖なる花として神に奉納されていました。
母のレディシャツィはペルー産馬で、ペルーGⅠの勝ち馬です。南米産の牝馬の仔にはスペイン語の馬名がつけられることが多いですが、花の名前にしようという柔軟な発想、しかもペルーの国花の名前を思いつくとは、命名者のセンスの良さが羨ましいです。
また、スペイン語では名詞に性別があります。名詞は男性名詞と女性名詞に分かれており、カントゥータは女性名詞です。ペルー出身の母から産まれた牝馬に、ペルーの国花である女性名詞をつける。天才か?
2頭目はアシセバイラ(Así Se Baila)です。バイラオーラの仔として2021年に産まれました。
アシセバイラの母母はバイラリーナです。バイラリーナとはスペイン語でダンサーを意味します。たとえば、「プリメーラ・バイラリーナ」と言うと、バレエ団のプリマドンナを意味します。
母のバイラオーラもスペイン語でダンサーを意味します。しかし、単なるダンサーではありません。バイラオーラは「フラメンコの女性の踊り手」に限定されます。
ここでフラメンコの知識を少々。
フラメンコにはハレオという用語があります。ハレオとは上演中に起こる掛け声のことです。フラメンコのアーティストたち自身が言うこともあれば、見ている観客が言うこともあります。歌舞伎で言う「成田屋!」とか「いよっ、12代目!」みたいな感じです。
代表的なハレオは「オレ!」です。オ~レ~オレオレオレ~のオレです。「グアポ!/グアパ!(イケメン/美人)」も頻繁に使われます。こういった掛け声なしにはフラメンコは成り立ちません。
そのハレオの1つがアシ・セ・バイラです。直訳すると「そのように踊る」となります。つまり「それだよ、それ!」とか「そうこなくっちゃね!」的な掛け声になります。
いやぁ、凄いね。母母がスペイン語でダンサー、母がスペイン語でフラメンコの踊り手とくれば、その仔には別な踊りの名前をつけようと思うのが普通の発想です。ですが、さらにフラメンコを掘り下げて、ハレオのアシセバイラまでたどり着く。天才か?
というか、バイラオーラの仔はすべて馬名のセンスが良いです。カンタオール、エスコビージャ、サクロモンテ、ソレア。すべてフラメンコに関連する言葉です。なんでそんな用語を知ってるの?っていうね。ソレアなんて大学の授業で聞いた以来ですよ。
最後に紹介するのはブラジルの馬になります。しかも、カントゥータやアシセバイラのような、馬の背景から取った名前というわけではなありません。単純に魂が震えて、皆さんに紹介したいと思いました。
日本の馬を父や母に持つ外国馬の場合、日本的な名前をつけられることが多いです。しかし、ブラジルで種牡馬をしていたアグネスゴールドの仔はそうでもありませんでした。まぁ、ギョーザ(Gyoza)というアグネスゴールド産駒はいましたが、基本的に日本とはまったく関係ない馬名ばかりでした。
アグネスゴールドの最終世代は2020年に産まれた42頭です。その最終世代42頭の中に、アグネスゴールド産駒としてはもっとも日本的な名前を持つ馬が現れました。
それが2020年8月12日に産まれた、ブラジル2冠牝馬マイスキボニータ(Mais Que Bonita)を全姉に持つ超良血牝馬です。彼女の名前をホーザヂヒロシマ(Rosa De Hiroshima)と言います。
ホーザヂヒロシマ、直訳するとポルトガル語で「広島のバラ」になります。これは平和記念公園にあるバラ園を意味します。
日本的な名前なんて腐るほどあります。極端な話、フジヤマとかシンカンセンも候補に入るわけです。しかし、そんな数ある日本関連の名前から選ばれたのが、平和への願いがこめられた「広島のバラ」だなんて、あまりにも嬉しいじゃないですか。
なぜブラジル人が「ホーザヂヒロシマ/広島のバラ」なんていうオシャレな名前をつけられたのでしょうか?
実はブラジルでは広島がとても有名です。マルクス・ヴィニシウス・ヂ・モライスというブラジルの超有名な作家・詩人が作った曲に『ホーザ・ヂ・ヒロシマ(Rosa De Hiroshima)』という題名の曲があります。「なんと愚かで無益な放射能のバラ」という歌詞が出てくるように、これは反戦ソングです。
日本が産んだ名種牡馬アグネスゴールド。彼の最終世代のもっとも優秀な血統に「広島のバラ」という馬名がつけられた。初めて見たとき、なんだか胸がジーンと来ました。
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木下 昂也(Koya Kinoshita)
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