フェノーメノの教え:大金を賭けるもんじゃない
フェノーメノが種牡馬を引退するそう。12歳。まだまだやれる年齢ですが、結果を出せなかったので仕方ない。泣きの一回は与えられない厳しい世界ですから。
フェノーメノはとても好きな馬です。といっても、最初はフェノーメノ自体が好きだったわけではありません。蛯名さんにダービーを勝ってほしかったからフェノーメノを好きになったという流れです。本番でディープブリランテにちょっとだけ負けて2着だったことで、この馬のことが本格的に好きになりました。負けてるほうを応援したくなる日本人精神ってやつです。
僕が今でも楽しい競馬ライフを送れているのは、ほんの少しフェノーメノのおかげです。
大学4年生の12月のことです。卒業に必要な単位はすべて取り、卒論も提出できる見込みで、かなり暇な冬休みを過ごしていました。バイト三昧でしたね。
その当時頭の片隅にあったのは、「卒業する前にバカなことをやってみたい」という思いでした。お酒で記憶をなくしたことはないし、陰キャなので合コンをしたこともないし、いわば大学生らしいことをあまりしていませんでした。
でも、バカなことって? 自分にできるバカなことは何よ?
うん、馬券だな。
ということで、僕は2014年の有馬記念で11月のバイト代を全額ぶち込むというバカをやることにしました。正確な金額は覚えていませんが、10万2000円か3000円だった気がします。
賭ける馬は2択でした。①ジャスタウェイの単勝。ジャスタウェイは僕が秋の天皇賞で大勝ちしたときの思い出の馬。②フェノーメノの単勝。2回使って状態は上向いている。好きな馬だしね。
選ばれたのはフェノーメノでした。倍率を見たときにフェノーメノのほうが美味しかったからです。はい、欲に溺れました。
レースは東京競馬場のスクリーンで見守っていました。わざわざ真冬の野外で観戦したのは、返し馬のときから身体中が熱くて脇汗ダラダラで、とてもじゃないけど室内にいられなかったからです。ゲートが開いてからも吐きそうだったし、フェノーメノが馬群に沈んだときには自分の髪の毛をむしりたくなるほどの怒りが湧いてきました。
あのときずっと勘違いしていたんですよね。フェノーメノには蛯名さんが乗ってると思って「蛯名!蛯名!」って頭の中で叫んでたんですけど、実際には田辺さんでした。そりゃ外れるって。
僕が10万円を超える馬券を買ったのはフェノーメノが最初で最後です。これからも絶対にやりません。お金を失うリスクよりも、心臓発作を起こすリスクのほうが圧倒的に高そうだからです。ノミ心臓の根暗陰キャチキン野郎に、あの緊張と興奮はとても耐えられん!
フェノーメノ、思い出の1頭です。種牡馬はやめちゃうけど、健康で長生きしてくれればそれで充分。本当にお疲れ様でした。
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木下 昂也(Koya Kinoshita)
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