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砕けた思い出

薄暗い部屋の片隅で、彰人は古びた硝子細工を見つめていた。それは彼の祖母が生前愛用していたもので、繊細な青い花が彫り込まれていた。幼い頃、彼はその硝子を手に取るたびに、まるで別世界に引き込まれるような感覚を覚えたものだった。けれども今、彼の目に映るそれは、ただ冷たく、無意味なものに過ぎなかった。

彰人は静かにその硝子細工を手に取り、光の差す窓辺へと運んだ。日差しが硝子を透過し、部屋の中に美しい影を落とす。かつての祖母の優しい声が耳元で囁くように聞こえる気がしたが、彼はその声をすぐに振り払った。

「何も変わらない…」

彰人は呟く。人生の大半を他人の期待に応えるために費やし、自分自身の願望や感情を押し殺してきた。結婚も仕事も、すべてが形だけのものに感じられた。彼の心は、あの硝子細工と同じように脆く、ただの飾り物に成り下がっていた。

その時、彰人の手から硝子細工が滑り落ち、床に砕け散った。彼は驚くこともなく、ただその破片をじっと見つめていた。砕けた硝子は、彼自身の人生の断片のように思えた。どれだけ綺麗に見えても、一度壊れてしまえば元には戻らない。

ふと、彼は笑みを浮かべた。その笑みは、長い間抑えていた感情がようやく解放された瞬間のものであり、同時に、もう何も期待しないという諦めの表れでもあった。部屋の中には静寂が戻り、ただ粉々になった硝子の破片が光を反射し、淡い虹色の光を床に描き続けていた。

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