ひとくち

夕暮れの公園で、夏美はベンチに腰掛け、一人静かに思い出に浸っていた。手には、かつて母が作ってくれたおはぎが一つ。母は数年前に亡くなり、その温もりも、手作りの味も、もう戻っては来ない。

夏美はそっとおはぎを口に運んだ。ひとくち、甘く懐かしい味が広がる。しかし、それは同時に、心の奥にしまい込んだ寂しさと後悔を呼び覚ました。母と過ごした日々を思い出しながら、彼女はその甘さに胸を締め付けられるような感覚を覚えた。

おはぎのひとくちは、ただの味覚ではなく、失われた時間と取り戻せないものへの想いだった。夏美は目を閉じ、口の中で溶けていくおはぎの最後の甘さを感じながら、小さなため息をついた。そのひとくちは、彼女の心に深い余韻を残し、消えた。

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