創作の世界へ踏み出すキッカケになった演劇
本当は演劇を続けたかった。
高校生の頃に初めて演劇部に入り、3年間演者をやり、芝居の楽しさをたくさん味わった。大学へ入り、絶対演劇部に入ると思っていたが、僕のキャンパスはとても小さく演劇部/演劇サークルが無いところだった。
サークルに入らず無所属のまま1年が過ぎた時、別の大学へ入学し演劇部に入った幼馴染のY君から、「俺の脚本で演劇やるから観に来てよ」と誘われた。
高校や大学が別になっても遊んでいた彼がどんなストーリーを書いたのか、ものすごく興味があったから即「行く」と伝えた。
舞台の会場は、「◯◯劇場」という立派なものではなく、倉庫の中を改造してあるような舞台。なので演者とお客さんとの距離がもの凄く近い。
また当日行って分かったのだが、新人歓迎会を兼ねての舞台だったそうで、Y君の大学に入学した新入生に向けた舞台という感じだった。
Y君が入学した大学は偏差値が高く、入学した達成感で浮き足立っている新入生たちが和気藹々と話しながら開演を待ち望んでいる。
もちろん僕は一人、まさか全然関係ない大学から来ているなんて、この新入生たちは思っていないだろう。虚勢とは裏腹に疎外感はどんどん強くなっていった。
というかなんて劇に招待したんだアイツ。
結論から言うとY君のの書いた脚本は、お世辞にも面白いとは言い難いものであった。
そもそものお話がつまらない上に、ニコニコ動画に出てくるネタが当たり前のように飛び交うのが聞くに耐えられなかった。
そして終わった後に演者とスタッフが一列に並び、そこで終わればいいものの、部長的なポジションの奴が身内ネタで一発芸をかまし、それに対し来場者も笑っている。
端っこの特等席で見ていたものの内心「あぁ、うぜぇなぁ」と思っていた。
講評アンケートの紙が渡され、下にあるわずかな自由記入欄にたくさんのご意見を書いた。
彼の劇を観た後、しばらく苛立ちが続いていた。つまらないと言いたいけれど、言えるだけの実績が無い。しかし2年生に上がり学業も忙しくなり、サークル活動なんて、ましてや台本を覚えて舞台で複数人の予定を合わせて練習するなど、困難な話だった。
ならどういう媒体であれば僕は作品を作ることが出来るのだろう。思案している時に発見したのが中学生から聞いていたこの「ボイスドラマ」というジャンルだった。
当時はまだガラケーが多かったが、大学生へ上がる頃には半数以上がiPhoneを所持しており、当然録音のしやすさとクオリティが上がっていた。
集まらなくてもオンライン(当時はSkypeが主流だった。)で録音できるし、セリフも絶対暗記する必要はない、ボイスデータさえ貰うことが出来れば完成する。
それからしばらくはボイスドラマ制作サークルに入り、そこを抜けて自分のサークルを立ち上げ、解散して新しいサークルを立ち上げたり、メンバーも入ったり抜けたり紆余曲折あったりで今は僕一人で活動している。
Y君の劇を観に行かなければ、僕はボイスドラマを作ろうなんて思わなかっただろう。
今はもうY君に対する不満は無い、むしろ感謝するくらいだ。
彼も創作活動を続けている。シナリオではなくイラストの方で。
だから幼馴染からの貴重な創作活動仲間だ。
つい最近も映画「ゴールデン・カムイ」を観に行き、マックで映画の感想を話すほどだ
Y「面白かったな!」
僕「間髪入れずに展開が変わるから全然飽きなかったね」
Y「2時間があっという間だった」
僕「脚本書く上での参考になるところたくさんあったわ」
Y「脚本書くなら、『湿度』が大事だぞ」
僕「湿度?」
Y「主人公の過去に共感させるような泣けるような話を入れるっていうのが『湿度』。脚本書くならこの『湿度』を意識した方がいいぞ」
僕「は?」