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エッセイ『暇か』

令和4年9月6日

 一日中ラジオを聴いていると書くと「暇か」と言われそうで心外なんですが、心外だと思うのと実際に暇であることは両立してしまう。両立してしまうくらい身勝手なほうが本当は健康的なのだ。周りを見渡してみたら自分のことを棚にあげるタイプのおっさんのほうが元気そうではないか。そういうことなのだな。

 一日中ラジオを聴いていると、お昼の番組でも夕方の番組でも同じネタを話題にしていることがあるから、僕みたいに一日中ラジオを聴いている人のことは想定されていないのだろう。

 どうして同じネタを同じ日の違う番組で取り上げてしまうのかといえば、まず、そこに意思の疎通が無いことが挙げられます。もしくは、意思の疎通があったうえで「別に一日中ラジオ聴いてるやつなんか、ほとんどおらんのやさかいにそんな少数派のことを気にしてられるかい」という、これまでマイノリティーとして生きた試しのない主張の強いおっさんの存在が挙げられるでしょう。しかし、それ以前にです。同じネタを取り上げるなんてことが起こるほうが本来、稀有なことであるはずです。先ほど僕は「意思の疎通がないから同じネタを同じ日の違う番組で取り上げてしまう」と書きましたが、普通に考えれば、意思の疎通があるからこそ同じネタを同じ日の違う番組で取り上げることになるはずです。同じ日に違う人が二人、全くメーカーの同じ色合い、同じ柄の洋服を着てきていたら、何か示し合わせてきたのかと思うのと同じです。

 洋服に関していえば、どうしてそういうことが起こるのかといえば、もちろん、趣味が同じであるということがあり、もう一つは、同じところで買っているのではないか、という可能性があります。これをラジオ番組に当てはめてみましょう。ラジオ番組のネタを探すのは、どういうポジションの人かはわかりませんが、どういうポジションの人であれ、同じラジオ局で働いているわけですから、局の雰囲気、カラー、テイストに合わせてネタ探しをしているでしょう。そうなると、洋服でいう「趣味」の部分が似通ってきます。番組自体のカラーも、比較的似ているのかもしれません。それも言ってみれば「局のカラー」でしょう。ある程度、「趣味」の部分が重なってしまうところに「買うところが同じ」であれば、被ってしまうのは仕方がないことです。ラジオ番組の場合、それは「ネタもとが同じである」ということになります。新聞なのか、ネットの記事なのか、わかりませんが、同じネタもとから引用しているが故に起こってしまう、というのが真相なのではないかと思います。

 さらに付け加えるなら、ネタ探しの姿勢にも共通点があるのかもしれません。その日その日の話のネタについて、「今日は何にしようか」と「ネタを見つける眼」で新聞やネット記事を探していると、面白いネタがいくつか見つかるものです。しかし、お昼の番組でネタ探しをしているAさんが面白いと思うネタと夕方の番組でネタ探しをしているBさんが面白いと思うネタがどうしても同じになってしまうんです。それは二人が「同じ探し方」をしていらからです。「ネタを見つける眼」で探しているから被ってしまうのです。例えば新聞なら、「今日のネタになる記事は何かないかな」と調べるよりも、本来は、普段から新聞にまんべんなく目を通しておいて、自分の中にネタをストックしておき、寝かせておくんです。そうして本番前に寝かせておいた無数のネタたちを起こしていけば、その無数のネタの中にバチコンとはまる「オレを連れてけ!」と主張しているネタがあるものなのです。いつ、どこで、何がネタになるかわからないから、普段から、情報をストックしておくのです。そうしておけば、仮にネタが被りそうになっても、切り口を変えることができます。同じサンマでも昼に塩焼きを食べたのなら、夜は刺身にしてみようかい、ということが可能になるのです。しかし、たかだか1番組の1ネタに対して普段から、いつ使うかわからんような情報をインプットしまくるのは非合理的だから、忙しい人ほど、ネタのためのネタ探しを合理的に済ますんです。そうすると、とうしても同じネタを扱うことも増えるわけです。それでも合理的に無駄なことは極力排して仕事するのが正しいのか、無駄なことを積み重ねて積み重ねて非合理的に仕事をするのが正しいのかはわかりません。非合理的にやってるからといって、いつも合理的仕事に勝るとも限りませんし、合理的な仕事をしたうえでネタ被りをしないことも可能でしょう。そもそもネタ被りがダメだと誰も思っていないかもしれません。

 では僕はラジオの仕事に携わる人間として、仕事にどのように取り組んでいるのか、といえば、そうです、一日中、ラジオを聴いているのです。「暇か」。

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