短編小説『白身魚フライのことは聞いてはいけない』
令和4年8月19日
台本を書いたり編集をしたり新聞をコピーしたりしているうちにお昼を過ぎた。唐揚げ弁当を食べるつもりでいつもの弁当屋へ行ったが、日替わり弁当の白身魚フライがオレを誘惑してきた。あの得体のしれない謎の魚。アジフライや鮭の塩焼きと一緒に白身魚フライが並んでいるのは奇妙なことだ。売読ヅァイアンシ3回表の攻撃は1番・涌井がヒットで出塁、2番・佐々木がバントで送り、3番・古川が三振、2死2塁でバッターは4番・中肉中背の白人、中肉中背の白人が初球ストレートをとらえると、白球はぐんぐん飛んでスタンドイン!さすがは売読ヅァイアンシ不動の4番です、中肉中背の白人!一気に試合を振り出しに戻しました!っていう試合中継に抱く違和感が白身魚フライには在るのだ。
子供の頃は白身魚フライのことを聞くのが禁句だった。いつ何をしても、学校でうんこを漏らしても、テストで0点をとっても、理科の実験で髪の毛を燃やしても、優しく微笑みかけてくれていた母が「白身魚フライって何の魚なの?」と聞いたときには、般若のような顔になり「二度とそのようなことをおっしゃってはなりません!」と言って思い切りビンタをされた。その夜、オレは頬が疼いてなかなか寝付かれず、布団のなかで芋虫のようになっていたら、襖越しに父と母の話し声が聞こえてきた。
「あなた、慎が今日、白身魚フライのことを聞いてきたわ」
「むむむ、あいつも、そういう年頃か」
「そんな暢気なことでは困ります!あなただってこれまで白身魚フライのことを探った人たちがどうなったかはご存知のはずでしょう」
「むろん、わかってはいるが、しかし、君に好奇心で少し質問してみることくらいは構わないではないか」
「いけません!そんな風にして若気の至りだと放っておいたから、川嶋さんのところの大輝くんも、高山さんのところのタカシちゃんも、みんな消されてしまったんじゃありませんか」
「しかし、たかだか白身魚フライでね」
そこまで言うと、ゴトンと音がして父の声がしなくなった。翌朝の母は、いつもの優しい母に戻っていた。朝ごはんは、鮭の塩焼きと納豆とお味噌汁と玉子焼きだった。「これは鮭、これは鮭、これは鮭・・・」オレは白身魚フライを食べるたび、どういうわけか、あの時の父のうわ言を思い出すのだ。「あれが鮭なら、これは何だ?これは何だ?何の魚だ?それを食べるオレは誰だ?」
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