江戸から紡ぐ #くらしのあと
先祖代々住み継いできた暮らしの場所。今回は、日光市稲荷町に住む高田さんの“くらしのあと”を覗いてみました。代々受け継がれてきた土地には、江戸時代からの武家屋敷、手入れの行き届いた庭と畑、そして樹齢370年にもなると言われる大きな大きな枝垂桜があります。この場所を守り、長年暮らしてきたからこそ見てきた風景、知っている物語を尋ねます。
□永い年月を重ねて、守り継ぐ
庭の角に鎮座する大きな大きな枝垂桜。幹は畝り、変形し、隣にはコウヤマキの大木が並びます。こんな立派な大木が地域に愛され、残り続けていくのは日々の手入れがあってこそ。葉が落ちる季節になると、毎日の庭掃除が欠かせません。
落ち葉は堆肥にして土に還して、また木の栄養になって葉に戻るのだそう。敷地の角に立ち、3方を舗装された路面に囲まれた桜には、必要な空気や栄養を敷地内の庭から与えなければいけません。桜にしっかりと栄養を届けるには、この庭の土づくりが肝。掃いた落ち葉は、捨てずにしっかり集め、じっくりと長い時間をかけて堆肥にして土に戻します。油分の多い葉は堆肥になりにくいので取り除いてあげたりと、細かいところにも気を使うそうです。桜に十分な栄養を与えるべく、庭では畑を耕し、土を循環させ、時には空気孔を設けて呼吸を助けます。こうして何世代もかけて桜を守り続けてきた結果が今ここにあります。
なんとか今の状態を保っているものの、高田さんの目に映る姿は年々弱り、近年では昔ほどの雄大な立ち姿はもう見れなくなってしまったと言います。
□桜は世間様からのお預かりもの(先祖の言い伝え)
山内にもコウヤマキの大木があります。ここにあるコウヤマキはその分身だと言い伝えられているそうです。木は想像以上に育ち、電柱・電線が通った際、邪魔になって切ることになってしまったそうです。
桜が散り始めると、路面に落ちた花びらを箒で掃いて集める。雨が降ると固まって道路にへばりついてしまうので、雨が降る前に掃き終えなければなりません。軽く集めただけでもゴミ袋2つ分。花びらや落ち葉の処理なんて、自然任せでいいのではないかと思ってしまいますが、敷地を越えて聳え立つ桜ですから、花見後の花弁・萼・さくらんぼの後始末、台風の後の落ちた枯れ枝の片付けなど、こうした周りへの配慮、細かな日々の気遣いがあるからこそ、地域に愛され、いまなお残っているのでしょう。
こうして何世代もかけてこの場所で、世間様からお預かりした大木を見守り続けています。
□時を重ねて暮らすこと
庭で採れた梅や大根を玄関先に並べて干す。小さな畑をじっくりとあれこれ手入れし、自分たちで育てたものを自分たちで食べる。この小さな敷地できっと先祖代々こうやって、暮らし方を受け継いできたに違いありません。
小さな高台のようになっている敷地には高低差があり、水路が流れる。先祖はこうした敷地内の地形を生かしながら、この場所で豊かに楽しく暮らそうと知恵を絞ってきたようです。
庭のあちこちには、四角く穴の開いた、苔に包まれた石が並べられています。はるか昔、東照宮造営の際、全国から集められた職人たちが仮小屋を作って稲荷町で作業をしたそうです。その時の礎石がここにもあります。
何世代もかけて江戸から育んできた日光門前での暮らしが今もここで受け継がれています。
語り手:日光市稲荷町 高田 博さん 聞き手:髙橋 広野
NPO法人日光門前まちづくりnote部|髙橋広野
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