【縦漫画原作】逆行してクセつよ家族に溺愛される闇患い《厨二病》公爵の娘は、強固な運命を砕きたい! 3話
第3話
■場面<逆行後:レピドの魔法研究所・近辺ー馬車前・昼間>
背後から、ザッザッっと土を踏む靴の音が鳴る。
怯えるターニャをかばうように、ラズが前に立つ。
ターニャやラズたちの前に現れたのは、ターニャの父シディアン。
ターニャはラズの背後から、シディアンの姿を覗き見る。
ターニャ(暗闇みたいに真っ黒な服…。このひと、さっき見たひとだ…)
シディアン「ほう…。我に立ち向かうとは、我の従属たる小さき風は勇ましいものだ。しかし…相手を違えるな」
ラズ「閣下! 失礼いたしました!」
ラズはシディアンに一礼をして、ターニャとシディアンの傍から離れた。
ラズ「お嬢さま、このお方が…お嬢さまのお父上。シディアン・イリディーセンシス公爵です」
真っ黒な衣装に威厳のある表情のシディアンを前に、圧倒されるターニャ。
ターニャ「あ…」
ターニャ(このひとが、わたしの…おとーさん?)
シディアンから鋭い視線で見つめられて、緊張するターニャ。
シディアン「……」
ターニャ「え…えっと…」
ターニャ(こ、このひと…こわい…! やっぱりおとーさんはわたしのことが、きら…)
ターニャが後ずさりしようとした瞬間、シディアンがターニャを抱きしめた。
シディアン「ターニャ…! 我が最愛の残した…最期の一片っ…! ようやく、ようやく巡り合えたぞ…!」
ターニャ「きゃっ!?」
シディアン「良かった…! もう二度と、顔を見ることは叶わぬのではないかと、そう思ったことが幾度あったことか…」
困惑するターニャに顔を摺り寄せて、シディアンがボロボロと泣き始める。
ターニャ「おとー…さん? わたしの?」
シディアン「…! ああ、そうだ。我が…私がお前の父だ! ターニャ!」
ターニャがラズへと振り返ると、彼は優しい笑みを向けて頷いた。
ターニャ(おとーさんはわたしのこと、嫌ってなかった…!)
ターニャは瞳を潤ませたあと、シディアンにぎゅっと抱きついてわんわんと泣き始めた。
ターニャ「おとーさん! わたしもっ…! わたしも会いたかったの…!」
シディアンがターニャをもう離さないと誓うように、ぎゅっと抱きしめて目を閉じる。
ターニャが零した涙が、スクロール先に落ちていく。
フェードアウトし、回想へ。
■場面<逆行後:レピドの魔法研究塔・昼間【回想】>
※2話目の、ターニャとラズが窓から飛び出そうとした場面の続き。
直前の場面で落ちた涙は、所々に継続して描く。
回想開始。回想中は背景は黒いまま。
窓から逃げ出そうとしたターニャを捕まえようと、蔦の魔法を使おうとしたレピド。
レピド「ルチル!!」
シディアンがターニャたちとレピドの間に滑り込んで蔦を切り、レピドに攻撃をしかける。
シディアン「待つのは貴様だ!」
レピド「邪魔をするな!」
シディアン「あの子は、ルチルなどと言う名ではない!!」
レピド「うるさい! ルチルを渡すものか!」
シディアン「相応しき場所へ返してもらおう!」
何度かの剣戟のあと、窓から飛び出すターニャを目にして隙が生まれるレピド。
レピド「ルチル!!」
シディアンに急所を突き刺され、血を吐く。
レピド「ぐっ…! お前…よくも…!」
シディアン「これで…貴様が我の片翼を捥いだ借りは、返したぞ!」
レピド「片翼…? はっ…なんのこと…だか…」
シディアンがレピドに止めを刺す。確実に死んだと思えるような、重症を負わせる。
深手を負ったレピドは窓に手を伸ばしたあと、動かなくなった。
レピドが手を伸ばした先に、一つ前の場面で落下したターニャの涙を描く。
手に涙が触れて、パキパキと結晶化する。
レピド「ルチル…。ぼくの…ルチ…。…………」
倒れるレピドを軽蔑の眼差しで睨みつけるシディアン。
シディアン「…最後まで、あの子を偽りの名で呼ぶか」
シディアン「仇敵を討ち果たし、我が一片を取り戻す…。この日が訪れるときを心待ちにしてのだが、あっけないものだ」
騎士副団長「閣下…」
シディアン「我々の奪われた尊き時間は、戻らぬのにな…」
騎士副団長「過去の時間は戻りませんが…取り戻されたターニャさまとの生活は、これからです」
ターニャの顔を思い出して、威厳に満ちたシディアンの顔が緩む。
シディアン「ああ、そうだな」
シディアンは気を取り直すと、周囲の騎士に指示を出した。
シディアン「この愚なる者の遺体を闇に捉えよ! そして、この塔を完全に制圧せよ!」
回想終了。
■場面<逆行後:移動中の馬車の外・夕方>
カラスが画面を横切り、カラスの黒さで背景をフェードインさせて背景色を通常に切り替える。
街道で走る馬車のそばを、カーカーという鳴き声をあげてカラス飛んでいる。
■場面<逆行後:移動中の馬車の中・夕方>
馬車内にはケープを被ったターニャ、シディアン、執事が座っている。
ターニャはシディアンの膝の上に座らされて、抱きかかえられている。
泣き疲れて寝ていたターニャが、カラスの鳴き声で起きた。
ターニャ「ん…」
ターニャは目を擦り、あたりをきょろきょろと見回す。
ターニャ(寝ちゃった…)
ターニャの頭上から、シディアンの声が聞こえる。
シディアン「…起きたか、我が可憐なる一片よ」
ターニャ「え?」
見上げたターニャは驚き、どうしたらいいものかと狼狽える。
ターニャ「え、あっ…えっと…?」
シディアン「しばし、我が腕の中で眠るが良い」
シディアンにぎゅっと抱きしめられたターニャは、温もりにほっとして落ち着く。
ターニャ「うん…」
ターニャ(あったかい…)
再びカラスがカーカーと鳴き声をあげる。
ターニャ(黒い鳥が飛んでる。空ってこんなに広いんだ…。巻き戻り前は、鳥も結晶になっていたから…)
ターニャ(ここはいいな…。あたたかくて、やさしい世界…)
逆行前の、ぼやけて見えるラズの回想。
回想ラズ『あなたがずっと、幸せでいられるような…』
ターニャ(これが、あのひとが言っていた幸せかな?)
馬車の窓から外を眺めるターニャに、シディアンがニヤリと笑って語り掛ける。
シディアン「ほう。これは吉兆だ。我が闇の眷族たる使い魔が、我が娘の前に広がる数多の可能性を祝福しているのだ!」
席の向かい側に座っていた執事が真顔で、シディアンにツッコミをする。
執事「一般的には不吉とされております」
シディアン「(咳払い)んんっ!」
シディアン「さて、我が一片よ。我より汝へ言霊を授けよう」
ターニャ「ことだま?」
執事「旦那さまからお嬢さまへお伝えする言葉があるそうです」
ターニャ「わたしに?」
執事「旦那さまの闇患い語は、一般人には意味が分かりかねます。ふつうにお話になられるのですから、おやめになった方が宜しいかと存じます」
シディアンをジト目で見る執事に、彼は厨二ではない素をさらけ出す。
シディアン「良いじゃないか別に!」
気を取り直したシディアンが、ターニャに熱く語り始める。
シディアン「汝は散々、あの男に虚偽を吹き込まれたようだが…汝は我が子。唯一無二の、我が娘なのだ」
シディアン「我が庇護下において、汝に幸溢れる未来を約束しよう!」
ターニャ「?」
首を傾げて執事に目で問いかけるターニャ。
執事「これまで旦那さまとターニャさまが一緒にいられなかった分…ターニャさまが旦那さまのもとで幸せな生活が送れるように手配いたします」
ターニャ「本当に…? わたしのこと、捨てたりしない?」
不安そうな表情のターニャに、シディアンが真剣で少し泣きそうな表情で答える。
シディアン「ずっと探し求めていた! 長い刻を経て、ようやく巡り合えたのだ! 捨てるわけがない!!」
ターニャ「いらない子じゃない…?」
シディアン「いる子だから、一緒にいてくれ…!」
ターニャ「ほんとう…?」
目じりに溜まりそうになった涙を拭ったシディアンが、今度は気取りながらしゃべり始める。
シディアン「良いか、ターニャ。お前の魂に刻まれし真名は、ターニャ! それ以外の何者でもない! 我が娘よ!」
ターニャ「わたしの名前はターニャ…! おとーさんの娘…!」
父の真似をして強い口調で言うターニャに、シディアンが嬉しそうな顔をする。
シディアン「お、おとーさん…!」
そのあと、シディアンは我に返ったように満足そうに頷く。
シディアン「ああ、そうだ! 我が最愛の一片、ターニャよ! その名を未来永劫、命尽きるまで、心に刻め!!」
ターニャ「うんっ!!」
ターニャ(わたしは、ルチルなんて名前なんかじゃ、ないんだ…!)
ターニャ(これからはわたし、ターニャとして幸せに生きる!)
■場面転換<逆行後:レピドの魔法研究塔・夕方>
倒れて死んだと思われていたレピドが、ぴくりと動く。
レピド「く…そ!」
研究所に残っていた騎士が、起き上がったレピドに気づき、取り押さえようとする。
騎士「なっ! こいつ、生き返っただと!? う、動くな!」
レピド「ちっ。鬱陶しい!」
レピドを取り押さえた騎士の手が、パキパキと音を立てて結晶化していく。
頭部はそのままで、スクロールで足元に向かうほど結晶化が進行している。
騎士「うわあああ!!」
全身が完全に結晶化した騎士を背後に、暗い眼差しをしたレピドが不気味に笑いながら、ふらりと立ち上がって口元の血を袖で拭う。
レピド「ふ…ふふふ…!」
もう片方の手で結晶を手に持ち、力を込めて握り締めるレピド。
バキバキと音を立てた結晶が砕けて、レピドが流した血と共にスクロールの先まで落ちて行く。
レピド「逃がさないよ…! ルチルはぼくのモノ…! ぼくだけの宝石なのだから…!」
(第3話・了/続く…)
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