双子兄さまの悪役令嬢女装? 大丈夫、破滅回避の主戦力だよ! ~深層反転の真偽編集者《バイナリィヱディタ》~ 第1話【漫画原作】
あらすじ
「兄さま、私のかわりに悪役令嬢になって!」
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したノワールは、ラスボスを目覚めさせる引き金となり、命を落とす運命にある。
自分が悪役令嬢を演じなければ、破滅は訪れない!と考えたノワールは、双子の片割れ(♂)キュリテと入れ替わることに!
しかし、キュリテも暗躍していて…?
果たして、フラグ乱立自爆系ブラコン女子とチート気味なシスコン男子の双子きょうだいは、『フラグ』を『反転』させて運命に立ち向かえるか!?
タイトル名ですらフラグな物語が、いま始まる!
第1話
「兄さま、私の代わりに悪役令嬢になりませんこと?」
「なにを言っているんだ、お前は。しかもいつもと口調違うのは、なんでなんだ?」
「お願いごとをするからには、丁寧な口調にしようかと思って?」
「なら、そこは丁寧語にするべきだろう?」
半目になった琥珀の瞳が私を見返す。
目の前で呆れた様子でいる銀髪の少年は、私の双子の兄さま。
「で? なんだって?」
「いままでずっと、私は悪役令嬢だって言っていたでしょう?」
「この世界は乙女ゲームの中だとか、しきりに言っていたあれのことか」
私とそっくりの顔なので自分で言うのもなんだけど、兄さまは誰が見ても美少年。
喋らなければどこか儚げな兄さまと違ってアホ面と言われることが多い私だけど、同じ顔なので私も美人さんと言うことには変わりはない!
「そうだよ!」
と言うわけで、私はそれなりに自信のある胸を張って見せる。
えっへん。
「私はこれまで、この世界が乙女ゲームだってことを証明してきたよね!」
「証明?」
何のことかと首を傾げる兄さまに向かって、ビシッと指差しする。
「ほら、色々予言したじゃない! これまでその通りになりかけて、二人でそれを回避したよね!」
「あー……。確かお前が『今日、この壺が割れて私たちが怒られる!』なんてことを言ったと思ったら、うっかり触って落としそうになったやつ?」
「うっ、それは……、そんなこともあったけど、結局はセーフだったよね!」
「間に合ったのは、俺がギリギリのところで受け止めたからなんだけどな」
「う、ぐぐ。で、でもあれが割れてたら、兄さまのせいになるところだったんだから!」
「どっちにしても、俺がフォローすることになるんじゃないか」
はっ、確かに!
いや、まだ諦めない!
私は呆れ顔の兄さまに続けて言った。
「ほ、ほかにもあるよね!!」
「そうだな……。確か婚約後初めてガイアスが家に来た日に、『今日ガイアスと会うと、階段から落ちて大怪我の予感がある』なんて言ってたやつか?」
ちなみにガイアスと言うのは、私の婚約者の名前。
「そう! 良く覚えてるね!」
「で、実際には、あいつから逃げるために裏の階段の手すりに座って一階まで滑り降りようとして、落ちて……。本当に、大怪我しそうになったな」
「ぐ……」
「あれ、かなり危なかったよな? 忘れるわけがないだろう」
「私の軽い怪我だけで済んだから、良いじゃないの!」
「まさか、あのとき俺がお前の下敷きになったこと、忘れてないだろうな」
「その節はありがとうございます……」
そのときは痛い思いをさせちゃったので、素直に謝るしかない。
「問題が起きたとき、ノワールは何も解決してないよな?」
「わかりますとも……!!」
ちなみにノワールは私の名前。
兄さまの名前はキュリテ。
「と言うことは、予言の証明は出来ていないな?」
「事象としては再現してるじゃにゃい!」
攻めて来る兄さまに圧倒されて、思わず噛んだ!
お前ダメな奴だな、ポンコツだな。みたいな生暖かい目で見られて悲しくなる。
「とにかく、私の予言によると」
「これまでのやらかしたことを振り返ると、あれは予言じゃない。予告だろう?」
このままじゃ小言が終わらない!
「とーにーかーく!」
話を聞いてー! と主張するために両手をバタバタと振る。
「はいはい。それで、次の予言では、俺は何に巻き込まれるんだ?」
「次にやるべきことは、女装だよ!」
「は?」
兄さまが一瞬フリーズした。
すぐに我に返ったけど。
「……なんだって?」
「兄さまが女装で私に変装して、破滅を回避するんだよ!」
大事な事なので、二度言いました。
私はじりじりと兄さまとの距離を詰めていく。
「一旦、落ち着け。いつの間にか手に持っているドレスとウィッグも下ろすこと。良いな? まさか俺に着せるつもりじゃないだろうな?」
「じー」
「そんな目で見られても俺は着ない。絶対に着ないからな!」
兄さまは、めちゃくちゃ警戒しているようだ。
私は、まわりこみたい!
「そもそも、なんで俺がお前の代わりをしなくちゃいけないんだ?」
「ほら、最近うわさがあるじゃない。しぇんせいじゅちゅしの予言」
うぐ、また噛んじゃった。
「ああ。お前の予言よりもよっぽど信憑性のある占星術師の予言」
私よりも呂律の良い兄さまが、嫌味のようにわざとっぽく発言しております。
「ぶーぶー」
私が頬をふくらませて不満を訴えると、兄さまが私の頬をふにふにと指で突きながら呟いた。
「占星術師の予言か……」
――間もなく闇に飲まれる世界を救うため、闇を払う白の神子を召喚する。
国が擁する占星術師が数か月前に告げた一言で、世間は大騒ぎになっていた。
最初は、世界が滅ぶと予言されてパニックになった人たちがいた。
だけど、世界を救う存在が現れると言うことで、ここのところは落ち着いている。
むしろ、盛り上がってるかも?
「で? その予言と女装に、どんな因果関係があると言うんだ」
「あるんだよ!」
私はそう断言して、左手の甲にある、うっすーーーい三日月型のアザを兄に見せた。
ちょっと中二っぽいポーズで!
ノリノリでポージングしたのに対して、兄さまはしかめっ面をしている。
「ノワール、忘れたのか? あまり人にそのアザを見せないようにと……」
「だって兄さまはアザのことを知っているんだから、見せたって良いでしょう。それに薄くて良く見えないんだし」
「どんなタイミングで悪意のある人間に見られるかわからない。普段から用心するんだ」
半ばあきらめ気味な溜め息をつく兄さま。
「はあ、しかし、そうか。いや、女装の意味はまったく分からないが、占星術師の予言とそのアザが関係するのは分かった」
「うんうん!」
理解の早い兄で私は嬉しい!
「ノワールの自爆系予言に関係なく、他人にそのアザが見られることには問題があるな」
「ちょっ、自爆なんてしてないもん!」
「自覚がないのか? ノワールの予言は、一人で勝手に騒いだと思ったら俺を巻き込んで沈没していくやつが多いんだ。気づいてないことは、ないよな?」
「う。いやほら、そこはあれ、私と兄さまは双子だし、一心同体で以心伝心だから、兄さまが巻き込まれるのは当然であって……」
「さすがにそれはない」
手厳しい兄で私は悲しい……。
さて、突然だが説明しよう!
私が転生したのは乙女ゲーム!
なんと、剣と魔法のファンタジーRPGの世界だった!
これは厨二の血が騒ぎますね……!
……でも、魔法は一部の人物しか使えない。
シナリオの導入は、占い師の予言から始まる。
簡単にまとめると、こう。
――遠くない未来、世界は「闇の因子」で溢れる。
そうした世界で人々は、「闇の因子」に囚われ、我を見失ってしまう。
――いわゆる闇落ちですね。わかります――
そうして世界に「闇の因子」が溢れると、やがては「闇の根源」が目覚め、世界を滅ぼす。
しかし希望はある。
すべてを束ねる「神子」とその使者たちが、「闇の根源」を浄化することが出来るからだ――
……と、ざっくりとこんな感じ。
そんなわけで占い師は、光を束ねて闇を払う「白の神子」と呼ばれる少女を異世界から召喚する。
「白の神子」と共に闇に立ち向かう使者は三人。
彼らは使者の証として左手の甲にアザを持ち、それぞれの属性の魔法を操ることが出来る。
「神子」は彼らと想いを通わせることで、使者の力を借り受けることが出来る。
そうやって「白の神子」と使者たちは協力して、「闇の因子」に囚われた人々や「闇の根源」を浄化する。
もちろん乙女ゲームのヒロインが、「白の神子」。
そして、攻略対象は三人の使者。
そして今は、ゲーム開始前。
それじゃ私は、何故悪役令嬢なのか?
ゲーム中で「白の神子」と敵対することになる、闇を司り「闇の根源」を目覚めさせるきっかけとなる「黒の神子」と言う悪役が、ノワール。
つまり、私なのだー!
さっき兄さまに見せびらかしたら隠すように言われた、このじーっと見ないと良く見えないアザが「黒の神子」の証。
シナリオでは中盤で「闇の因子」が活発になり始めてから、占い師によって「黒の神子」の存在が明らかになる。
実際にも今のところ「黒の神子」の話は、身内でしか出てきてない話題。
だけど、もし知られでもしたら大変なことになる。
だから兄さまは、私にアザを隠すようにいつも言っているんだ。
と言っても、小さい頃は母さまたちには、よくあるごっこ遊びに思われていたみたい。
それが「白の神子」の予言が出始めた最近になってようやく、「知られたらまずいやつじゃないか?」って思い始めて来た様子。
さてさて。
そんな悪役令嬢は、例に漏れず各攻略キャラのルートに入ると、彼らから婚約破棄されたり裏切られたりする。
その結果、ノワールは「黒の神子」としての力に目覚め、ヒロインたちの前に立ちはだかるのだ!
ラスボスの一つ前のボスなので、中ボスとして!
四天王の中でも最強のやつかな!
四天王なんていないけど。
ラスボスは、予言にも出てくる「闇の根源」。
「黒の神子」が絶望したり命を落としたり、色んな原因で最終的に「闇の因子」が世界に溢れてしまうと「闇の根源」が目覚める。
今さらっと言ったけど、このタイミングでノワールが死んだりするからね!
対する「白の神子」は「闇の根源」の目覚めを阻止、あるいは浄化するのが最終的な使命になる。
そして攻略対象との恋愛を達成させる! させないルートもある! ガードは出来る!
そしてそして!
一番放っておけないのがこれ!!
ゲーム中だと各攻略キャラのエピローグでさり気なく暴露される程度なんだけど、ノワールが死ぬと!
双子の片割れが、必ず! 命を落とす!!
これ重要!
めっちゃ重要だからね!!
だってそれって、私が死ぬと兄さまもろともってことだもん!
迂闊に死ねないよ、死ぬ気はないけど!
……と言っても。
私の破滅フラグについてはさんざん兄さまに語っているけど、実は兄さまが巻き添えになることまでは言ってない。
だって、よりによって私が死ぬときは兄さまも一緒なんだよ? とか言えるわけないし……。
双子だし運命共同体だね、とか仲が良いね、とかって言うレベルじゃないよ。
こんなんじゃ死神だよ、私……。
でも最終的には、私が私の破滅を回避すれば、兄さまの死も回避できる!
なので、わざわざ兄さまを不安にさせることもない。
だから、私がやることは決まっている。
攻略キャラルートでの破滅を回避すること。
黒の神子としての力を覚醒させないこと。
そして、決して死んではいけない、こと。
大丈夫、キュリテは私が死なせないからね!
「それで、俺に女装させて、お前が良く言う破滅を回避したいって?」
「そうなの! 例えば私の婚約者でかつ攻略対象の一人、ガイアスルートだと、こう!」
「いや、散々聞かされたし知ってるんだけど……」
兄さまには英才教育を施し済みである、まる。
そんな兄さまのツッコミはさておき、私は説明を続けた。
「婚約者と白の神子の仲が良くなったことが許せなくて、悪役令嬢ノワールは嫉妬に狂って黒の神子としての力に目覚めるの! その力を使って白の神子たちを襲おうとするんだけど、逆に退治されたノワールは生涯幽閉されることになるんだけど、孤独に耐えきれなくなってじっ……破滅するんだよ」
破滅の直前までは息継ぎしないで説明したよ、どうだっ!
噛まずに言えた!
前に同じ説明をしたときに「自殺する」って言ったら、すごい剣幕で怒られたのを思い出して言い直した。
今は微妙に睨まれてるのでちょっとアウトだけど、まだ怒られてないからセーフセーフ。
ちなみに今言ったルートだと、ノワールが自殺することによって黒の根源が目覚めてしまう。
「ノワールはお前だろう、なんでそんなに他人事のようにイキイキと……。そもそもお前、婚約者に見向きもしてないじゃないか」
「それも破滅回避計画の内だよ! どう? すごいでしょう?」
それなりに育っている私の胸を張ってみせる。
兄さまは綺麗な顔に微妙な表情を浮かべていた。
「そもそも将来ガイアスルートに行くことがあるとしても、あまりの放置プレイに時折あいつが哀れになるくらいなんだが……。まあ構うと調子に乗るから、これぐらいが良いのかもしれないが……」
浮気するような相手に憐れみを感じる必要なんてありませんー!
実際のガイアスは、まだ浮気してないけど。
だって白の神子ちゃんはまだ召喚されていないし。
「そんな状況で、お前が嫉妬に狂うとか考えられないんだが……」
「油断は禁物!」
「俺はそれを、お前のアザに対して言いたい」
「ぐっ」
ぐうの音も出ない。出たけど。
「それなら、嫉妬のしようがないガイアスルート以外なら、問題ないだろう?」
「それもダメなの! どのルートも最終的にノワールは白の神子と敵対するの」
「なんでだよ、黒の神子だから? 面倒くさいやつだな、ノワールってやつは」
「私のことだけど、私じゃないから私に文句言わないでよ!」
「本当にそう思う。いつも聞いてる限りじゃポンコツなお前と性格が違うだろう? 完全に別人の話してるな、これは」
「ポンコツ言わない! とにかく!」
ごほん。と一つ咳払い。
「白の神子と私が関わるとロクなことにならなさそうだから、兄さまと私とで入れ替わってフラグを回避しよう! と言うのがこの『キュリテ兄さま美少女化計画』、略して!!!」
商品を紹介するような感じで、さっき下げさせられたウィッグと衣装を手に取って見せる私。
「ぱんぱかぱーん!! 『キュリテ姉さま計画』の趣旨でございます!!」
「ね、え……さま?」
ふふふーん。
一度兄さまを女装させてみたかったんだよねー!
それで「姉さまー!」って言って沢山甘えたかったんだー!!
女の子の格好した兄さま、もとい姉さまは絶対にきれいでしょう!
これは間違いありません! ふふふー!
呟いたまま目を見開いて呆然としていた兄さまが我に返った。
「ちょっと待て。なんだその計画名。目的と手段が逆になってないか!?」
「そんなことないものー! 一石二鳥なんだもーん。趣味と実益を兼ねるんだもーん!」
「ノワールはどうしてこんなに欲望に忠実に育ってしまったんだろう。悪役令嬢、黒の神子の宿命? いやそんなバカな」
ぶつぶつと呟く兄さまの胸元にぐいぐい衣装とウィッグを押し付けると、嫌そうな表情で押し返された。
でもそんな表情もなんか可愛い! いいよね!
この顔が女装すると思うとたまりませんね!
可愛くて、ぎゅーって抱きしめたくなるよね!
「こういうときだけ以心伝心って思うんだよ」
「え?」
おっと。どうやら興奮が顔に出ていた様子。
疲れた様子で兄さまは溜め息をついていた。
「女装の件はいったん置いておこう」
「えー。ぶーぶーぶー!」
「えーって言いたいのはこっちだ、まったく。なんでそこまでして俺に女装させたいんだか……」
「そこにロマンがあるからだよ!」
「どんなだ」
兄さまがふかーく溜め息をついた。
「まあいい。気になることがあるんだが、その乙女ゲームで俺はどんな役割なんだ?」
「えっ?」
「いや、破滅を回避するんだろう? 俺が破滅の要因になることはないのかと思ったんだ」
どちらかと言うと、ノワールの破滅フラグのせいで巻き添えを食らった上に兄さまが死にます。
なんて言えない!
そう言えば、さっき兄さまに良く巻き込まれるって言われたばっかりだったし!
「それで、俺の役割は?」
「悪役令嬢の双子の片割れだよ!」
「それだけ?」
「それだけ!」
「本当に?」
なんでこんなしつこいの!?
「本当の本当! 雑魚のモブ!」
「双子の片割れが黒の神子と言う特殊な環境。それなのに、本当に何もないと?」
その上、攻略キャラみたいに美形だしね!
何もないわけじゃないけど、兄さまも死んじゃうなんて気軽に言えるわけないじゃない!
「……俺が変に動いたことで、お前の破滅フラグが変に立ったりしないのか?」
「……うーん? 大丈夫じゃない? たぶん」
「……そう、か」
でも、兄さまが気になるのももっともかも。
黒の神子の双子の片割れと言う、単語だけなら重要なポジションにいるくせに、なんでそんな情けない末路を迎える役柄なんだろう?
いやだって、各キャラの攻略ルートで友人役としてちょこっと出てくる程度なんだよ?
目の前の兄さまと、出番の少ないゲームのキュリテが同じ性格かどうかなんてわからない。
でも、それでも私の兄さまが悪運に巻き込まれて情けなく死んでしまうなんて、考えられない。
要領良いから、うまいことトラブルを避けられそうなのにね。
うーん? なんだろう……。
私、何か、見落としてる?
兄さまが私のことを、「ガイアスに嫉妬しないだろう」って言ってくれたのと同じくらいに、違和感があるかも。
「少し、考える」
兄さまが私の頭をぽん、と優しく叩いた。
兄さまはいつも手袋をしているから、髪の毛を触られる感覚がなんかちょっと不思議。
「えっ?」
「いや、女装のことじゃない。お前の破滅を回避する方法のことだ。少し考えるから待ってほしい」
「に、にいさま……!」
「いいか、間違っても早まるなよ! いいな! 絶対だからな!!」
「うん!!」
分かりました、兄さま!
それって押すな押すなってことですよね!
「ちょ、本当にわかってるのか?!」
つまり、もっと強い力で押せってことですよね!
わかります!!
このノワール、自信をもって強くプッシュさせていただきましょう!
「その顔、絶対に分かってないだろ!!」
(第1話・了/第2話へ続く)
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