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桃井佐予は想いを隠す

12月14日にこれを書いているわけですが、もしかしたらこれがあがるのは15日なのかもしれない。そうなると、稽古が残すところあと一日、という日なわけです。

桃井佐予。それは12月公演で神田緋那さん(空チーム)、古川結衣さん(海チーム)が演じる役の名前です。桃井というのは、まさに今日が誕生日でもある「桃井はるこ」さんから名字を頂きました。ご存じない方はググってみてください。

前回公演では「浮島沙弥」という名前のキャラが出ていましたが、今回は「佐予」です。どことなく古くもあり、新しくもある名前。

研究所には「被験者」と「それ以外」が居り、「それ以外」の一人である佐予は普通の研究者。つまりは不老の薬を飲んでいないので老いもする。

副作用もあるため、被験者の中で命を落とす者もいただろう。その度に葛藤をしたかもしれない。苦しさのあまり発狂し、研究施設を飛び出したものもいただろう。しかし外に飛び出していった被験者を連れ帰る、死体を回収するのも彼女たちのような研究者の仕事であった。

死体を運ぶ車の中で彼女は何を思っただろうか。自由を求めて飛び出した被験者を、死体となった状態で連れ帰る道すがら、窓の外を見ながら何を見つめ、何を考えたのだろうか。対向車線には車すらいないような道で。

不図、大空に視線を遣れば鳥が気持ちよさそうに流れるように飛んでいる。それを見て、彼ら、逃げ出したものは、もしかしたら鳥になりたいと思ったのかしら、という幻想を抱く。死んでしまった彼らから、どうして出たいと思ったのかなどと聞いても返事はない。霊安室で、君は鳥になりたかったのか、あの大空を、自由に飛び回りたかったのか、と問うても、答えはない。それは絶対的な死だからである。

研究所に勤めてまだ数年しか経っていないと思われるが、その中でも彼女の経験は深く、辛く、悲哀に満ちていた。たったの3年、5年が50年60年と感じるぐらいに。

そんな彼女にも小日向美舞という後輩ができる。まるで自分が経験、感じたこと、葛藤を、なぞるように美舞も研究所の生活に苦悩していた。それを見て、そっと手を差し伸べることは簡単だった。しかし佐予はそれをしない。見守る。自分がされたからそうしているのではない。彼女は美舞の心に触れて、その背景に触れて、自身で気づき、前進できる人間だと信じたからこそ、見守る決心をしたのだ。

優しくすることだけが優しさではないと佐予は知っている。敢えて嫌われるような立ち位置に行こうとする不器用な面もあり、言動に難があるところもあるが、憎まれるようなタイプではないし、嫌われるようなこともない。

後輩の美舞の成長を見ていることが最近では楽しみでもあり、寂しくもあり、しかしその成長自体が巡って佐予自身の成長、変化を促すことになることをきっといつか、彼女は知ることになるだろう。しかしそれはまた別の物語。また機会があればその時に。

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