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鍵がない(2010/01/15)
去年の暮れに
部屋の鍵をやっと新しいのに取り替えたのでめでたくここに公開するのですが、
実はわたし、まる1年ほど、玄関のドアを施錠せずに過ごしていました。
虚言でも誇張でもなく、リアルに「鍵がなかった」のでその男は外出するときに鍵をかけなかったと言う。
もの忘れが重なり、スペアキーを次々に紛失して、
オリジナルキーだけになり、すぐにスペアを作っておかないといけなかったのに
「そのうち、そのうち・・・」と思っているうち男は最後の一本までも無くしてしまったと言う。
「まあ、いいか」男はそう思ったという。
まったくもって、ものをなくす事にかけては非凡な才能をもっている。とか、笑い事じゃないよ。空き巣にでも入られたらどうするつもりだったんでしょうね??
もちろん、就寝中に寝首をかかれるのはさすがに嫌な気がしたので自分が部屋に居るときはドアをロックしていたものの、部屋を出るときにロックしようという気が起きなかったらしい。
ちょうどその頃、仕事では要職を追われ、自転車もなくし(役所から撤去ハガキが来なかったのでたぶん盗難かな)、当時唯一の財産といえる自動車は売却を余儀なくされ、いろんなものを失ってでも付き合いたかった異性とはもう押しても引いてもどうしようもない状態になり。
最後に、オリジナルキーを無くしたときに
本当にどうするつもりも起きなかったと言うか、
「もう盗られるものなんて、何もないし。
どうにかしたいなら、すればいいんじゃん?」
というのが正直な気持ちだった。
もちろん冷静に考えると「盗られるものなんて何もない」わけはなく、通帳やら印鑑やら株の取引ができるパソコンやらが無造作に置いてあるわけで
そういう部屋を誰でも入れる状態にしておくというのは、ちょっと尋常じゃないというか正気の沙汰ではない事は頭では理解できるんですが、
慣れというのは怖いもので
1週間たち、1ヶ月がたつ頃には「俺の部屋のドアは空いているのがデフォルト」になり。
さすがに、その事をここで公開するのはまずい、
というブレーキはかかっていたのですが
「不動産屋に連絡して、鍵を取り替える」という
たったそれだけの常識的な対応(そして安全上、とても大切な対応)が心に重々しく、わずらわしく、大した意味をもたない事に思えてあっと言う間に1年が経ちました。
あと、情状酌量(と書いていいわけ)的に言うなら
僕、不動産屋には「高橋さん(結婚後の名字=妻の姓)」って呼ばれてたんです。
正式に離婚が成立する前に契約した部屋なので契約書上のぼくは「高橋さん」なわけです
誰それ?
思い出したくも無い
ってか俺、高橋さんじゃねえし
もちろん、所定の手続きをおこなえば
ちゃんと現在の(もとの)苗字で呼んでもらえる事は分かっていたのですが
もとの苗字に戻った俺には未来がなくて
あの日いきなりブチッと断ち切られたままの仮の「今日」しかなくて
その今日は、どこにも何にもつながっていない、
男のセンチメンタルなんて石で出来たでかい硬貨のようなもので
そんなものに誰も見向きもしないし、何とも交換してくれやしない
そう理性で理解してはいるつもりなのですが
それでも仮の「今日」しかない僕が
そんな社会的な手続きを踏む事になんの意味も見出せない、
そんな気持ちだったんですよう、と吐露したところで、ねえ。
だけども問題は僕の部屋 鍵がない
行かなくちゃ 君に逢いに行かなくちゃ
僕の部屋には鍵がないから 君に逢いに行かなくちゃ
なんてね。
「傘がない」井上陽水
https://m.youtube.com/watch?v=njmeNPymPrE&pp=ygUe44CM5YKY44GM44Gq44GE44CN5LqV5LiK6Zm95rC0