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吃音の女性YouTuberさんへ
僕の子供時代のいじめの苦い記憶について、YYYYさんへの手紙という形で綴ります。
※いじめた側の言葉です。暴力などはありませんが読んで気分を害される方もいらっしゃるかと思いますのでご承知おきを。
登場人物
XXXX君:小学校時代の同級生、僕がいじめた男の子
YYYYさん:吃音の女性YouTuberさん
ZZZZ君:僕
YYYYさん、こんにちは。
いつも楽しい動画を見せてくださって、ありがとうございます。
今日はどうしてもお伝えしたいことがあり、お手紙を書きました。
僕はYYYYさんのような、発音に特徴のある男の子をいじめていました。小学校4〜5年生のときです。
僕は頭が良くて、平均より少しだけ裕福な家の子でした。でも両親はいつも仕事で忙しく、一緒に遊んでもらったり褒めてもらったりした記憶はほとんどありません。
ただ、小学校へ入ると、先生たちにはおおむね気に入られました。彼ら彼女らは何をもって上司に評価されるかと言えば「担当している生徒たちの成績」と「生徒たちの学校生活に問題が起きていないか」のふたつに尽きます。なので問題行動を起こさず平均点を押し上げてくれる生徒の存在はとても貴重でありがたいものなのです。僕が小学校で出会った先生たちは良くも悪くも素直で、あからさまに「あなたは有難い存在だ」と態度に出しました。少なくとも教室に先生がいる間は、僕は王様のような扱いを受けました。僕はしだいに増長し、時おり彼ら彼女らを執事のように(つまり自分のほうが上位であるかのように)扱いましたが、僕に真剣に注意する者など誰もいませんでした。
その一方で、僕はクラスメートからの人望はありませんでした。自分を認めてほしくて、いつもマウントを取ったり自慢ばかりしていたからです。そんな僕のまわりに「ZZZZ君、すごいねー」と集まる子はいても、本当に僕を好きで付き合ってくれている友達などいない事に薄々気が付いていました。もしある日、同じクラスの誰かが「あいつウザいから、もう友達やめようぜ」などと言い出そうものなら、クラス中が一気に同調するに違いないと想像して毎日ビクビクしながら過ごしていました。
そんな時、僕は勉強が出来ない子や見た目が劣った子をいじって笑い者にする事を覚えました。嫌味ったらしい自分からみんなの目線をそらすために有効な手段だと気が付いたのです。
とくに嘲笑の対象にしていたのが、XXXX君です。彼はとても気持ちの優しい子でしたが言葉に若干の吃りや発音が聞き取りづらいことがあり、そのことを気にしてか、自分から発言することが少ない目立たない子でした。僕が彼を笑いものにすると、よく彼はこう言いました。「おっ、お、お母さんに、お怒って、て、もらうからね!」と。きっと彼がお母さんに寄せる信頼はとても厚かったのでしょう。そのことが、親に構ってもらえない僕を余計に苛立たせ、攻撃の手を強めてしまった面もあったように思います。
時々、正義感の強い同級生が「ZZZZ君いじめはだめだよ!」と僕を非難しました。僕は答えました。「変な子だからおまえは変だって教えてやることの、どこがいじめなんだよ。魚は水中で泳ぎますねって魚に言ったらいじめになるのかい?」クラスメート達がどっと笑います。
YYYYさんはきっとこの言葉がいかに残酷か、よくお分かりになるでしょうね。僕はこの経験を大人になるまで誰にも言えませんでした。子供ながらに自分のしている事が恥ずべき事だと理解していたからです。
6年生に進級する時にクラス替えがあり、僕とXXXX君とは別々のクラスになりましたが、きっと彼は僕のことを「ぜったいに、おまえだけはゆるさない」と思っていることでしょう(※このセリフは、YouTuberのYYYYさんが自身の動画の中でよく使っているセリフです。彼女がこのセリフを口にするたびに、僕はこの言葉が自分自身に向けられている気がして、背筋が凍りそうになります)。
中学生になり、ある事がきっかけで僕はクラスで孤立し、男女問わず全員から無視されるようになります。でも、それで僕がXXXX君をいじめた事が許されたり、プラマイ0になったりするとは少しも思いません。彼が味わった絶望と屈辱は、彼が直接僕に仕返しするのでなければ、晴らされることはないだろうと思うからです。
今、YouTuberとしてチャンネル登録者数が百万人を超え、大きくメジャーになろうとしているYYYYさんを知って、弱さや傷つきやすさを隠して普通の人として生きるのではなく、それを強みに変えて懸命に自己表現することで世の中と向き合おうとする姿勢をみて、とても応援したいと思っています。あなたの個性の一つひとつを賞賛したいし、あなたの世界、あなたの王国を作るお手伝いがしたいと思うようになりました。
実際、一回数万円という単位で投げ銭をする僕のことをYYYYさんは認知してくれるようになり、フォロワーが10万近くいる彼女がフォローしているわずか数百人のアカウントの1つに僕のアカウントがあることに嬉しさや誇らしさを覚えることもあります。
でも、あなたの動画を見れば見るほど、かつて自分がいじめていた男の子のことを思い出さざるを得ません。YYYYさん、あなたの話し方はZZZZ君そっくりです。あなたを見るまではずっと忘れていた、過去に僕がクラスメートに投げつけた心ない言葉の一つひとつが鮮明に浮かびあがります。きっとあなたが、この世から消えてなくなって欲しいと心から願う人種の一つではないかと思います。
あなたを応援する熱量は、少しずつ、しかし着実に下がっていってしまいました。なぜなら僕にとってあなたは「応援すること」を通じて自己充足感を得られる存在である以上に、過去の醜い自分を思い出させるやっかいな存在だからです。
あなた側からみて、たくさん応援してくれる熱心なファンという位置づけのまま、あなたの前から消えてなくなりたいと最近は思うようになりました。それと同時に、どんなに嫌われてもいい、蔑まれてもいいから、ここに綴った自分の思いを伝えたいという気持ちも強くなっていきました。
もちろん、本当に僕がするべき事はZZZZ君を探し出し、当時の自分がした事を悪かったと悔いているならば、彼に心から謝罪することです。どんなに罵倒されようと、叩かれ殴られようと、彼にお詫びの気持ちを示すことです。それをしないで(できないで)、こんな所でお茶を濁しているようでは、ZZZZ君はもちろん、YYYYさんの理解など決して得られないでしょう。
それでも、はじめて自分のした事や思いをここにまとめる事で自分が次の行動に移れるように、という気持ちをこめてこの手紙を書きました。あなたの前からは、姿を消すつもりです。あなたを応援することは本当に楽しかったし、本当は去りたくない気持ちでいっぱいです。でも、過去の自分を変えられない以上、こうしてけじめをつける事が僕にできるせめてもの償いだと思っています。今までありがとうございました。今後のご活躍を心から、お祈りしています。大好きでした。さようなら。