「ダイナモ人」が未来への鍵を握る理由(1)
一般社団法人知識創造プリンシプルコンソーシアム(KCPC:Knowledge Creation Principle Consortium)という組織を国内外の有志と立ち上げることになりました。KCPCの最初の活動として昨秋シンポジウムを開催しました(2021年11月24日)。野中郁次郎一橋大学名誉教授の基調レクチャーからはじまって、パネルと報告が行われましたが、大変盛況でした。KCPCではこれに先立ってネット調査(ナレッジワーカー、N=487)を行いました(※調査のモデルは末尾に)。このノートはその調査に基づいています。テーマは「ダイナモ人」です。
ダイナモ人とは?
日本企業の元気がないと言われて久しいです。しかし企業だけに問題を絞るのでなく、社会と個人との繋がりのなかで、(生態系的に)この問題を考える必要があるのではないかと思っています。いま、幸福(ハッピネス)を求めたり、社会的な意識を持って生きようとする人々が多い。しかし一方で、企業や社会はなかなか変わっていかないと感じている人も多いのでは。苛立ちや恐怖が幸福志向の背景にあるのではないかと思います。
社会に属する個人として社会の変化をポジティブに取り込んで生きることと、企業が社会的な変化に応じて「遷移」(transition)していくことは、相互作用だと考えます。そして、両者がともに変わっていくには、共通する新たな原理や原則、倫理観、根本の考え方の変化が望まれるのではないでしょうか。それが「プリンシプル」を掲げる理由です。
企業は、社会的な意義や価値のある時代の変化や機会など、将来の「善」に向けて活動していくべきであるし、働く・関わる人々(社員、パートナー、顧客)も、本来ありたい姿を活動の前提にしたいと願っているのではないでしょうか。こういった原動力や創造性にもとづく人と組織を、私たち(KCPC)は「ダイナモ人」と「ダイナモ組織」と名づけ、両者が共に変わっていくことを「ダイナモ革新」(Dynamo Revolution)と呼びます。
目的に基づく個人があってこその目的経営
調査でも示されていますが、人々はおおよそ何かしらの目的を持っています。その状態は望ましいことです。そこで「目的に基づく経営」の重要性が叫ばれています(だいぶ前の本ですが目的工学なども参照してください)。が、個々人の目的が実現できる場は自ら生み出せているでしょうか?
今回の調査でも、下の表左にあるように、日頃の自分(ムード)を振り返ってみたとき、目的をそれなりに持っているのは4分の3ほどですが(円グラフ)、自分が「本当にやりたいことに時間が割けている」という人は3%にしかすぎません(表右)。なかなか自分のやりたいことをしたり壁を超えたり、対立を乗り越えていくのは難しいと感じているのです(この調査項目は知識創造経営プリンシプルに基づく個人の行動様式を聞いたものです)。
KCPCは『ダイナモ人を呼び起こせ』(2020)で、働く人々を、ダイナモ、クルーザーやルーザーを合わせた3つのカテゴリーで見てきました。自分らしく前向きに自己成長していける人を「ダイナモ人」と呼びます。彼らは日頃の仕事や生活において自律的に生きている人です。試行錯誤を躊躇わず可能性を信じ領域を超えていこうとする。今回の調査でもその3つに分類しています。
しかし、後編でも示しますが、ダイナモ人は特定の性格をもっていたりこれまでと違うタイプなのではなく、自らその価値観を意識しているという内発的な要因と、組織がダイナモ人を受け入れる場や機会を用意している、という外部要因が揃っていることによってその存在や活躍が明らかになる人たちです。
ダイナモ、クルーザー、ルーザー
ダイナモはクルーザーやルーザーとどう違うのでしょうか。ダイナモ人は「今の状況に感謝している」というポジティブなマインドセットが他の2カテゴリーより高い。反対にルーザーは「毎日が苦しい、うまくいっていない」と感じている層です。全体でみると、3割がそんなふうに感じている。マジョリティ(約4割)は「それなりにやっている人」たち(クルーザー)です。
知識創造するダイナモ
もちろんダイナモ人は日々に「感謝」している傾向が強い、つまりハッピネス度も高い。しかしそれだけでなく、ダイナモは、組織の中での知識創造が活発なんです。いわゆるSECIモデル(知識創造活動)でみても、とくに暗黙知から形式知への変換(E)が高い。つまり新たなアイデアを産んでいる。知識創造はイノベーション(経営)の根底にあるものです。これからのイノベーションの時代にダイナモは欠かせない人々だといえます。
ダイナモ型組織がダイナモ人を生む
次に下の表にあるような9項目で会社(組織)のダイナモ度を聞いてみました。
個人の場合と同じような質問(組織のムード)を聞いています。全体としてみたときに、①多様な繋がりを生む場がある、②経営判断は常に未来優先、③思いをぶつける場がある、などのポイントが非常に低いことが指摘されます。
組織に関しても、ダイナモ型、クルーザー型、ルーザー型の3つのカテゴリーに分けてみました。3つの企業カテゴリーごとにサンプルを分けて、それぞれに「個」としてのダイナモ人がどれくらい分布しているかをみてみると、"ダイナモ組織でないとダイナモが生息しない"こと(クルーザー型・ルーザー組織にはダイナモが1割未満しかいない)がわかります(下図)。
実はダイナモはクルーザーやルーザーと大きく違うようですが、彼らとは紙一重です。ダイナモ人は特異な人々ではなく、ダイナモ組織という場によって顕在化する、共生するといえます。
ダイナモ組織である必要はあるのか?
ところで、「うちはダイナモ組織でなくても問題ない」という経営者だっているでしょう。「会社で自己実現なんか不要だ」という意見もあるでしょう。しかし、ダイナモ組織にはそれなりにメリットがあるように見えます(下図)。もちろんメリットは売上や利益だけではありません。しかし、単に個々人が社会志向やハッピネスを追求するだけでなく、会社もダイナモたるべく変化を求められるでしょう。個々人の「健康度」と組織の「衛生度」が関連しあっているのです。
知識創造経営のプリンシプル
こういったダイナモ組織の背後には、知識社会経済にふさわしい組織の行動原理、倫理などがあると私たちは考えています。それは知識創造経営のプリンシプルによって示すことができます。6つのPのうち、骨になるのは目的、共感、場、視点の4Pです。
ダイナモ組織はすでに挙げたように①知識創造の度合いが高く、下表に見えるように、②ダイバーシティ(個々の問題意識、オープンで多様な場)、③実践的判断(高い判断力)、④自分事(目的)、⑤長期的視座(未来視座)などのプリンシプルが共有されている組織だといえます。
KCPCでは今後、ダイナモ人とダイナモ組織を増やす活動をしていく予定です。
①知識創造プリンシプルのグローバルネットワーク
②ダイナモ人経営者と個人の交流の場
③ダイナモ人育成プログラム
④ダイナモ組織革新プログラム(アセスメント、チェンジマネジメント加速)
※本調査は下図のようなモデルに沿って行われました。知識創造プリンシプルに基づくことで個人・組織の行動や意識が高まる。ムードが変わる。それがよりよい状態をもたらす、と考えています。
(続く)