【Howto】基礎スキー論考:ひねりについて
2023年春からつづいたエルニーニョ現象が継続するとの予報がドンピシャで当たり、近年まれにみる小雪から始まった23‐24シーズン。最終的には3月にまとまった雪が降ったが、多くのスキー場が小雪に悩まされ、早めに営業終了をするところも多かった。
そんな今シーズンは、自分にとって大幅に技術の改変があったシーズンであった。これまでに自分の引き出しに入っていた動きではあったが、それを正しく使えていなかった。その動きをうまく理解しなおし、改変することで実際に成績も伸びた。
今回はその動き要素について、自分の認識の再確認もかねて説明していきたい。
はじめに
自分は趣味として基礎スキーをやっているただの一般人だ。技術選などの大会に出てはいるが、特に指導資格などを持っているわけではない。大学からスキーを始めた下手の物好きだ。この記事は、そんな頭でっかちスキーヤーである自分の、あくまで一個人の意見として参考にしていただきたい。
答えは「ひねり」だった
これまで、さまざまな動きの要素を自分の滑りに取り入れてきたが、今一つしっくりきていなかった。
そんななか、今シーズンの初めから本格的に滑りに組み込み、最終的に滑りの核心となった動きこそ、「ひねり」である。
実際、ひねり動作をこれまでしていなかったわけではない。むしろ学生の頃はひねり動作が過多で、かえって近年はひねり動作を抑えようとしていたくらいである。
ただ今シーズンに入り、あるスキー関係のノウハウ動画をYoutubeで発見した。それがこの動画だ。
2023年度国体GS成年C2位の実力者、小林晋之介氏の運営しているYoutubeチャンネルの動画である。この動画では板をズラす動き、すなわち外向とひねりが、板の走りを引き出すカービングの動きに直結するという趣旨で論が展開されている。
なお、小林氏のチャンネルではスキー理論を様々な角度から説明した動画が多数公開されているので、ぜひ参照されたい。
(有料のメンバーシップ動画も用意されている。どれも自身のスキーへの理解度を向上させる珠玉の動画だ。月額¥12,000の価値は間違いなくある。)
この動画をきっかけに、ひねり動作を実際の滑りに組み込んでみたところ、ターン後半の板の抜けや、X脚、切り替えの際のシルエットなど、さまざまな点で改善が見られた。
もちろんこの動画の内容だけを実施したわけではなく、スクールレッスンやプライベートレッスンにも通い、他の指導者の考えとのすり合わせや確認も行った。ただ、ひねりを再認識したきっかけとして小林氏のこの動画があったことに異論の余地はない。
とはいうものの、「ひねり」の認識は人によってかなり異なり、結果的にこのことが「ひねり」に対する不信や混乱を招いているのではないだろうか。
次の章では、小林氏の動画を基に自分が構成した滑りから、「ひねり」とは何かについて説明していく。
「ひねり」は何に必要なのか
まず結論から言うと「ひねり」とは、スキーの面に対する垂直方向の圧を受け、進行方向への力へ繋げる動き、である。そしてひいては、スキーを走らせるための動きだ。ただ、雪面状況や斜度によっては制動の意味合いも強くなってくる。言うなれば、力を最も効率的にスキー板に伝える動きだ。
「ひねり」は体のどこで行うのか
ひねりと一言でいっても、いくつか種類がある。それはひねりを行う箇所によって腰、股関節、足首の3つに分けられる。
その中で最も重要なのは「股関節ひねり」である。なぜなら股関節が最も強い力を受けられるからだ。
足首は言わずもがな、腰(腰椎)と比べても股関節は人体の中で最も丈夫な関節だろう。最も大きい骨である大腿骨と骨盤から成り、その周りの筋肉も大きく力強いものから構成されている。
のちに展開する局面ごとの説明の中でも、全ての局面にで股関節をひねり続けている。腰(体軸)のひねりが出てくるのは、切り替え前後においてのみ。適切なポジションで股関節に重さが乗っている限り、板からの圧に適切に耐えることができる。(もちろん、足首も使わないわけではない。板の方向付けには足首の力を使うし、コブでは足首がかなり重要な役割を果たす。)
「ひねり」はどの局面で行うのか
これも結論から言うと、「ひねり」を行っていない瞬間はほどんどない。
どういうことかを、具体的なターンの局面で解説する。
これは小回りにおける、左ターンから右ターンへ切り替えをしている局面。ニュートラルポジションともいう。時計でいうと0時の位置だ。
一見、特にひねっているようには見えないが、この瞬間にも強くひねりを入れている。ここでいうと右股関節を強く内側にひねり、対して左肩をフォールラインに向けている。つまり、股関節と腰が逆方向にひねられ、ねじりの関係にある。
それに加え、個人的に注意しているのが左腰の動きだ。右股関節と左肩の意識だけでは、次のターンに向けて左スキーが前に出ていかない。結果として腰が落ちたシルエットになり、X脚の原因となる。そのため常に左腰が右腰を追い越すように前に出す意識を持っている。
その結果生まれるのが、ターン前半でのこのポジションだ。時計でいうと1、2時あたりになる。正直これでも少し腰が落ちているが、やりたいことは概ねできている。
先ほどの切り替えの局面で、左肩と左腰を前に出す意識が、この右ターンの導入において役に立つ。既に右スキーに対して左スキーがオーバーラップしているので、ターンの速い局面からスキー板に垂直に荷重できる。
そして左股関節へのひねりはこの局面から始まっていく。体と重心は左方向に移動していきながら、それを受け止めるように左股関節を内側にひねる。ピボットの動きに近いが、板を振るのではなく、ターンの内側に板のトップをねじ込む意識だ。
同時に内脚である右脚は外側にひねっていくが、その際に膝を割るような動きにならないよう気を付けている。内脚1本でも立てるようなバランスでいることが重要だ。グリュニゲンターンの練習が効果的だと思う。
そして遠心力と体軸の傾き、左股関節のひねりがつり合い、スキー板がフォールライン方向に向く局面。時計でいうと3時だ。
先の局面から、左股関節にかかる力は増している。ここでは、股関節だけではなく少し足首を内側にひねり込むイメージを持っている。また、左股関節を後ろへ引き込み、ターンマックスでの強い圧に耐える準備をする。
スキーにかかる力が最大になる、4時過ぎの局面。
股関節にかかる圧も最大になるので、前の局面で引き込んだ左股関節を緩めずにひねりを維持する。またこのあたりから、次のターンに向けた動きが始まる。右肩と右股関節が遅れないように、フォールライン下方向に向け続けるイメージだ。所謂ローテーションを防ぐためだ。
なお、本来なら左肩をもう少し下げて、強いアンギュレーションをうみたい局面だが、残念ながら自分はできていない。
ターンマックスで生まれた板のたわみを、次の進行方向につなげる局面。5時くらいだろうか。
ここで左股関節のひねりを緩めてしまうと、左腰がローテーションし体が板に正対してしまい、結果として次のターンへ入れなくなる。きつくなってくるが我慢して左股関節にかかる力を抜かないのが肝要だ。
また、右腰と右肩が最もローテーションしやすくなるのがこの局面。板が横方向に抜けるのを感じつつ、腰(体軸)のひねりをキープする。そこから切り替えに入り、また①へと戻る。
「ひねり」はなぜ難しいのか
ではなぜ一般的にひねりは難しいのだろうか。特に股関節ひねりの難しさの原因は何なのか。それは股関節をひねるのは意識的にも行うのが難しいからだと思う。
まず仮に、腰をひねってみよう。その場でまっすぐ立ち上がり、ラジオ体操よろしくつま先を前に向けたまま、腰を起点に90°横を向いてみる。このとき、つま先は横に向いてはいけない。どうだろう、おそらくこの動きができない人はほとんどいないはずだ。
同様に足首も難なくひねることができる。踵を中心に、つま先を左右に振るのは難しくもなんともない。
では股関節はどうだろう。腰(臍の向きを意識するとやりやすい)を前に向けたまま、大腿骨を付け根から90°横にひねる。みなさんはできるだろうか。ほとんどの人が、腰(臍の向き)もつられて動いてしまうのではないだろうか。できるという人も、机や手すりなどにつかまっていないと難しいはずだ。
腰ひねりや足首ひねりの動きは日常生活でも経験することはあるが、股関節ひねりに関しては、スキー以外で使うことはほどんどない。これこそが、(特に股関節)ひねりが難しい大きな要因ではないかと思う。もし日常生活で股関節をひねりまくっている人がいたらぜひ教えてほしい。
ちなみに、この股関節ひねりを手っ取り早く体験するエクササイズがある。それは女の子座りだ。両足のつま先を外側に向け膝を曲げて座り、床にお尻を着く。この時に感じる、股関節の痛みこそが股関節ひねりにもっとも近い。ちなみにこれについては先述の小林晋之介さんがYoutubeで詳しく説明されているので、そちらを参照してほしい。
「ひねり」教の病魔、そしてまとめ
病魔というのは言い過ぎかもしれない。ただ、スキー業界に10年いながら、この「ひねり」という用語に翻弄されてきた自分の、ささいな愚痴を吐露することを許してほしい。決して、特定の個人や組織を批判するものではないので、そのつもりで。
よくレッスンを受けていると、
「もっとひねらないと」
「ひねりが足りていない」
「ひねりは大切だ」
といったアドバイス(叱責?)をよく受ける。その度、どうやってひねるんですかと尋ねるが、「体が回らないようにするんだよ」とか「脚を捻じるんだよ」などという抽象的な回答しか聞いてこなかった。具体的に体のどのパーツをどのタイミングでどれだけひねるか、聞きたかったのはそこなのに。
結局それを知ることができず、10年間よくわからずにスキーをしてきた。股関節をひねるべき局面で足首をひねって変な滑りになったり、腰をひねりすぎてターンができなくなったり散々だった。
そして出会ったのが小林晋之介さんのYoutubeチャンネルであった。肝心な内容は有料会員しか見ることはできないのでここでは紹介できないが、先の自分の疑問に対しての答えがそこにはあった。(先述の通り他にもレッスンを受けたし、実際の滑りに落とし込むにあたっては他のコーチの力も借りている。)
その答えを「ひねり」に対して疑問を持っている全てのスキーヤーが享受できればいいのだが、残念なことにすべてのコーチがそれを理解しているわけではない。先シーズンも、そしてきっと次のシーズンも、それが分からずに上達が妨げられているスキーヤーが何人もいるだろう。そんな人にこの記事が役に立てれば、それに勝る喜びはない。
ひいては、路頭に迷っていた自分に光明を授けてくれた小林氏のYoutubeチャンネルをぜひ登録し、メンバーシップに入っていただきたい。そこは全スキーヤーが知るべき金言の宝庫だ。
※本記事は小林晋之介氏と関係はありません。ただ一個人として紹介している限りなのであしからず。