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『小売再生』を読んで小売について考える。

ダグ・スティーブンスの『小売再生――リアル店舗はメディアになる』という本を読みました。

特に良かったポイントを3つご紹介。

ポイント1:極端な意見に惑わされない・疑問を持つ

話は2013年に遡ります。

2013年にマークアンドリーセンさんという投資家の方が小売店について下記のような発言をしています。

「もう小売店は店をたたむしかないでしょう。みんなネットで買い物をすませるようになりますから。」

簡単にいうと『Amazonやアリババで物が買える時代に、小売店必要ないんじゃないの?』という意見ですね。

内容がキャッチーだし飛びつきやすいので当然賛否両論あるわけですが、この本では『この意見は本当に正しいのかしら?』というのを2018年の状況を見て論じています。(結果から言うとこの意見は正しくない、と言うことなのですが)

しっかり状況調査し、現状を把握する、その上でこれからどう言うことをして行く必要があるのか、と言うのをこの本では提示しています。(ちなみにこの予想は外れてるよ、と言うことを第13章で言ってます。)

ポイント2:現状の調査をさぼらない

著者のめちゃくちゃ調査してます。この本は4部構成なのですが、1〜3部は調査の章です。

Amazonどうなの?アリババは?インドもすごいらしい。今の世代は広告効くの?AIは?VRは?3Dプリンターなんてのもあるよ。人って買い物好きだよね。なんのために買い物するんだっけ?買い物するとドーパミン出るらしい。モノより経験を求めているらしい。求められるのはSDGs。コンバージョン率よりも熱狂的信者。小売どうなの?今調子の良い小売って何してるの?他のビジネスはどうなってる?

などなど、データ分析・心理学・行動経済学・生物学、様々な視点から調査をしています。

ポイント3:未来についての提案

で、この本の一番のポイントが第4部の「小売再生戦略」です。

第1〜3部での調査の結果「いやいや、小売店まだまだ可能性あるじゃん」という結果になるのですが、下記の5つでまとめています。

1. 他者に破壊される前に自己破壊できるか
2. 小売のイノベーションを再定義する
3. アイデアだけでなくプロトタイプを
4. 創業者のように考える
5. 帝国ではなくネットワークを築け

詳しくは本の第4部をご覧いただければと思いますが、以下簡単に。
以降は町のパン屋さんの場合どうするのが良いか、を考えながら書いてみます。(私は松本市のパン屋さんのWeb担当やっているので)

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1. 他者に破壊される前に自己破壊できるか

サンクコストの考えからも、既存のやり方を変えるのは難しいものです。しかし結局いつものやり方をずっと続けていけるはずがないので、どこかで破壊して再構築する必要がある。それを他者にやられる前に、自分で改善点を発見して再構築することの大切さを書いています。

パン屋さんの場合、例えば『焼きたて・作りたて』というのがとてもウリになっていたのですが、コロナでガラッと変わりました。
というのも、コロナの影響で1個1個袋詰めする必要が出てきたので、焼きたてや作りたてでお客さんに提供することができなくなったのです。(袋詰めするために冷まさなくてはいけないので)

ということで、焼きたてや作りたてというのはウリにならず、逆に焼きたてでなくても美味しい状況というのをウリにしなくてはいけなくなるのです。

パン購入後に、自宅でも焼きたてを再現する食べ方をお伝えしたり、焼きたてでなくても美味しい商品を作ったり、長期保存できるようにしたり、冷凍で地方へと発送できるようにしてパイを広げたり、などなど、この機会に他の可能性を考えて実行しなくてはなりません。(スイートの場合ここはまだできていないので今後の課題です。)


2. 小売のイノベーションを再定義する

『イノベーション』という言葉を聞くと良さげな感じしますが、そもそも『イノベーションとは何か?』または、『自社にとってのイノベーションとは何か?』というのをしっかり定義する必要があると言っています。

イノベーションというと、最先端のIT技術を駆使して云々かんぬん、、というイメージがありますが、別にそんなこともないかと思います。

例えばスイートの場合、目的はお店に来てもらうことなので、下記のような企画やったりしてます。

企画内容としてはとても単純で

- 塗り絵の用紙を店舗にて受け取る
- 家で塗ったら店舗に持って来てもらう
- 持って来てくれた方には限定パンのプレゼント

だけなのですが、すでに多くの塗り絵が集まっています。こういう活動もイノベーションとして捉えて良いのでは、と最近思っています。


3. アイデアだけでなくプロトタイプを

アイデアはあるけど実行できない、という企業はいくつも見てきました。単純にやるだけなのにやれない、という謎。

アイデアを実行するのにためらってしまうのに「失敗したらどうしよう」や「やるとなると大変だな」という考えがあると思います。

しかしアイデアだけでは何も生み出しません。失敗してもすぐ辞めれば良いだけの話です。実行しましょう。

私が担当しているパン屋さんスイートでアイデア→実行までの期間が短かったのが、このカレーパンロックです。

この歌を知ったコンテンツディレクターの「ぜひ動画にしたい!」という熱量だけで始まった企画ですが、おそらく企画から撮影、動画アップまで1ヶ月いないというスピードで実行しました。おかげさまで多くの方に見ていただき、多くのメディアから取材される結果となりました。思い立ったが吉日ですので、とにかくやりましょう。


4. 創業者のように考える

お客さんのためになることは何か、を常に考えられるようにしておくことが大事です。しかしながら、スタッフ全員にこの思想を持ってもらうのは難しい。ならば創業者のように考えるのではなく、『創業者の考えを理解し、信頼する』とするのが良いです。成功するかどうかはわからないけど、社長がそういうのだからついていこう、という考えは大事です。


5. 帝国ではなくネットワークを築け

今までの繰り返しになるのですが、頭でっかちで動きが鈍くなるな、フットワーク軽く柔軟になれということですね。
資本は少なくとも構造的にスリムで素早く変更可能。スタッフの立場は対等で信頼関係のもと役割分担し政策を打ち出す。多様な視点での比較分析が必要。


おまけ:頭の中の台本を書き換える

この本で一番興味深かったのが、第22章に書かれている「台本を変える」というセクションです。

人というのは様々な場所で脳内台本を用意しています。例えばパン屋だと下記のように。

- 「いらっしゃいませ」と声をかけられる
- トングとカゴを手に取る
- ディスプレイからパンを探す
- 好きなパンを選ぶ
- 会計する
- 体験終了

このように台本がある場合はブレイクスルーが起こりやすいと言っています。もしかしたらパンは店員にオススメされた方が良いかもしれない。台本の中から会計を無くしたらどうなる?などなど、お客さんの驚きや興味を調査し、独自の体験を生み出せないかを常に考え続けることが大事なのかなと思います。


ということでとても面白い本でした。ぜひ読んでみてください。

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Koshi Kagawa
読んでいただきありがとうございます。