横山秀夫『半落ち』(講談社文庫)
嘱託殺人。
W県の警部・梶聡一郎は、アルツハイマーに苦しむ妻に請われてその手で妻を絞殺してしまう。彼はW署に自首する。しかし、梶が妻を殺害してから出頭してきたのは事件の2日後だった。殺人は認める梶はしかし、2日間の行動について頑として明かそうとしない…
犯人も判明しているし、殺害方法も明らかになっている。であるからこのミステリは「フーダニット」や「ハウダニット」ではない、梶は「なぜ妻を殺害してから2日経って出頭してきたのか?そしてその2日間についてどうしてかたくなに口をつぐむのか?」という「ホワイダニット」のミステリだ。
「探偵役」で「語り手」はバトンタッチとしていくリレー小説形式。「刑事」「検事」「新聞記者」「弁護士」「裁判官」「刑務官」男たちは梶の真相に迫ろうとするが、彼らもまたそれぞれ職場や家族に問題を抱えていて、ある意味でこの小説はその描写がメインとなっている。
謎のモチーフに「五十歳」があり、語り手たちも似た年齢や境遇であることから、作者は「中年男性の人生の危機」をテーマに、最終的に「真相」に「生きる意味」を結びつけたかったのではないかと感じた。なにしろセリフのある女性キャラクターがほんの数人しか登場しないほど、男性視点に偏った小説でもある。
ただ、うーん、個人的には謎が解明されたとき「そこまでして語りたくないことかなぁ」と正直感じてしまったし、この「謎」って序盤であっさり解明してもおかしくないとも思った。しかし、素直に読んでいけば充分に面白いし、「最後のセリフ」にもしっかり涙は零れるのは確か。
最後に、「これ何年に出版された小説なのかな?」となにげなく奥付のページを開くのはやめましょう。文庫本には圧倒的なネタバレがあり、ぼくはこれを最終章の直前で読んでしまって絶句しました。なぜここにこの但し書きを書くのか。しょうがないけど。