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米澤穂信『Iの悲劇』 (文春文庫)
住人全て退去してしまい、無人となった集落、簑石。この簑石に住人を誘致して村を蘇らせよう、と市長が提案したプロジェクトが「蘇り課」だった。田舎で暮らしたいという人びとが簑石に移住してくるのだが、いずれもクセがあったり、様ざまな事情があり、やがて「事件」が勃発して…という「短篇連作集」。
米澤穂信さんの小説を読むと、その真面目さ、勤勉さに、頭が下がるのだけれど、この一冊も「限界集落」「地方行政」「近隣住民とトラブル」という社会的テーマをミステリに盛りこんでいる。
ここからけっこうネタバレ。短篇のトリックはけっこう予測がつくというか、あまりこっていず、また、「どんでん返しで有名」ということで購入して読んでみたのだが、物語を一貫させるために付け加えられた「深い沼」で、だいたいの見当はついてしまうので、「米澤さん、そこまで読者に対してフェアでなくても…」と感じた。
また、今まで読みつづけた最後につきつけられる「真相」が、むしろこの問題提起についてマイナスの印象を与えるのではないか?と正直、心配になってしまった。
ぼくが感心したのは412ページの〈初出〉の部分。まず、本としては第一章に当たる「軽い雨」が2010年に(おそらく短篇)として書かれており、2013年には第四章「黒い網」、2015年に第三章「重い本」、2019年に第六章「白い仏」が書かれていて、その他の「序章」「第二章」「第五章」「終章」は単行本になる際に書き下ろされ、書き加えられており、これによって「一つの流れのある短篇連作集」としてまとまっている。
おそらく作者のなかでは、第一章を独立した短篇として書いた時点でなんらかの手ごたえがあり、数年にわたって「シリーズ」として続けることによって熟成されていき、ついにまとまったのだと想像してみた。それにしても一冊の本を作るのに9年かかるのだなあ、小説は奥が深い。