恩田陸『夜のピクニック』(新潮文庫)
2ページ読んですぐに気がついた。
ああ、これは少女マンガだ。
高校最大のイベント、一昼夜かけて80キロただひたすら歩く「歩行祭」。歩きつづける少女たち、少年たちはそれぞれ、この年代のときしか味わうことのできない「秘密」「過去」「現在」「未来」「恋愛」「失恋」「友情」「苦悩」そんな想いを抱えていた。
ああ、これは確かに「誰かの宝物になる一冊」だ。
いみじくも作中に「物語を読むタイミング」について語られているが、『夜のピクニック』は、おませな小学生のときに読んでも、高校に憧れている中学生のときに読んでも、もちろん当事者である高校生のときに読んでも、大学生や社会人になって青春を振りかえりたくなったときに読んでも、きっと大きな共感を覚えることだろう。
なにしろ50代半ばのわたしが読んでも心揺さぶられたくらいだから、多感なときに読めば一生忘れられない物語になるに違いない。発表されてから20年近く、読みつづけられているれっきとした理由がある。
最初に述べたように、そしてこの物語は「少女マンガ」だ。それを作者はきちんと理解していて、作中最も盛り上がりを見せるところでさらりと、物語の核心について、登場人物に「少女マンガみたい」と言わせている。つまり、作者自身がそう理解した上で正面切って少女たちに向けて書いているのだ。
だからこの物語はとてもいい少女マンガであり、ということはやはり上質な青春小説なのだ。リーダビリティがものすごくて、ほんとうに数時間で読めてしまう。こういう小説は照れずに、ひねくれずに、堂々と若者のうちに読んでおいたほうがいい。