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『見えない人』が『見ている世界』とは/伊藤亜紗「目の見えない人は世界をどう見ているのか」

違いをなくそうとするのではなく、違いを生かしたり楽しんだりする知恵の方が大切である場合もあります。

突然ですが、「目の見えない人」と聞いて、どのようなイメージをもちますか?
白杖を持って歩いている。
盲導犬を連れている。
点字が読める。
嗅覚や聴覚、触覚が抜群に優れている。
様々なイメージがあると思います。
では、「目の見えない人」は「特別な人」なのでしょうか?
その答えをくれるのが、伊藤亜紗さんの「目の見えない人は世界をどう見ているのか」です。

こうさぎは、小川糸さんの「とわの庭」を読んだのがきっかけで、本書を手に取りました。「とわの庭」の主人公は視覚障害者なのですが、四季折々の描写が非常に素敵だったので、こちらも是非チェックしてみて下さい。

この本はこんな人におすすめ

①視覚障害者について知りたい
②視覚がない世界を体験してみたい
③読みやすい新書を探している

それでは、この本の魅力を紹介していきたいと思います、ぴょん!

*見えない人が「見ている」景色とは

「見えない人」が見ている景色とは、どんなものなのでしょうか?
そして、「見えない人」は物をどんなふうに捉えているのでしょうか?
私はなんとなく、「見えない人」は常に暗闇の中にいるイメージがありました。光も届かない音だけの世界です。しかし、本書を読むと、そんなイメージがひっくり返ります。

例えば、「月」はどのような形でしょうか?
見える人の多くは、「まる」と答えると思います。しかし、見えない人は模型で月の形を知るので、「球体」と言います。見える人の二次元的なイメージとは違う、より三次元的で俯瞰的な見方をするのです。

本書を読むと、見えないからと言って、何もかも手助けが必要なわけではなく、だからと言って、「とても特別な人」というわけでもない。電車の中などで、たまに白杖を持った方を見かけますが、読了後、そんな方たちへの見方も大きく変わります。

*「見えない」から「不完全」ではない

本書では、「見える人」を四本脚の椅子に、「見えない人」を三本脚の椅子に例えています。どちらも、自分なりのバランスで立っているのです。
もちろん失明することは不幸なことに違いなく、目が見えない人よりも見える人のほうが、一人でできることは圧倒的に多いです。

しかし、「見えない人が必ずしも不幸せ」ではないのだと思いました。大事なのは、その人が自分なりの生き方ができることと、それを周りがサポートすることだと感じました。「障害者」と聞くと、どうしても一歩引いてしまったり、構えてしまうことがありますが、この本はそんな壁を取り払ってくれます。さらりと読める文章ですが、障害について、今の社会について考えるきっかけを与えてくれる本でもあります。

本書の中で個人的に気になったのは、「ソーシャル・ビュー」でした。見える人と見えない人が、一緒に美術館の展示作品を見て回り、作品について会話をする、というイベントです。美術館というと、黙ってじっと鑑賞するというイメージがありますが、皆で歓談しながらその作品への理解を深めるというのがとても新鮮です。このような活動で、より見える人と見えない人の間の「壁」がなくなっていけば、さらにより良い社会になるのではないでしょうか。

是非、本書を読んで、視覚障害のある方について考えてみて下さい、ぴょん!


(2021年5月30日にはてなブログで公開した記事を、一部加筆修正しました。)

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