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やさしさは呪いのように①

ある知り合いがいる。彼のことはAさんと呼ぼう。
Aさんとは週に一回、ある集まりで会う。かれこれ半年くらいの付き合いにはなるだろうか。「ある集まり」では、参加者各々が自分の生き辛さについて、思っていることや経験を話し合ったりしているのだが、匿名性の都合上、説明はこのくらいで。

Aさんは集まりに来るとき、いつも二つのバッグを持ってくる。一つはリュック、一つは手提げ。手提げといっても大きさはそこら辺のボストンバッグ並である。その二つのかばんには、本人曰く「書籍」がぱんぱんに詰まっているらしく、いつもその巨体とバッグをゆさゆさと揺らしながら会場に来る。

会場は公共施設の一部屋で、あまり広くない。Aさんは会場に入った後、頭をぺこぺこ下げながら席に着き、まず荷物を下ろす。それからバッグの中をあさる。レジ袋のガサガサ音で話ししている方の声をかき消しながら、取り出したるはホームセンターで売っているような水筒。一口飲んで、またガサガサと音をたてて仕舞う。それから思い出したようにまたガサガサと音を立てて、書類を取り出す。

僕はふとあくびをした。いつものことだ。


休憩時間になった。隣の人と軽く雑談をする。

つ「最近寒くなってきましたよね。」
隣「そうですねー。昨日から一気に冷えてきて」
つ「そうそう。自分はもう暖房かけちゃってます」

Aさんが近くにやってきた。視線の行く先がはっきりしていない。

つ「隣さんはもう暖房使っちゃってます?」
隣「いや、自分はまだ…。なんとか厚着で。」
つ「すごいですね。自分はもう欲に負けちゃって。」
A「 」
隣「自分は寒さに強いだけですよ。実家が日本海側の雪国なもので。」
つ「へぇ、実家がそっちの方なんですね!じゃあもう東京の寒さは余裕、みたいな。」
隣「いやそんなことないですよ(笑) 少し強いだけで、やっぱり寒いですね。」
A「 」

A「冬の日本海側っていうとあれですよね、中国大陸からの乾いた空気が偏西風に乗って、それで日本海から蒸気を受けて、日本列島の日本海側の山にぶつかって、それで、雪が降っているんですよね」
つ「そうなんですね。日本海側って雪たくさん降るイメージありますもんね。」
A「それで、あの、雪を降らして乾いた空気が、山を越えて、関東平野の方に流れ込むので、関東の方は冬、乾燥するんですよね。だからインフルエンザとかが、流行するんですね」
隣「確かにこっちは冬乾燥しますよね。エアコンとかかけていると尚更。」
A「 」
つ「確かに。エアコンかけて寝た次の日の朝なんか、もう喉がひどいことになって。だから気を付けないと」
A「 」



そういえば、一つ説明として付け足しておくことがある。それは僕がこの集まりで恐らく「強者」「カースト上位」になってしまっていることだ。それは僕がその集まりではかなりの古参であり、かつ最も若く、特別何かしらの病気を患っているわけでもないからだ。一般的な同年代の集まりに入れば勝手に自爆してつまはじきにされるような僕が、その集まりでは必要に応じて人の前で話して場を仕切ったり、初見さんに話しかけたり、逆に雑談のためだけに「つばめさん」と話しかけてもらえたりする。

だから、恐らく僕が誰かの話をなんとなく無視したり、或いは小馬鹿にしたところで、僕はそれをグループの中でなかったことにできるだろう。僕は恨みの感情を伴わずに、ふとした言葉で誰かを傷つけてしまったとして、集まりから追放されることはないだろう。



それこそ、空気を読めなかったり会話があまり上手でない人を、みんなと楽しく会話がしたいからという理由のもと、”悪意無く”無視して排除することができるだろう。そいつが喚いてきたらこう言ってやるんだ。「悪気はなかった、これからは仲よくしよう」と。


…でも僕はその集まりが好きだ。優しい人がいるその集まりが好きだ。救われてきた。今でも人間関係というものを少しずつ教えてもらっている。だから僕はその集まりの中では、特に誰かを軽く扱いたくない。軽く扱う行為は、その集まりが持つ安心感を根から少しずつ腐らせるだろうから。

Aさんに対しても同じだ。
Aさんとの会話で閉口したくなるようなこともあるが、「あれは過去の僕であり、かつ今の僕の一側面だ」と考えて接するようにしている。あの、自分が話した後に訪れる謎の間、そして会話に置いて行かれてしまっていて、何を言っても話に入れない状態。僕はそういう多くの人が持つ黒歴史を、多くの人よりもよっぽど多く体験してきたと勝手に思ってるから。勝手に話を聞いて、勝手に吟味して、勝手に反省して。僕にとって会話を楽しめていない以上、そういうかたちで考えていれば、Aさんを軽く扱わないで済むんじゃないかと思って。

私は善人ではないのはこれまでの文章で述べてきた通り。
恨み、憎み、嫉妬に燃え、人の悩みを聞いていても内心面倒になるし、誰も見下していないといえば大噓になってしまう。しかし、いやだからこそ本心からそう思えなくても、目の前の相手にやさしく接したいと思っている(←ここはなんか違う気もする。本心から思える奴がやさしくしてればよくね?本心じゃないやさしさは裏切りじゃね?的な)。


ただここまで書いてきて、やっぱり僕にはやさしさが好きになりきれない理由というか経験があるのだ。当たり前か。片思い中の相手以外に好きになりきることなんてないもんね。

つづく


おわりに

構想力がお察し…というかそもそも何かを伝えたくて書いているというより、書きながら自分の考えを整理している状態になってしまっている。ただ治そうと思えるほどの向上心はないです!うん!まる!

そういえばAさんの年齢について、どんな感じでイメージされているのだろうか


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