第5話:医療殺人⁉ 消えた声
叔母が倒れたとの知らせが入ったのは、冷たい冬の朝のことでした。一人暮らしをしていた75歳の叔母は、近隣住民の通報によって救急車で病院に搬送されました。私たちは病院からの連絡を受け、急いで駆けつけました。病院に着いたとき、叔母はすでに集中治療室に運ばれ、医師から「危険な状態ではない」と説明されました。ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、その2日後、叔母は静かに息を引き取りました。
突然の別れに私たち家族は動揺しました。叔母は健康そのもので、定期健診でも特に問題は見つかっていませんでした。なぜ、急に命を落とすことになったのか。私たちの心に疑問が広がりました。
不自然な説明
医師からの説明は曖昧で、納得のいくものではありませんでした。「年齢による体力の低下」といった言葉が繰り返されましたが、それでは叔母の突然の死を説明するには不十分でした。さらに、医師は「搬送時には命に別状はなく、経過観察が最善の対応だった」と主張しました。しかし、カルテを確認すると、そこには矛盾が隠されていました。
カルテには「DNAR(心肺蘇生措置を行わない)」といった記載がありましたが、家族はその記載を見て強いショックを受けました。医師に対し、『なぜ事前に家族への説明や同意がないままDNARが適用されたのですか?』と問い詰めました。医師は『DNARは患者の状態を総合的に判断した結果ですが、緊急時だったため、説明の機会がありませんでした』と答えました。この回答に家族は強い不信感を抱き、『命に関わる重大な決定がなぜ家族の同意を得ることなく進められたのか』とさらに追及しました。DNARの適用についてのプロセスが不透明であることが、家族の疑念を深める結果となりました。家族は『適切な説明もなく、同意も得られていない状況でこのような重要な判断が下されたのは医療殺人に等しいのではないか』と考え始めました。叔母が救命措置を受ける機会を奪われた可能性を疑い、医療現場の対応に対して強い不信感を抱きました。家族としては、このような重要な判断に関して事前に説明がなかったことを問題視し、医師の判断プロセスについてさらに詳しく説明を求めました。
『DNARが記載されているということは、心肺停止時の救命措置を放棄することを意味するのではないですか?』と家族が質問すると、医師は『確かにそのような方針ですが、叔母さんの状態ではこれが最適だと考えました』と答えました。この説明に家族は納得できず、『命に関わる重大な判断がなぜ家族への事前説明や同意を得ることなく進められたのか』と厳しく追及しました。医師は『緊急時であり、説明の時間が取れませんでした』と返答しましたが、家族はこの回答に強い不信感を抱き、『事前説明がないまま救命措置を放棄したのは、医療殺人に近いのではないか』と考えるに至りました。このやり取りを通じて、家族の疑念は一層深まりました。
消えた記録
さらに詳しくカルテを確認すると、叔母の容態が急変した瞬間の記録が抜け落ちていることが分かりました。救命措置が行われた形跡はなく、医師の判断で「自然死」とされていました。しかし、叔母の症状は急性心不全の可能性が高く、迅速な対応があれば助かったかもしれないという専門家の指摘がありました。
なぜそのような重大な記録が欠落しているのか?病院側に説明を求めても、「記録の不備があっただけ」と曖昧な回答が返ってくるばかりでした。叔母が命を落とした真相を明らかにするため、私たちは独自に調査を進めることにしました。
医療報酬の不正請求
調査を進める中で、驚くべき事実が明らかになりました。叔母が亡くなった後、病院は「看取りケア加算」や「ターミナルケア加算」といった医療報酬を請求していました。しかし、これらは適切な対応が行われた場合にのみ請求されるべきものです。カルテに「DNAR」が記載されていたことから、これらの加算を請求するために、あえて救命措置を行わない方針を取ったのではないかという疑念が生じました。不十分な説明と記録の不備により、不正の可能性が一層高まったと考えられます。
この不正請求が意図的なものか、それとも単なる過失なのか――私たちは病院側に真相の説明を求めましたが、満足のいく回答は得られませんでした。このような不正がまかり通る医療現場の現実に、強い憤りを感じました。
医療殺人の可能性
叔母の死は単なる「自然な老衰」と片付けられるべきではありませんでした。適切な救命措置が取られていれば、命を救えた可能性が高いからです。このような医療現場のずさんな対応や説明不足が、結果として患者の命を奪う「医療殺人」に繋がるのではないか――その可能性を考えると、胸が締め付けられる思いです。
医療現場での透明性の欠如、不正請求、そして患者や家族への説明不足。これらの問題が改善されない限り、同じような悲劇が繰り返されるでしょう。私たちは叔母の死を無駄にしないためにも、声を上げ続ける決意を固めました。
家族としてできること
この経験から、私たち家族は多くのことを学びました。そして、同じような悲劇を防ぐために、以下の具体的な行動を取ることを決意しました:
カルテや医療記録の精査
記録に不自然な点や不備がないかを徹底的に確認し、医療従事者に質問を重ねる。セカンドオピニオンの活用
医師の説明に納得できない場合は、他の医療機関に意見を求める。医療費明細の確認
不正請求が疑われる場合は、公的機関や専門家に相談する。医療現場の透明性を追求する
家族として、医療現場の問題点を社会に発信し、改善を求める。
未来への希望
叔母の死は、私たちにとって大きな悲しみであり、喪失感は計り知れません。しかし、この悲しみを無駄にせず、医療現場の問題を広く共有することで、未来の患者とその家族を守る一助となることを願っています。
「医療殺人」という言葉が過去のものとなり、透明性と信頼性のある医療システムが構築される日を目指して――私たちはこれからも行動を続けます。