第6回:医療虐待⁉ 説明義務の怠慢が引き起こす問題
~医療同意と透明性のある説明の必要性~
患者が医療を受ける際、医師からの説明と患者の同意は不可欠です。これを「インフォームド・コンセント」と呼び、現代医療において最も重要な原則の一つです。しかし、説明義務が十分に果たされない場合、患者や家族に大きな混乱や苦痛をもたらすだけでなく、医療全体への信頼を損なう事態にもつながります。本日は、医療同意の重要性、説明不足が招くリスク、そしてその解決策について深く掘り下げます。
1.インフォームド・コンセントとは?
「インフォームド・コンセント」とは、医療従事者が患者に対し、病状や治療の選択肢、リスクと利益について十分に説明を行い、その上で患者が自主的に治療法を選択する過程を指します。この原則に基づき、以下が行われるべきです:
病状の説明: 患者の現在の状態や診断結果の明確な説明。
治療法の選択肢: 各治療法のメリット・デメリットについて具体的に説明。
リスクと利益の提示: 治療を受ける場合と受けない場合のリスクを比較して提示。
しかし、現実にはこのプロセスが省略されるケースがあり、患者や家族が正しい判断を下せない状況が生じています。
2.説明不足が招く問題
1. 患者の選択の自由を奪う
医療従事者が十分な説明を行わない場合、患者は自身の状況を正しく理解できず、不本意な治療を受けることになります。
2. 家族への精神的負担
説明不足により、家族が患者のために重要な決断を迫られる場合、大きな精神的負担を抱えることになります。
3. 医療ミスと見なされるリスク
説明不足は、患者や家族が「医療ミス」と感じる原因となり、医療機関への信頼を失う結果を招きます。
4. 法的トラブルの発生
日本の法律では、医療従事者には説明義務が課されています。この義務を怠ることは、患者の権利侵害として訴訟の対象になる可能性があります。
3.実際の事例
事例1: リスク説明不足による家族の後悔
ある高齢患者が手術を受ける際、医師は「リスクは少ない」と説明しましたが、実際には重大な合併症が発生しました。家族は後に、「リスクを正確に知っていれば他の選択をした」と強く後悔しました。
事例2: 終末期医療における選択肢の提示不足
ある患者が終末期を迎えた際、医師は延命治療の選択肢を十分に説明せず、結果として患者の希望と異なる形での治療が行われました。家族はこの結果に不満を持ち、医療機関との信頼関係が崩壊しました。
4.法的視点:説明義務と責任
1. 医療法と説明義務
医療法第1条の4は、「良質かつ適切な医療を提供する責務」を規定しています。これには、患者が治療内容を理解し納得するための十分な説明が含まれます。
2. 民法上の不法行為責任
説明不足により患者が被害を受けた場合、民法709条(不法行為)に基づく損害賠償請求が可能です。
3. 刑法上の責任
医療行為が適切に説明されず患者の生命や健康が危険にさらされた場合、刑法に基づく責任が問われることがあります。
5.解決策:説明義務を果たすために
1. 多職種連携による説明強化
医師だけでなく看護師やソーシャルワーカーが説明に加わり、患者や家族が安心して意思決定できる環境を整える。
2. 標準化された説明プロセス
ガイドラインに基づく標準化された説明手順を導入し、情報が確実に伝わる仕組みを作る。
3. 記録の透明性確保
説明内容を記録し、後で確認できるようにすることで、説明不足のリスクを軽減する。
4. 教育と研修の充実
医療従事者が適切な説明を行うスキルを身につけるための研修を強化する。
6.【次回予告】
説明義務の怠慢が引き起こす問題を考察しましたが、これは医療虐待の一端に過ぎません。次回は、「7日目: 高齢者医療における人権の尊重」について掘り下げます。社会全体で高齢者の人権を守るために必要な取り組みを共に考えましょう。