好きなものは連鎖していく
何か一つの物事を好きになっていくと、次に好きになるものの予感が湧いてくる。
かつて、それを実感した出来事があった。
ザ・ストーン・ローゼズというイギリスのバンドを好きになったとき、その音楽性だけでなくアルバムジャケットのアートワークが気になった。筆から垂らしたペンキをキャンバスにたたきつけたようなそのアートに、強く心を惹きつけられた。僕は気になったことはすぐウィキペディアで検索する癖があるため、そのときもストーン・ローゼズのページを見て情報をあさった。
どうやらアートを担当したジョン・スクワイア(ローゼズのギター)はジャクソン・ポロックという画家に影響を受けているらしい。すぐにジャクソン・ポロックを調べる。Googleの検索結果から出てきた作品群にすぐに魅了された。その後、タイミングよく大学の芸術論の授業でポロックが取り上げられた。ポロックの作画技法や思想をかじっているうち、気づいたらどっぷりハマっていた。
好きなものは連鎖していく。
糸のついた針を生地に通すようにして。小さな穴から向こう側の景色が見える。そして、刺したものがつながっていく。
そもそも、ストーン・ローゼズを好きになったのだって、もともとはオアシスを好きになってどっぷりとその沼にハマったからだった。僕が洋楽を中心に音楽を聴くようになったきっかけ、オアシス。オアシスの音楽に取り憑かれ、あの一見ダサいファッションを真似したり、アディダスを身につけるようになったり。何曲もギターをコピーして弾き語りできるようになったり。オアシスのメンバーが影響を受けた音楽・カルチャー・ファッション…その背景を知るごとに、新たなバンドや音楽の存在を知り、世界が広がっていく感じがした。
オアシス → ザ・ストーン・ローゼズ → ザ・スミス → ザ・ジャム → ピンク・フロイド → レッド・ツェッペリン → ザ・フー…というように、どんどんUKロックを掘り下げていくことに。そして、それらすべてに影響された。それぞれのかっこよさにやられた。これらバンドの「そもそも好きになったきっかけ」をもっと深めれば、オアシスを知るきっかけだってほんとうはアジアン・カンフー・ジェネレーションだったりするのだ。原点探しは終わりがない。
ちょっと思い返してみるだけでも、分野は違えど文学やファッション、その他カルチャーで「好き」の連鎖が連綿と続いている。そして、それらは分野を軽く横断してつながっていく。そうして、それらに影響され、今の僕が出来上がった。
たとえば、哲学者の鷲田清一が好きになり、彼のモード/ファッション論を読んだことで、山本耀司(ヨウジ ヤマモト)、川久保玲(コム デ ギャルソン)、三宅一生(イッセイ ミヤケ)といった80年代を代表するファッションデザイナーとブランドの存在を知り、魅了された。高すぎてワーキングプアな僕には手が出せないけど、唯一青山のお店で買ったイッセイミヤケの腕時計は宝物だ。コンセプトや思想が詰まったものはかっこいい、突き抜けている。
大学生のとき図書館で見つけた思想書たちは、やけにかっこいいデザインが多かった。そこから本の装丁を気にするようになった。数年後、地元宮崎のデザイン校で読んだ雑誌によって、それら装丁デザインをしていたのが戸田ツトムというデザイナーであることを知った。しかも、今まで見てきたハードカバー本でかっこいいと思った装丁の本の多くを、戸田ツトムがしていたことを知って驚いた。
戸田の他に、装丁が好きなデザイナーに松田行正がいた。戸田さんと松田さん、二人とも作風が似ていると思ったら、偶然か二人はかつて「工作舎」という会社で働いていた。工作舎は僕の好きな松岡正剛が設立に携わった会社だ。しかも、松岡正剛は前述の山本耀司や鷲田清一ともつながりがある…。なんだこのループは。
好きな物事を掘り下げていくうちに、個々別々のはずだったものたちが実はつながっていたり、あるいはつながっていく不思議。針と糸を生地に通していくうちに、いつの間にかすべてがつながっていき、一つの衣服が出来上がっていくような。
なんだかここにきて、何かを好きになることと、誰かに恋をすることは似ている気がしてきた。
恋をした相手の興味のあること、影響を受けたことを知り、自分の世界が広がっていく感じ。そして、ますます相手に対する「好き」が深まっていく感じ。自分と相手の好きなことが重なっていく感じ(まあ、そもそもいろんなポイントの合う部分があっての恋愛でもあると思うのだが)。
いったい次は何を好きになるのだろうか。なんとなく見えてきている。
そんな好きなものたちに、ワクワクしていたいし、ドキドキしていたい。
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