アートかデザインか
あるものがアートであるかデザインであるかと、「卵が先か鶏が先か」のような問いを得てして僕らは唱えがちである。アートとデザインという横文字から連想されるイメージは世間的にはほぼ同類にカテゴライズされることが多いように感じる。おそらく、アートについては絵画的なイメージが支配的であり、デザインというとグラフィックデザインのイメージが強いことに起因しているだろう。その視覚的な両者の特徴が混ざりに混ざってしまい、アートとデザインが一緒くたに捉えられている。さらに踏み込んで、あるものがアート“的”であるかデザイン“的”であるかというニュアンスが加わるとさらに状況はややこしくなる。“的”とつくことによって、その対象となるあるものが「~っぽいよね」という類似性によって語られることになり、ますます物事の輪郭は見えにくくなってしまう。
アートとデザインは全く似て非なるものである。とは言ってもそう語る僕自身はアートもデザインもちょっとかじったくらいの「にわか」であって、ずぶの素人さんである。よって、ここでは素人なりの意見として受け取ってもらえればと思う。
説明の都合上デザインから考えると、デザインは物事に方向性を与えるものである。形のないものに形を与え、混沌とした状態に線をひき秩序を示す。ちょうど道路のラインのように僕らが進むべき方向を示してくれるようなモノでありコト。それがデザインである。秩序立っているがゆえに慣れ親しみを惹き起こさせる。また、デザインは特定の誰か(もしくは特定のある集団・共同体)を宛先として届けられるものである。
反対にアートは制度や規範を破っていくものである。出来あがって時間が経ち形骸化してしまったものや、凝り固まってしまったもの、ある種の常識のような柔軟性を失い思考停止の状態になったものに対して問いをぶつけるモノでありコト。それがアートである。ゆえにアートは価値観や存在を揺さぶるものだとも捉えることができる。そこには快・不快、好き・嫌いの両面が存在しており、どう感じるかはそれを体験した者の態度に因る。また、アートの宛先はデザインほど輪郭がはっきりしておらず、特定の相手ではなく、より多くの匿名的な誰かたちを相手にしている。
そして、あるものがアートであるかデザインであるかの違いは、その対象を見る者の見方、あるいは態度によって変わってくるのではないか。あるものは、それがアートなものかデザインなものかである前に、ただたんにそこに「在る」だけである。それ以上でも以下でもない。ここで言わんとしていることはつまり「アートもデザインも、あるクリエイティブな営みのなかで共存し循環している」ということである。何かをクリエイトしていくなかで欠かせないパッションと客観的で冷たい視線をおくる理性。結局は冷静と情熱のあいだで物事は進んでいく。
ここまで書いていてふと思うことがある。僕らが何よりも問わなければならないことは、僕を含めた多くの人々はなぜアートやデザインという言葉にキラキラしたものを感じ、惹かれ、期待し、欲望するのか。アートとデザインのそれぞれのカテゴライズ、そしてそれらの違いを知ることよりも、僕らが無自覚にも抱いてしまっている欲望の方へ目を向けた方がよりいっそうレンズの焦点が合うように思えてきだした。
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