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花を買ったら、少しだけ寂しさがやわらいだんだ

 ふだん僕は花を買うことがない。
 もちろん、プレゼントするために買ったことはこれまでに何度もあった。あの人だったらこんなイメージだなって想像しながら買ったりブーケを頼むのは楽しい。

 ただ、植物を愛でる、育てるという観念がないものだから自分のために買うことなんてない。
 器は持っているけれど、それはほとんど貰ったものを生けるために買ったところもあって、すごくこだわりがあるというわけでもない(ただし、用途は考えずにビビッ!ときた器を買うことはたまにある)。

 そんな僕がひょんなことから花を買った。
 コロナ禍のなか家にいることが多く、ゆっくりしたいまだからと部屋の整理をしだした。そんななか見つけた一輪挿し。宮崎の陶芸家である吉本有希さんのもの。貰い物のミモザを飾って以来、部屋の隅に置かれたまんま。そのときフッと前の日にテイクアウトしたお店でお花屋さん「CHARM」のコースケさんに会ったことを思い出した。

 あ、これは花を買えってことかな。

 そうお告げがきたような気がして、次の日にさっそくCHARMへ行ったんだ。
 コースケさんとは親交があったものの、なんだかんだお店で花を買うのは初めて。そのときのコースケさんのにんまりとした顔が目に焼きついている。気になったドライフラワーを買ったら、サービスとしてバラをくれた。

 生きてるしなあと思い、まずはそのバラを生けることにした。

 花を生ける、飾るセンスなんて皆無なもんだからとりあえずサイズが合うように切って水を入れてスッと一輪挿しに挿す。窮屈じゃなそうな空間に置いて完了。これでいいのかなって疑問に感じながら床につく。

 なにも意識なんてしていなかったけれど、花を買ってから自分の変化に気がついた。

 朝起きたらまずバラの様子を気にしてしまう。元気かなあって。
 水を変えようとか、花びらが散らないように丁寧に優しく触れようとか。
 心が穏やかじゃないときに、不意打ちのようにしてスッと入ってくる香りに優しさをもらったり、何かに気づかされたり。
 それに、やっぱり帰宅したときも目がフッとバラの方へ向かってしまう。
 そしてなにより、誰かがそばにいるようで、少しだけ寂しさがやわらいだ。

 数日でこんなに変化が現れるものなんだと驚いている。なんとなく花を買う人の気持ちがわかってきたし、こういろいろと書いてきて思うのは、もうこれ恋をしたやつじゃんって笑

 このバラは自分にとっては他のバラと違って特別だし、バラを愛でることによって人との関わりを教えてもらってる気がする。
 いままで花なんてライフスタイル誌が載せているような、空間を素敵に彩るための「飾り」であり「風景」であり、そういう「対象」でしかなかったのに、それがいきなり愛でる「相手」になっていた。

 ふいに『星の王子さま』のバラが思い起こされて、ちょっと心が切なくなってきたいま。

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