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【東京都(東京都庁)Ⅰ類A】 事務 専門記述試験 過去問解説 財政学(令和6年~平成21年)

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令和6年度

問題

Ⅰ 家計が若年期と老年期の2期間を生存するライフサイクル・モデルを考える。
第t期の消費をct で表すとき、第t期に若年世代である家計はu(ct ,ct+1)の効用関数を持ち、効用最大化を行うと仮定する。第t期に若年世代の家計は、若年期にのみ賃金率wtで1単位の労働供給により所得を得て、利子率rt+1 でst の貯蓄をする。ここでは経済全体で第t期に若年世代の家計が1単位存在すると仮定する。この経済において、政府が第t期に Gt の規模で政府支出を行うとき、次の問
いに答えよ。
(1)まず、政府は第t期に Tt = Gt の規模で課税を行うものとする。このとき、Gt を用いて第t期に若年世代の家計の若年期と老年期の予算制約式を記し、それらを統合して生涯予算制約式を求めよ。
(2)次に、政府は第t期に徴税せず、代わりに Bt = Gt の規模で公債発行を行うが、第t+1期に公債償還のため、Tt+1 =(1+ rt+1)Bt の規模で課税を行うものとする。このとき、Gt を用いて第t期に若年世代の家計の若年期と老年期の予算制約式を記し、それらを統合して生涯予算制約式を求めよ。
(3)(1)と(2)の結果を比較して、課税と公債発行の関係についてどのようなことが言えるか、「中立命題」という言葉を用いながら説明せよ。

Ⅱ 資源配分に歪みをもたらさない税体系が利用不可能な場合、課税による超過負担は税率の2乗に比例することから、一定の政府支出の下で課税コストを最小化するためには、可能な限り税率は変更せず一定にするのが望ましいという理論を「課税平準化理論」という。この「課税平準化理論」と「中立命題」の関係について論ぜよ。

Ⅲ 家計が貯蓄をする際の利子率よりも借入をする際の利子率の方が高い場合又は貯蓄は自由にできるが借入は自由にできない場合など、貯蓄と借入の条件が異なる「流動性制約」が現実の経済には存在する。この「流動性制約」と「中立命題」の関係について論ぜよ。

Ⅳ 財政学やその他分野では、自分より若い子孫の厚生に十分な関心を持って遺産を残そうとする世代間利他主義的な行動を考慮したモデルが存在する。この「遺産動機」と「中立命題」の関係について論ぜよ。

解答


(1) 政府が第t期に Tt = Gt の規模で課税を行う場合の予算制約式

若年期(第t期)の予算制約式: c_t + s_t = w_t - G_t

老年期(第t+1期)の予算制約式: c_{t+1} = (1 + r_{t+1})s_t

これらを統合して生涯予算制約式: c_t + c_{t+1} / (1 + r_{t+1}) = w_t - G_t

(2) 政府が第t期に徴税せず、代わりに Bt = Gt の規模で公債発行を行う場合の予算制約式

若年期(第t期)の予算制約式: c_t + s_t = w_t

老年期(第t+1期)の予算制約式: c_{t+1} = (1 + r_{t+1})s_t - (1 + r_{t+1})G_t

これらを統合して生涯予算制約式: c_t + c_{t+1} / (1 + r_{t+1}) = w_t - G_t

(3) 課税と公債発行の関係についての説明

(1) と (2) の生涯予算制約式は同じ: c_t + c_{t+1} / (1 + r_{t+1}) = w_t - G_t

これは「中立命題」に関連します。中立命題によれば、政府が同じ規模の政府支出を行う際、課税か公債発行のどちらかの手段を用いても、家計の生涯予算制約には影響を与えないことを示しています。政府支出の資金調達方法が家計の消費行動や貯蓄行動に中立的であるため、どちらの手段を用いても生涯予算制約は同一であり、経済全体の資源配分に変化はありません。


課税平準化理論の概要

  • 課税平準化理論は、一定の政府支出を維持するために、税率をできるだけ一定に保つことで課税による超過負担を最小化する理論です。これは、税率の変動が経済における資源配分に歪みをもたらすため、安定した税率が望ましいという考えに基づいています。

  • 中立命題の概要

    • 中立命題は、政府が同じ規模の政府支出を行う際に、課税か公債発行のどちらを選んでも家計の生涯予算制約には影響を与えないという理論です。つまり、政府の資金調達方法が家計の消費行動や貯蓄行動に中立的であることを示しています。

  • 関係性の考察

    • 共通点

      • 両理論は、政府の財政政策が経済全体に与える影響を最小化することを目指しています。課税平準化理論は、税率の安定によって資源配分の歪みを避けることを目指し、中立命題は、資金調達方法の選択が家計に中立的であることを示しています。

    • 相違点

      • 課税平準化理論は、主に税率の変動による経済への影響を考慮しており、税率を一定に保つことで超過負担を最小化することに重点を置いています。一方、中立命題は、政府の資金調達方法(課税か公債発行か)が家計の生涯予算制約に与える影響の違いを考慮しないという点で、資金調達の方法自体が家計に中立であることを前提としています。

    • 補完的な関係

      • 課税平準化理論は、現実の経済では税体系が完全に中立でないため、税率の変動による資源配分の歪みを避けるための指針を提供しています。一方、中立命題は理論的に政府の資金調達方法が家計に与える影響を示しており、理論的な基盤を提供します。このため、課税平準化理論は中立命題の限界を補完する形で、現実の政策決定においてより実践的な指針を提供します。

  • 結論

    • 課税平準化理論と中立命題は、いずれも政府の財政政策が経済に与える影響を最小化するための理論です。課税平準化理論は、現実の税体系の制約を考慮し、税率の安定を重視することで課税による超過負担を最小化します。一方、中立命題は、理論的に資金調達方法が家計の生涯予算制約に中立的であることを示しています。これらの理論は相互に補完し合うことで、現実の経済政策における効果的な財政運営の指針を提供します。

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