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声劇「セカイを面白くするには、」

「セカイを面白くするには、」
作:煌々亭ぺんぎん

男:1女1(または女2)

上演時間目安:20〜30分程度

【登場人物】

カレ:平凡な(?)男子高校生。性別変更可。
カノジョ:非凡な(?)女子高校生。

【本編】

カノジョ:ーー世界は、つまらない。

カレ:……また始まった。

カノジョ:世界はつまらないんだよ。いつになっても面白い事件ひとつ起きない。

カレ:平和なのは良いことだろ。この国に生まれたことを感謝してるね、僕は。

カノジョ:つまらない男だな。

カレ:知ってるよ。何が悪い?

カノジョ:悪くはない。好きだよ。

カレ:……。それに、よく言うだろ。
「おもしろき こともなきよを おもしろく」?

カノジョ:高杉晋作か。

カレ:つまらないなら、君が変えたら良い。

カノジョ:いくらわたしが頭脳明晰、文武両道、才色兼備、天下無双でも、流石に世界相手は骨が折れる。

カレ:「出来ない」と言わないところが君らしい。というかよくもまあそんなに自分を褒めちぎれるな。

カノジョ:君と同じさ。引用だよ。わたしが出会ってきた奴らのね。

カレ:ああ、言われてるとこ、想像つくよ。
世界征服は後に回すとして、とりあえず君の周りの世界を変えてみたらいいんじゃないの?

カノジョ:「おもしろき こともなき"場"を おもしろく」?

カレ:そんな感じ。

カノジョ:どうだろうね、非凡な人間というものは、調教次第でうまく歌うものだろうか。

カレ:調教とか言うなよ。

カノジョ:では、教育かな?

カレ:どの道、上から目線だな。

カノジョ:誰も文句は言わないだろうさ。しかし、その世界は果たして面白いか?

カレ:これも却下かな、お姫様?

カノジョ:……ふふ。そういう可愛らしい形容は面白みがあるな。わたしの呼び名はいつだって「クイーン」だとか、それに類するものだからね。

カレ:クイーン様にも不可能はありますからねぇ。

カノジョ:たった1人じゃ「場」は成り立たない。臣下の選定は肝要だ。やはり時間がかかりそうだな。

カレ:だったら、もっと簡単な方法がある。
「君」が変われば良い。

カノジョ:それはわたしの「意識」の話かな?

カレ:そうだね。「考え方」を変える、と言ってもいい。

カノジョ:結局、そこに落ち着くか。
「世界」なんて言葉がそもそも曖昧だったね。
誰かにとって世界とは、地球全体のことだろう。
別の誰かにとって世界は、未確認の宇宙までも及ぶだろう。
はたまた、さらに別の誰かならば、自分の手の届く範囲だけを「世界」と定義するかもしれない。

カレ:そう。「人の数だけ世界がある」。前に君が言ってたろ?

カノジョ:同じ景色を隣で見ても、違う人間には違う景色が見えている。それは視力の問題かも知れないし、知識の問題かもしれない。あるいは、気分の問題かもね。

カレ:人の数だけ……いや「意識を持つ存在」の数だけ世界はある、のかな?

カノジョ:そうだね。世界観を持てる存在を人間に限定するのはフェアじゃなかった。鋭い指摘だ。

カレ:あ、話を広げすぎた。今は君の話をしてるんだった。

カノジョ:そうだよ。もっとわたしに、集中してくれ。

カレ:……。君の意識の話をしよう。

カノジョ:照れると黙り込む癖、可愛くて好きだよ。

カレ:(あえて無視して)君は、君の周りの世界をもっと違う視点で見ようとは思わないのかい?
つまらない者は目に入れず、面白いことだけを探せばいい。

カノジョ:ふむ、面白いもの、ねぇ?
これもまた根気のいるやり方になりそうだ。世界征服とどちらが早いかな?

カレ:僕は……。僕は、君にとって、つまらない?

カノジョ:(即答して)断じて否だ!でなくては交際を申し込んだりしない!

カレ:僕は断ったけどね。

カノジョ:あれは意外だった!なんだい、君、賢い女は嫌いとか、旧時代的なことを言うのかい?女は愛嬌?みたいな?

カレ:恨みを買うのが嫌なだけだよ、君を褒め称える臣下たちに。それに、最初は物珍しくてもすぐに飽きるだろ。僕は平凡だから。

カノジョ:なるほど、わたしに魅力を感じない、と言うわけではないらしい。

カレ:……君と話すのは、割と楽しいよ。ぶっとんでて、妙に偉そうで。

カノジョ:その視点で褒められたのは初めてだな!
もっとわかりやすいところだってあるだろ?
わたしは美人だし、スタイルも良い。

カレ:よくおわかりで結構なことだ。

カノジョ:君からなら、陳腐な言葉で口説かれるのも悪くないかもしれないな。ちょっと言ってみてくれないか。

カレ:……勘弁してくれ。

カノジョ:……ま、そうだろうね。

(間)

カノジョ:面白き 事もなき世を 面白く
遂げるは天の 選びし者なり

カレ:なんだそれ?聞いたことないぞ?

カノジョ:連歌(れんが)だよ。つらなるうた、で連歌。

カレ:ああ、古文だか日本史だかで聞いたような。

カノジョ:ざっくりいうと、複数人で合作する和歌だ。まずは575、その後に77、さらに575、また77……ってな具合でね。

カレ:リレー小説みたいなものか。

カノジョ:書いたことあるのかい?

カレ:小学校の授業で少し。もうほとんど思い出せないけど。
それで、さっきのは高杉晋作の句に続く連歌なのか?

カノジョ:そう。

カレ:誰の歌?

カノジョ:わたしだ。

カレ:は?

カノジョ:本当は正統な下(しも)の句、というのかな?高杉の最期を看取った者が三十一文字(みそひともじ)を完成させているのだが。

カレ:……そりゃ、聞いたことないはずだ。今作ったものなんて知りようがない。

カノジョ:今じゃないよ。ずっと考えてた。

カレ:……は?ずっと?

カノジョ:話したのは今日が初めて。君が初めてだよ。
高杉晋作はさ、世をおもしろくする前に死んだじゃないか。
えらそうになに言ってやがるって、ずっと考えてた。

カレ:失礼だな。僕は好きだよ、高杉晋作。
理想のために戦った人だ。

カノジョ:でも奴は志なかばで死んだ。
新しい世は他の奴らが作った。それがおもしろき世だったかは、ぜひに晋作殿に尋ねてみたいものだが。

カレ:どうだろうな。世の中が大きく変わったのは確かなんだろうけど。文明開化、ってやつだね。

カノジョ:賛否両論あったそうだよ。漱石先生も皮肉めいた話を書いてる。

カレ:それで、連歌の続きは?

カノジョ:ないよ。高杉は上(かみ)の句だけ作って逝ってしまったからね。
……高杉晋作は天才ではあったが、天には選ばれなかった。
果たして、わたしはどうだろうな。

カレ:世界征服を成し遂げそうなくらいには非凡で、優秀で、なにより傲慢だ。

カノジョ:それでも、選ぶのはわたしではないからね。

カレ:ずいぶんしおらしいね。何かあった?

カノジョ:何もないよ。

カレ:だったら。

カノジョ:何もないよ。わたしには、成し遂げたい未来なんてない。おもしろき世を受動的に待つだけの女さ。

カレ:……ないの?

カノジョ:ないよ、具体的なビジョンなんて。現実逃避する凡人の方が、まだ想像力を働かせてる。
「急にイケメンと知り合えないかな〜!」「宝くじ当たらないかな〜!」なんてさ。

カレ:待って、急にふざけ始めるな。笑う。

カノジョ:ええ?可愛くなかったかい?

カレ:君の可愛さは、ククッ、そういう方向性じゃない。

カノジョ:……おい。

カレ:んっくく……(笑いを収めてから)何?気に障った?

カノジョ:逆だ馬鹿!……あーくそ、何だ、無意識か!?

カレ:……あー、そっか。そういうこと?

カノジョ:何だよっ!

カレ:変わるべきは世界じゃないね。

カノジョ:だから、わたしの視点だろ?

カレ:いや、僕だよ。

カノジョ:は?

カレ:君は。謎に自信満々なところが可愛い。
そのくせ、内心は弱気なのが可愛い。それを僕にしか見せないのがたまらない。

カノジョ:なっ……!

カレ:休み時間に本を読む横顔が綺麗だ。
授業が始まれば「そんなことわかりきってる」て顔でムスッとして、意外と顔に出やすいんだなって。そこも可愛い。

カノジョ:……ううっ?

カレ:先生に指されたときにためらいなくスッと立つのが凛々しい。教室に君の澄んだ声が響く。その瞬間は、いつだってくらくらする。
退屈な授業に飽きちゃって、ときどき居眠りしてるのも可愛い。

カノジョ:あ、う……ぬ、盗み見とかやらしい!

カレ:でも一番は、そうだな。面白いものを見つけたとき、子供みたいに目を輝かせるのが可愛い。

カノジョ:……なんだよ。……なんだよ、それ。
わたしを振ったくせに!

カレ:だって君は、眩しすぎるから。

カノジョ:ほ、ほら、そうやって逃げる!今の、どう聞いたって、こ……こ……。

カレ:告白、してるよ。今。
逃げるのはやめた。

カノジョ:……今さら、なんで。

カレ:僕が逃げてたのはね、始まってしまったら、いつか終わりが来るって思ってたから。
永遠なんて、信じられなかった。運命を捻じ曲げる力なんて僕にあるわけない。

カノジョ:そんなの……!

カレ:うん、ごめん。「僕が」世界を変えればよかったんだ。君の意識をどうこうしようとするまえに、僕の意識を変えることにした。

カノジョ:わたし……っ、終わらせるつもりなんてない。そのつもりで君に告白した!

カレ:そうだろうね。君ならできる。

カノジョ:一緒に成すんだよ、君と、ふたりで。

カレ:うん、そうだよね。
僕、ひどいことしたね。君の隣に立つことを恐れて、君に飽きられることを恐れて、始まりを拒んだ。
そんな酷い奴なのに、君ときたら告白前よりもますます僕に着いて回るんだもんなぁ。そりゃ味を占める。

カノジョ:ほんと、ひどい。

カレ:うん、だから、ね?そんなずるい僕でも良いなら、お付き合い、してくれませんか?

カノジョ:……わかってるくせに!

カレ:はは、最後の最後まで意地張るところも可愛い。

カノジョ:……この野郎。

カレ:答えは?

カノジョ:待て。1番大事なことを聞いてない。

カレ:大事なこと?

カノジョ:告白の作法がなってないんだよ!
どこが可愛いだの、お付き合いだの言う前に、言うべきことがあるだろうが!わたしは言った!

カレ:……ん、あれ?……あ、僕、言ってなかった?

カノジョ:このトリ頭が。

カレ:ご、ごめん!こっちも心臓バクバクで、手汗すごいし、君はずっと可愛い顔してるし!

カノジョ:‥…だから!そういうの……

カレ:好きだよ。

カノジョ:……あ。

カレ:僕とお付き合い、始めてくれませんか?

カノジョ:……喜んで!(完全に怒声)

カレ:キレてるじゃん。

カノジョ:キレたくもなるよ!馬鹿!

カレ:やっぱ可愛い。
ね、お付き合いって何したらいいんだろう?

カノジョ:知らないの?

カレ:平凡な男子高校生なもので。お付き合いとかしたことあるわけないだろ。

カノジョ:わたしだってないけどさ、あるだろ、なにか。

(チャイムが鳴る)

カレ:あ、下校時刻。

カノジョ:時間切れか。仕方ない、お付き合いの方法はまた次の宿題に……。

カレ:待って。

カノジョ:何だ?荷物とりに行かないと。

カレ:うん、早く取りに行こう。
それでさ、一緒に駅まで行くよね?

カノジョ:当たり前だろ、2人とも電車通学なんだから。

カレ:それって、下校デートでは?

カノジョ:……あ。ああ〜!なんだ!けっこう容易いぞ、お付き合い!

カレ:よし、行こう(手を取って歩き出す)

カノジョ:うん、……って、え!?

カレ:なに?

カノジョ:手……!手!

カレ:下校デートで手繋がないカップルいる?

カノジョ:あ......!うん、いないな、たぶん!

カレ:じゃ、このまま行こう。

カノジョ:校舎内も!?

カレ:何か問題が?……ないね?ほら行こう!(走り出す)

(カレに手を引かれたまま、2人は走り出す。しばらく走る息などを入れてください)

(以下、走りながらのセリフ)

カノジョ:なんだよ、ほんと、キャラ変わり過ぎじゃないの……?

カレ:世界を変えた男ですので!

カノジョ:ああ、もう!
……じゃ、わたしの世界も変える。

カレ:おお、いいじゃん。

カノジョ:てか、もう変わったかも。……手、繋いだ瞬間から、なんか全部、キラキラして見える……。

カレ:……ッ!(カレ、急に立ち止まる)

カノジョ:痛っ!急に止まったら危ない!
……なに、また照れて黙った?

カレ:……。でも、そういうところが(好きなんでしょ?)

カノジョ:(さえぎって)愛しいね!

カレ:……。

カノジョ:ふふ。よく考えたら、走るの、勿体なくないか?
初めての下校デートだ。

カレ:ん、それもそうか。じゃ、行く?

カノジョ:喜んで!

カレ:ん、手。

カノジョ:うん。

(手を繋ぎ直し、ゆっくりと歩き出すふたり)

カノジョ:面白き 事もなき世を 面白く
遂げるは天の 選びし者なり……うーん。

カレ:うん?

(間)

カノジョ: ……恋すてふ 君のある世は 面白し
(こいすちょう きみのあるよは おもしろし)
※訳:わたしに恋をしているという君がいるこの世は、なんと面白いんだろう!

カレ:「遂げるは天の 選びし者なり」?
※訳:天の選んだ者(君)が世界を面白くしたんだ。

カノジョ:ふふ、傑作ではないが、まあいいか!
それにしても、「天に選ばれし者」は君だったか!わたしとしたことが、滑稽だね!

カレ:……うーん。

カノジョ:うん?

(間)

カレ:ねぇ、この場合の「遂げる」ってさ、「添い遂げる」ってことになる?

カノジョ:おいおい、冴えてるな!自称・平凡少年?
やっぱり和歌を読むなら、掛け言葉のひとつも入れたいものだ!
ふむ、それなら「天の選びし者」はさしずめ、「運命の人」ってところかい?

カレ:君が「運命」なんて言い出すとはね。

カノジョ:らしくないかな?

カレ:いや……乙女なところも可愛い。

カノジョ:……(吹き出す)ははっ!つまらない世界の終焉だ!

(間。以下、モノローグ)

カノジョ:わたしに恋する君がいるこの世は、なんと面白いんだろう!

カレ:面白い世界を君に見せるのは僕だ。
添い遂げてみせよう、僕たちは運命の相手なのだから。


(了)

【作者補足】

※ラストのモノローグは、連歌の最終的な訳です。
はじめての共同作業ですね!
歌自体はカノジョの作ですが、「やり遂げる」「添い遂げる」の掛け言葉はカレのアイディアなので。

※作者は高杉晋作が好きです。貶める意図はありませんが、ご不快になった方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。

【最後に】

執筆後のアドバイス、読み合わせ、初演に協力してくれた友リゼル・クロウ氏に感謝を。

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