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声劇「任侠ボディガード」

「任侠ボディガード」
(作・煌々亭ぺんぎん)

男:1女:1
または不問:2

上演時間目安:15分程度

【登場人物】

鬼瓦 銀次♂(銀♀):ボディガード。任侠映画が大好き。その影響で言葉のチョイスがおかしい。女性に変更可。

十文字 マコ♀(マコト♂):お嬢様学校の生徒。父は社長だが会社が大きくなったのはここ数年の出来事。そのため、感覚はかなり庶民寄り。
男性に変更可(銀次からの呼び方は「お嬢/お嬢さん」→「若/坊ちゃん」に変更し、一人称、二人称、語尾など細部を変更してもOK)。

【本編】

マコ:みなさま、ご機嫌よう〜。

マコ:(素の口調に戻って)んじゃ、帰るか。あ〜、お上品な言葉って肩凝るわ〜。

マコ:ん、パパから連絡。「今日からマコちゃんのボディガードを雇うことにしました!いつもの車で迎えに行かせるよ。気をつけて帰ってきてね!」

マコ:マジで?ボディガード!?いらないでしょ!?そりゃ他のみんなはガチのお嬢様だから、The執事って感じの人が迎えに来てるけどさ。うちはママのお迎えで充分だよ。

銀次:お嬢!

マコ:うわ!何今の声!

銀次:こっちです、お嬢!

マコ:何あの人!顔こっわ!……っていうか、こっち見てない?いや、気のせいだよね?

銀次:十文字のお嬢!あっしの名は鬼瓦 銀次!今日からお嬢の護衛を任せられてます!

マコ:(唖然)

銀次:お嬢!どうかされましたか!ハッ、まさか敵襲?退がってくだせぇ、お嬢!この銀次(お銀)が弾除けに!

マコ:んなわけあるかぁ!

銀次:え?

マコ:どこからツッコんでいいのかわかんないんだけどさ、とりあえず私、命とか狙われてないから!

銀次:そうなんですかい、お嬢?あっしはてっきり……。

マコ:あー!その「お嬢」「お嬢」連呼するのもやめて!うち、そっち系の家じゃないから!誤解されるでしょうが!

銀次:す、すいやせん。しかし急に変えろと言われても、この喋り方が染み付いてまして。

マコ:なんで!?あなた、何してる人なの!?

銀次:あっしはボディガード!使命はあなたのお命を守ることです!

マコ:そうだけど、そうじゃない!えーと、わたしのボディガードになる前は何してたの?

銀次:へい!とある組織に身を置かせてもらいやして、今よりデカいシマを任されてました!

マコ:もっとわかりやすく!

銀次:へい!警備会社でバイトしてました!

マコ:最初からそう言ってよ!

銀次:すいやせん、お嬢!……じゃなくて。お嬢さん。あっし、生まれにちぃと事情がありまして。

マコ:え?まさかおうちが……そういう、家系とか?

銀次:親父が任侠映画の大ファンでして!物心ついた頃には、仁義の心とこの口調が魂に刻み込まれてやした!

マコ:刻むな!忘れろ!……もう、パパはなんでこんな変な人を採用しちゃったんだろ?

銀次:へい、あっし、十文字のおやっさんの会社で警備の仕事をしてたんですが、何度か顔を合わせるうちに気に入ってもらえたようでして!
「君、気合いが入っててすごく良いね!」とか何とか!
「ぜひうちのマコちゃんのボディガードをしてほしい」と頼み込まれたんです!
それはもうすごい剣幕で、ここで断っちゃあ男が廃るってわけで、おやっさん直々にお嬢の!

マコ:(遮って)マコさん。

銀次:……マコさんの護衛を仰せつかった次第です!

マコ:つまり警備会社からの引き抜きってことね。それは別にいいんだけど、「おやっさん」はやめて。「社長」とかでいいじゃん?

銀次:親分!とかは……?

マコ:ダメ。

銀次:兄貴!

マコ:ダメ。というか、パパの兄弟みたいで余計に嫌だわ。

銀次:では、ううん……社長!(ものすごくドスの効いた声で)

マコ:あー、これはこれでヤバめの企業の社長感出ちゃってるけど……まあ妥協しますか。

銀次:さっすがマコお嬢さん、心が広い!よっ、日本一!

マコ:いちいち言葉のチョイスがアレだなー!わたしだって褒め言葉は素直に受け取りたいんだけどなー!

銀次:ささ、車にお乗りくだせぇ!我が身に変えても、お宅までお送りしますんで!

マコ:いや、大げさだから。うちまでの道、危険とか全然ないからね?(車に乗ろうとする)

銀次:はっ!お嬢、お待ちを!

マコ:な、なに!?怖いんだけど!

銀次:お勤め、ご苦労様です!(独特のポーズで頭を下げる)

マコ:あああー!そういう映画でよく見るやつー!

銀次:えっ!?お嬢も任侠映画がお好きで?

マコ:違うわ!CMかなんかで見ただけだから!一緒にしないでよ!

銀次:しっ、失礼しました!この通り、指を詰めますのでどうかご容赦を……っ!

マコ:やーめーてー!なんかそのちっちゃいカタナしまって!

銀次:ドスです!

マコ:んなこと聞いてねぇよ!

銀次:お、お嬢……!今の感じ、すごく良いです!しっくりきます!

マコ:あああー!なんか影響されちゃったー!わたしの馬鹿ー!

銀次:とてもお似合いでしたよ!

マコ:似合いたくないよ!この学校、見てよ!お金持ちのお嬢様やお坊ちゃまが通う名門校!挨拶なんて「ご機嫌よう」だよ!一生懸命なじもうとしてるのに、邪魔しないでくれるかなぁ!?

銀次:たしかに、立派な校舎ですよね。「鉄砲玉」のひとりやふたりじゃ、落とせそうにねぇや。

マコ:毎日毎日、慣れないお嬢様口調で舌噛みそうになって。ようやく慣れて来たと思ったら、変なボディガードのせいで台無し!もうやだ……。

銀次:そ、そんなご苦労があったとはつゆしらず、申し訳ねぇ!エンコ詰め(えんこづめ)が駄目となると、腹を切るしか……!

マコ:余計にダメだよ!ほんと捨てて来てよ、そのドスとかいうやつ!

銀次:しかし、いざとなったとき、どうやってお嬢さんを守れば……。

マコ:いざというときなんて来ないから!ていうか、使った時点であんたが逮捕されるからね?

銀次:す、すいやせん。今日限りでこいつは封印しときやす。

マコ:そうして。マジで。

銀次:あの、聞いて良いのか迷ったんですが……。お嬢さん、社長の娘さんにしては、口調が砕けてますよね。さっきも、お嬢様学校に馴染むのが大変とかおっしゃってましたが……?

マコ:ああ。パパの会社、今は大きくなったけど、少し前までは従業員が数人しかいないちっちゃい会社だったんだよ。

銀次:なるほど、おや……社長は一代で財を成した傑物って訳ですね!

マコ:本人は「たまたまパパのやってることと最近のニーズがマッチしただけ〜」とか言ってるけどね。実際、すごいなとは思ってるんだ。

銀次:ええ!間違いなく社長と舎弟、じゃなく部下の皆さんの努力の結果でしょう!

マコ:わたしがこんなに設備の整った学校に通えてるのもパパのおかげだからね。パパは急に会社が大きくなってもうまくやってる。家では、昔のままのパパなのにね。

銀次:昔も今も変わらず、お嬢さんにとって社長は良い親父さんなんですね?

マコ:まあね。昔のまんますぎて、いつまでも子供扱いしてくるのはちょっと困ってるけど。

銀次:フッ。それは、あっしでも困っちまうかもしれやせん。

マコ:パパに比べたらわたしは、なかなか変化に追いつけなくてさ、そのくせあっちこっちに影響受けて流されて。あはは、なんか情けなくなってきちゃった。

銀次:お嬢さん……。

マコ:でも、もうちょっと頑張ってみるよ。この学校も友だちもけっこう好きだからさ。パパが頑張ってるのにわたしだけうじうじしてるのは、なんか悔しいし!

銀次:ううっ……お嬢!

マコ:えっ!なんで泣いてんの!?

銀次:うぐっ!あっし、こういう人情話には弱くて……くうっ、良い話だ!

マコ:はは、義理と人情、だっけ?それにしても、鬼の目にも涙ってこういう状況で使うのかな?

銀次:こりゃ、一本とられましたな!さすが、お嬢!

マコ:あ、涙のインパクトで忘れてたけど、「お嬢」呼びに戻ってるから。

銀次:あ、すいやせん!気をつけます!いや、いけませんね!マコさんだって、社長だって努力してるのに、あっしばっかり甘えるのはいけねぇや!

マコ:(銀次を見て微笑む)

銀次:何ですかい?そんなに見つめられると照れちまいます。

マコ:銀次さん(お銀さん)、ちょっと変わってるけど、悪い人じゃないんだなって。これからよろしくね。

銀次:あっしを、認めてくれるんですか?

マコ:うん、護衛っていうとおおげさだけどさ、面白い運転手さんが来てくれたって思えば、悪くないかなって。

銀次:マコさん……!恩に着やす!

マコ:できれば、言葉づかいはちょっとだけ直してくれると助かるけど。「シマ」とか「ドス」とか誤解を生みそうなな感じのやつは。

銀次:はい!それはもう!マコさんのおそばに控えるからには、お貴族の言葉だって身につけねぇと!

マコ:あはは!お貴族って!

銀次:(照れ笑い)

マコ:ん……おそばに、ひかえる……?

銀次:?

マコ:ねぇ、確認なんだけど、銀次さんって運転手さんだよね?

銀次:あっしはお嬢さんの護衛ですが。

マコ:あ、放課後は一生に過ごすことになるもんね。ボディガードって呼んでもおかしくはないか。

銀次:いえ!今日は初日なので色々と教わることなどありまして、こうして放課後に馳せ参じましたが、明日からはお勉強中もお守りします。

マコ:え?

銀次:あっしも講義がありますんで、常にお側に控えるのは難しいんですがね。マコさんもご存知の通り、この学校のセキュリティは大したもんなんで、ご安心いただければ!

マコ:ん?なんて?銀次さんの、講義?

銀次:あ、申し遅れやした!あっし、この学園の大学部に通ってるんです!

マコ:……。

銀次:マコさん?

マコ:うそだろー!?

銀次:本当です。ほら、学生証。

マコ:マジじゃん!……え?なに?実はお金持ちなの?はっ、まさか本物のヤク……!

銀次:いえ、ごくごく平凡な家の出です。学費は特待生で免除されてます。

マコ:成績優秀!それはそれで意外!……あ、警備員のバイトは生活費を稼ぐため?えらいね!

銀次:お褒めに預かり光栄の極み!へへ、それに、今日からはマコさんの護衛で一日中お側におりますんで、報酬もたんまり弾んでもらいまして。

マコ:あー!そうだった!一日中お側にってどゆこと!?

銀次:はい!講義のない時間や昼休憩なんかは、マコさんのお側で護衛いたしやす!

マコ:そ、そんなのありなの?

銀次:はい!学校と親父さんとの間で話はついてるとのことです!

マコ:マジか……。マジかぁ……。

銀次:あらためまして!この銀次、ふつつかものではございますが、精一杯勤めさせていただきます!何卒よろしくお頼み申し上げます、お嬢!じゃなくて、マコさん!

マコ:……。

銀次:あれ?どうかされました?

マコ:特訓。

銀次:はい?

マコ:その口調、真ッ当に叩き直してやる!

銀次:へ、へいっ!

マコ:わかったら今すぐ帰るぞ、銀次!車出せ!

銀次:……やっぱり、あんたがあっしの親分だ……!

マコ:銀次ィ!

銀次:はい、お嬢!一生ついて行きます!


(了)

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