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夏休みの終わり

 空港ロビーには人けがなかった。
 清潔な白い光に照らし出されただだっ広い空間内を、時折全自動のカートがあちらからこちらへ、こちらからあちらへと何かを運んでいく。
 長いこと閑散としていたその動きが、ある時を境に、急に活気を増し始めた。動きは慌ただしくなり、カートの数も増え始める。
 そして、突然、到着便の予定を告げる館内放送が響きわたる。それはこの空港に久しぶりに流れた、意味のある言語をなす音だった。
 昨日まで、ひと月以上、空港内は全くの沈黙に包まれていた。移動するカート、航空機の離着陸、荷物の積み下ろし、そういった全てが無言のうちに行われ、誰一人、声を発する者がいなかったのだ。
 聞くものとていないのだ、当然のことではあった。だがならば逆に、今しがた流れた音声は、一体誰のためのものだったのか。聞くものがいないのは同じことなのに。
 それは、間も無く明らかになった。
 タラップからの長い通路を経て、ロビー内に人間が次々にたどり着いたからだ。
「長かったなー、夏休み」
 誰かが口にする。
「そうか? 一瞬だっただろ」
「いやあ、主観じゃ確かにそうなんだけどさ、こう、体に変な疲労が溜まっているっていうか」
「あー、副作用だな」
「そそ。全く、こればっかりは慣れねえよなあ」
「まあな。俺はそれより、外がどれだけ暑いのかって思うと憂鬱だけどね」
「はは、ちげえねえ。こうして帰ってきた以上危険はないんだろうけどね、涼しくなるのはまだ当分先だろうな」
「いっそ、暑い時期はまるっと休めたらいいのにな」
「まあそうもいかんだろ。経済も工場もインフラも、みんな自動化されてるとはいってもさ、「創造的生活」は今や人間の義務なんだから」
「義務ねえ。なんだか、生きるために生きてる、みたいな、変な感じがするんだよな」
「まあ、わかるけど」
「その上、たいしたこともしてないのに強制的に「休め」って言われてもさ」
「仕方ないだろ。今や真夏の地球上は人類の生存に適さないほど暑いんだから」
「だからってなんで軌道上で、しかもコールドスリープとか」
「南半球だって人でいっぱいなんだ、こっちの都合で間借りなんかできんだろ。それに宇宙だって生存に適してるわけじゃないんだ。つまりコールドスリープするなら暑いとこより軌道上の方が都合が良かったって話だろ」
「夏休みって言われてるけど、夏休み感ないんだよなあ。海にも山にも墓参りにも行かないし、スイカも食わない、虫取りもしない」
「地上にいたってするか? 今さらそんなこと」
「そりゃそうだけどさ……ただ、思うんだよね」
「何だよ?」
「このままコンピュータの言うなりになってたらさ、気がついた時には人類全員、終わりのない夏休み、なんてことになりかねねえんじゃないか、ってさ」

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