モテる部活

「部活決まった?」
「いや、まだ」
「全員入れって言われても困るよな。正直やりてえこともないし」
「だよな。中学も帰宅部だったし」
「あ、俺も俺も」
「あー。ぽいわ(笑)」
「わかる?(笑)」
「見学にはいった?」
「うん。まずサッカー部だろ」
「なんだよ、やる気ない割には気合の入ったとこ見に行くじゃん」
「それな(笑) いや、どうせ入るならさ、モテる部活がいいなと思って」
「わかる(笑)それ重要」
「な。でもさ、やっぱきつそうだし」
「だろうな。結構強いんでしょ、うちのサッカー部」
「そうみたい。あとそれ以上にさ、女子が」
「女子が?」
「女子マネージャーがさ、明らかに、笑顔で接する相手と、事務的に話す相手がいるのよな」
「うわ残酷」
「うん。しかも何人かいるマネージャーの間で、それがある程度共通してんの」
「えー」
「これは、サッカー部でモテるのは、一部のイケメンと上手いやつだけだぞと」
「なるほど」
「それで、却下。そのあと、体操部行って」
「体操部? 特にモテるイメージねえけど」
「いや、オリエンテーションの時さ、喝采浴びてたじゃん。あれみると、アピール力は高いんじゃねえかと」
「確かにカッコよかったな、あの時の演技」
「そう。だけど、こっちもあんま変わらずでさ」
「体操部もマネージャーいるんだっけ」
「いや、個人競技のせいか、それはいないんだけど……明らかに差があるんだよね。能力に」
「そりゃ、あるだろうな」
「言われてみりゃそうなんだけどさ、オリエンテーションであんなもん見せられたら、『ここに入れば俺にも……!』って思っちゃうじゃん。でも現実は思った以上に残酷だったなって」
「必ずカッコよくなれるわけじゃない、か。あとは?」
「軽音部」
「なるほど、バンド、モテそうだよな」
「そう思って。でもすぐ帰ってきた」
「なんで?」
「俺以外の見学者が経験者ばっかで、初心者ですって言ったら一瞬変な間があって。あげく超絶技巧のギターの速弾き聞かされて、こりゃ無理だわって帰ってきた」
「そっかー。俺は、野球部、水泳部、テニス部。まあ似たような感じだよ」
「結局、入っただけでモテるような部活はないってことかねー」
「当たり前なんだけどねー(笑) 楽してモテたいよねー」
「ていうか、努力するくらいならモテなくてもいいよねー」
「ちげえねえ(笑)」
「聞いたぞ!」
「うわっ!」
「なに! つか誰!?」
「よくぞ聞いてくれた! 私は科学部の三年生、枝葉だ! よろこべ! 君らの大好きな女子高生だぞ!」
「いや、俺らも高校生ですし」
「科学部、っすか」
「うむ。君たちの、十代男子特有の性の懊悩とリビドーの噴出トークは十分に聞かせてもらった!」
「性の懊悩て」
「つか、噴出するよりだらだらしたいって話してたんですが」
「それでいいのか!」
「いやあの」
「いいのかといわれても」
「もし、もしだな! 生来の優れた容姿も、運動部の厳しいトレーニングに耐える根性もない君らのような」
「ちょっ」
「そんなにはっきり」
「君らのようなものでも、モテモテになる可能性があるとしたら、どうする?」
「いやそこまで恥知らずじゃないですよ」
「ただ非モテを受け入れて学校の片隅でひっそり暮らしていこうと」
「いーや無理だ。君らの抑圧されたリビドーは、きっとそのうちよからぬ形で噴き出すぞ」
「そんな決めつけないでくださいよ」
「身の程知ってるだけで、別に女を恨むつもりとかないですし」
「今はまだそう言っていられるだろう。だが本当に耐えられるのか。周囲の者たちが青春を謳歌し、可愛い彼女を作り、そうではない者たちまでもが清く正しいグループ交際的な青春の輝きの中キャッキャウフフしているのを目の当たりにして、全てを諦めたふりをしたまま暗く寂しーい日々を送ることに、君たちは三年間耐えていけるのか」
「いや、そりゃ女友達くらいは欲しいけど」
「何も暗く寂しいって決まったわけじゃ」
「甘い。たとえ意識をどう取り繕おうと、無意識の欲求は膨れ上がり悶え苦しみ、君らの青春を闇の炎で焦がすのだ」
「変に文学的なディスりやめてもらっていいですか」
「ていうか、それで一体何を」
「科学部に入りたまえ!」
「はぁ?」
「いや、まあそう言う話がしたいんだろうとは思ってましたが」
「科学部とモテ、なんか関係あります?」
「おおありだ! なぜなら部長である私の興味は、主に生物としての人間にあるからだ! 生化学、神経科学、心理学、脳科学、そう言ったジャンルならはっきり言ってそんじょそこらの大学生には負けないぞ」
「自分で言いますか?」
「それで結局何を」
「鈍いな君は。つまり、つまりだ、そんな私なら、科学的にモテを解明し、君たちにその方法を伝授したり、あるいはモテ薬を作り出すことさえ、夢ではないと言うことだ!」
「大きく出ましたね」
「そんないきなり言われても信じられませんよ」
「先輩の言うことは素直に聞くものだぞ!」
「そう言われましても」
「なあ?」
「ええい! ならば、こう考えてはどうだ! モテない君たちに、華の女子高生たるこの私が自ら声をかけているのだぞ! ついて行かない手があるか!」
「あ、それは……そうかも……」
「おい、まじかよ」
「ふふん、そうかそうか、私はそんなに魅力的か」
「まあ、女子ですし……よく見れば見た目もなかなか」
「おい、やめとけって。いくら見た目がよく立って、さっきから言ってることがおかしいだろこの人」
「聞こえてるぞ! わかった、もう君には頼まん! そっちの君、君はこのあと予定はあるのか。ない? よろしい、それではついてきたまえ!」
「はい。あ、じゃあ、またな」
「お、おう……」

「お前、最近やつれてねえか」
「部活がさ……」
「あ、科学部?」
「おう。行ってみたら先輩以外は幽霊部員でさ。あれから毎日二人っきり」
「え、お前、それじゃあまさか」
「来る日来る日もデータの入力とか実験の手伝いとか。なんか怪しい薬飲むことを強要されたり」
「え、やべえじゃん」
「やべえ。やべえとは思うんだけど、なんか盛られたのかなんだか、毎日気がつくと部室に行ってる。先輩が言うには、五感をインターフェースとした行動パターンのプログラムをしたからだ、っていうんだけど」
「なんのことだよ」
「わかんね。わかんねえけど、これはこれで満足しちゃってるんだよね。正直それが一番やばい気がする」
「お前……」
「お前の方はどうしたんだよ、あれから」
「合唱部に入った」
「合唱部? そりゃまたモテとは遠そうな」
「そりゃ部外からはモテないんだけどな。部内は女子いっぱいだし。テナーの先輩から、部内カップル成立率ならうちが一番だぞ、って聞いて」
「なるほど」
「最悪彼女できなくても、女子と一緒に楽しく部活動できたらいいかなと思ってたんだけど」
「だけど?」
「なんつーか、結局さ、人気者が中心になって、みんなそちばっか見てんのな」
「サッカー部女子マネの再現か」
「そうそう。結局さ、”モテる部活”なんかなくて、モテるやつがいるだけなんだなって」
「現実は残酷だねえ。うち、きてみる?」
「いや、やめとく」

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