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男子宝石

 幼い頃、友だち皆で順番に塀の上から飛び降りる中、僕だけが怖くて飛び降りられなかった。
 馬鹿にされ、泣いて帰った僕に、兄貴は優しく言った。
「泣くな。男だろ?」
 そして、僕の手を取り、小さな硬いものを握らせた。キラキラした青い宝石。
「それは男らしさの塊なんだ。それを持ってれば、大丈夫。どんなことにもチャレンジできる」
 翌日、本当に、誰よりも高いところから飛び降りて皆の尊敬を集めたその時から、僕は変わった。物おじせず何にでも取り組む、明るい性格に。
 それまで逃げ回る一方だったドッジボールでも、積極的にボールを取りに行き、相手に投げられるようになった。
 僕は全てのことに、全力で取り組み続けた。

「無理しすぎたのよ」
 彼女は言う。過労で倒れ、しばらく休養するよう医者から言われた僕の手を握って。
「大丈夫。もっと頼って」
 あの「宝石」がただのプラスチックだなんてこと、とっくに気づいてたのにな。
 僕はその代わりのように、彼女の手を握り返した。



※『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』


今週のお題「男子宝石」で書きました。
先週はお休みしちゃいましたが、続けていきますよー。

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