そこに立つもの
サイリウムを振りながら、ふと違和感を覚える。推しグループ「ピュアカオス」がパフォーマンスを繰り広げる真ん中に、一人だけ、知らない人影が。
新メンバー? そんなの聴いてない。そもそもあれ……人、なのか?
「見ちゃダメです」
声が聞こえる。振り向くとサイリウムを振りながら、隣の人は目線だけこちらに向け、一方の指を口の前に立てる。
「気づかないフリして」
ただごとではない様子に、訝しみながらも、俺はいつも通りの応援を続ける。真ん中に突っ立っている、棒とも人ともつかぬ影を、努めて無視しながら。
終演後、物販列で聞いた。それは「棒アイドル」。アイドルのライブに現れ、熱心なファンだけに見える存在。誰かがそれに気づいたそぶりを見せると棒アイドルは姿を消し、その後そのアイドルの人気はみるみる凋落してしまうのだと。
「座敷わらしみたいなもんですかね」その人は笑う。ホールの隅に突っ立つ棒のような影から、俺は目を逸らす。
※『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』
たらはかにさんの企画 #毎週ショートショートnote への参加作品です。