クリスタル 2021年いぶき俳句会掲載分

クリスタル

美容師の指のやはらか冬に入る
小春日の遮光カーテンより漏れる
オムライスの旗はブラジル小六月
空気濃き朝の公園柿落葉
枯れた草枯れゆく草や雪蛍
凩のぴぽぽ身体をかけめぐる
雉鳩と古墳勤労感謝の日
雑談に混じらぬも良し毛糸玉
先輩の腕のケロイド十二月
焼芋をぶつきらぼうに差し出しぬ
正露丸ばらばら床へ開戦日
厨房の大きな小言ブロッコリ
朗読すポインセチアを傍らに
一茶忌のSiriと話して暮れにけり
冬ぬくし犬の匂ひの小座布団
地下街のガラスの曇り日記買ふ
着ぶくれて百人一首諳んずる
賛美歌や初めて氷柱見る子供
キューピーに毛布一枚掛けて寝る
糸くずの糸のぽつてり年惜しむ
焚火消す踵を返すやうに消す
工房の吊るしたタオル山眠る
給油所のぽつかり広し除夜の鐘
薄揚げの端の膨らむ淑気かな
お不動の大吉引いてより寒し
女らの散らばつてゐる手毬かな
橙の香の中ご近所さん帰る
試写会の椅子の窮屈松の内
息白く手相見るわと画学生
吊り革の揺れ大寒のずんと来る
風花や銀の器のドライカレー
寒の滝小指浮かせて撮る写真
ハザードマップをデータ圧縮鯨来る
月冴ゆる電光掲示板の訃報
信号の一斉に青落葉踏む
似顔絵の八重歯おほげさ初天神
金網の袖口に触れ薮柑子
洗面器に冬の私をこぼしつつ
鯛焼の焼かれ孤独となりにけり
冬菫妖精の羽ちぎる夢
橋渡る男の遠き枯野かな
生きることペンを取ること冬北斗
リストカット例へば千の大白鳥
玄関にカトレアを置き人の去る
放課後の渡り廊下を鎌鼬
つげ櫛の隙間の美しき冬の夜
梟や鍾乳洞の断面図
手袋をいくつも失くし大人になる
原稿にコップの跡や日脚伸ぶ
ワイシャツのアイロン自在春を待つ


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