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空の器06/かくれんぼしているだけならよかったのに


 最終月経からカウントしてだいたい7週に入ったと推測。するとつわりが強くなった。いろんな香りがよく分かった。


 でも1回目の内診で胎児心拍が見えなかったので、周りに告げることはできなかった。妊娠初期は流産しやすい。余計に心配になっても相談はできない。
 気持ちが悪くてもしんどくても、隠して働くしかなかった。
 看護師の仕事は結構ハードだ。座っている時間も少ない。走ることも、体を抱えたり抱き上げたりすることも多い。妊娠を告げられれば少しは回避も出来ようが、それを周囲に告げられないということは「周囲と同じ働きをしないと不自然になってしまう」。


 よく看護師は「赤ちゃんと仕事とどっちが大事なの、赤ちゃんを守れるのはあなただけよ」なんて言われます。それは「妊娠が確認出来て」「周りに配慮してもらうために告知して」「周りに協力してもらう」そういう流れが必要です。妊娠が確定していればその配慮ができる。しかし、確定していない以上、不要ないさかいは避けたいというのが内心でした。
 異動してすぐという時期も障って、余計にそう思ってしまって、私は仕事をそのまま続けた。

 でもそれは、妊娠していると思っていたからだ。私もみんなと同じように通常妊娠をしていて胎児心拍がまだ見えないだけ、赤ちゃんはかくれんぼしているだけ。
 そう思っていたから酷いつわりも、それを抱えたままでの看護師の通常業務も頑張れたんだと、あとになって気が付きました。


 初診から1週間後の2回目の受診。その時も胎児心拍の確認はできなかった。確認できたのは胎嚢だけだったのだが、経腟エコーの不快感の中で耐えた。
 そこで先生に「ちょっと採血してきてくれる?」と私を内診室から送り出した。

 検査結果が出るまで時間がかかるからしばらく待ってねと受け付けのお姉さんに言われて、たくさん待って、次に呼ばれた時に診察室であるグラフを見せてもらった。
 hCGヒト絨毛性ゴナドトロピンの妊娠中の推移するグラフだ。妊娠が進むにつれて増加していくものなのだが、
「正常な妊娠ではこの数値はこのあたり、まあ、多くてもこのへん。でも君のはこのあたり。正常妊娠の可能性もあるけど、多すぎる」


 hCGは妊娠検査薬で反応するホルモンの一種だ。妊娠している場合血中や尿中に認められるもので、それが高かった。本来週数的に10000で良いところが80000近くあった。単純計算で8倍だ。

「胞状奇胎というものかもしれないね。また来週来てもらって、その疑いが強ければその次の日に子宮の中を綺麗にする手術をしないといけない。この場合は日帰り手術になるね。これはただの流産や死産じゃない。できるだけ早く手術して綺麗にしてあげて、病理検査に出す必要がある。病理検査に出してその結果で判断することになるだろうけど、胞状奇胎だと思うよ」
と、先生は言った。

 私が看護師だから、比較的あっさりと話していたんだろうと思う。来週受診してその次の日に日帰り手術。それくらいタイトに処置をしないといけない。そういうことなんだと感覚で理解した。


 ただ心音が見えないだけじゃなかった。

 赤ちゃんが育ってないだけじゃなかった。

 もっと、厄介なものだったはずだ。でも、いくら記憶をたどっても「ブドウの房みたいに絨毛細胞がたくさんになって困る病気」くらいの認識しかなかった。


栄養剤をぶっ差してやってくださいませ(´・ω・`) ナニモノにもなれないようなナニモノにかはなれたような、不完全で不器用な人間のはず。良かったら戯れてやってくださいませー!