参勤交代 教科書の記述
本日もよろしくお願いいたします。参勤交代について、先日またTwitter上で色々といわれてきました。
僕が参勤交代についてまとめた記事は3年前でしたが、今回は中学社会の検定教科書を使って少し考察していきたいと思います。
最後までお付き合い、よろしくお願いいたします。
■3年前の記事
こちらは3年前に僕が記事としてまとめたものです。
問題の言い回しで解答が変わる、という意図で元々使用していましたが、有識者の方からの指摘を受けて、改めて記事としたものです。基本的な話はこちらに書いています。
もし、この内容で不備などございましたら申していただけると幸いです。
■問題となっている理由
では、この参勤交代がどういうことで問題となっているのか、ですが、先日のこのツイートを見てください。
日本史受験者で「参勤交代の目的は、大名の経済力を削いで反乱を予防すること」などと勘違いしている人はかなり重症。
— 磨斧作針 (@minonaruki7) April 29, 2023
悪いことは言わないから、今すぐ野島先生の授業を受けた方がいい。
数学で言えば分数を0で割れると思っているくらい重症。
そう。以前僕が指摘を受けた個所そのものなのです。僕も数年前まではそれを信じて疑わなかったのですが、「目的=結果」ではないのです。
そのような指導を中学社会でやっている先生が多い、ということも耳にしました。では、その原因はどこにあるのでしょうか。
そこから僕は日本史の教科書、中学社会の教科書などを一通り目を通しました。前回の記事では新課程の教科書が手元になかったので、用語集や辞書型参考書などで確認をしましたが、今回は中学社会の検定教科書を中心にどう記述されているか、まとめていきたいと思います。今回は中学社会8つの検定教科書全てを考察したいと思います。
■中学社会歴史 検定教科書の記述
➀東京書籍
シェアが多い歴史教科書の御三家の一つ、東京書籍です。そこではどう記述されているでしょうか。
【東京書籍の記述】
第3代将軍徳川家光は、☆参勤交代を制度として定めました。これ以後、大名は原則、1年おきに領地と江戸とを往復することが義務付けられました。
☆参勤交代には、大名が江戸に来て将軍にあいさつし、主従関係を確認するという、重要な意味がありました。
参勤交代の内容、重要な意味に絞って解説をしています。
②教育出版
次にシェアの多い教育出版です。
【教育出版の記述】
家光のころには参勤交代の制度を作り、大名に対して、1年おきに江戸に滞在して江戸城を守る役割を命じ、妻子を江戸に住まわせました。大名は、江戸での生活費や、領地との往復の費用がかさんだうえ、江戸城の修築や河川の修復などの土木工事も幕府から命じられたので、藩の財政はいっそう苦しくなりました。
東京書籍との違いは、費用がかさむだけでなく、江戸城の修築や河川の修復などについても触れています(お手伝普請)。が、主従関係についてはここでは触れていませんでした。
③帝国書院
中学社会歴史のシェアの御三家の最後は帝国書院です。
【帝国書院の記述】
3代将軍徳川家光のころには参勤交代の制度が整えられ、多くの大名は1年ごとに江戸と領地を行き来し、その妻や子は江戸の屋敷に住まわせられました。また、幕府は御手伝普請とよばれる河川や江戸城などの土木工事を大名に命じました。参勤交代や御手伝普請の費用は、大名にとって重い負担でした。
教育出版と記述が似通っている感じがしました。教育出版との違いは、鳥取藩の参勤交代の費用についてのコラムがまとめられていました。
④山川出版社
続いて、この新課程から新たに参入した山川出版社です。
【山川出版社の記述】
さらに、3代将軍徳川家光のときには、大名に原則として1年おきに江戸に滞在することを義務付け、主従関係の確認を行うとともに、役務に就かせた(参勤交代)。これにともない大名の妻子の多くは江戸に滞在させられることとなった。大名はこの参勤交代をはじめ、軍事的な負担や工事(普請役)などを石高に応じて幕府から課せられ、藩の財政は圧迫されていった。
上記3教科書との違いは、➀3教科書の両方について触れていること、そして②史料の記述です。
武家諸法度の史料では「毎年夏の四月中に江戸へ参勤せよ」というのはどの教科書でも触れていますが、山川はその続きも記載しています。「従者の人数が最近大変多いようである。これは一つには、領国の支配の上での無駄であり、また一方で、領民の負担となる。以後は、身分に応じて人数を減少せよ」とあります。
つまり、参勤交代の従者を減らしなさい、といっているのです。従者を減らすことは人件費の削減にもつながるので、参勤交代の費用を抑えなさい、と幕府がいっているのです。
参勤交代で藩の財政が苦しくなったのは、幕府が意図した目的ではない、ということがはっきりとわかります。藩の財政が圧迫された、と記述がありますが、これを目的とは一言も言っていません。おそらく影響・結果で記述したのだと思います。
⑤日本文教出版
所々でシェアがある日本文教出版ではこう記述されています。
【日本文教出版の記述】
幕府は、大名をたくみに配置してたがいに監視させたり、武家諸法度を定めて築城・結婚・☆参勤交代のきまりを整えたりするなど、大名の統制をきびしくしました。
☆大名は、妻子を江戸におき、1年ごとに江戸と領国に住むことが決められました。往復の大名行列や江戸住まいにかかる費用は、藩の財政を苦しめました。
どちらかというと教育出版、帝国書院に近い記述ですが、御手伝普請についての記述がないところが相違点です。
⑥育鵬社
一時期、大都市でも採択があった育鵬社の記述です。
【育鵬社の記述】
また、家光は参勤交代の制度を定め、大名に対して1年おきに領地と江戸を往復させること、妻子を江戸に住まわせることを義務づけました。参勤交代には多額の費用がかかり、幕府から江戸城の改修や河川の工事なども命じられたため、大名は幕府に反抗する力を失っていきました。
大きなポイントは、「大名は幕府に反抗する力を失っていきました」です。それ以外は教育出版、帝国書院とほぼ似通った内容となっています。
⑦自由社
私立では採択がされている自由社です。
【自由社の記述】
また、大名が1年ごとに領地や江戸を往復する参勤交代の制度を定め、大名が国元にいる間は妻子を江戸屋敷に置いて人質にするなどたくみに統制しました。将軍は江戸城の改修・修理や全国の河川の工事などを命じ、大きな藩に多大な負担をあたえることで財政力を削ぐこともありましたが、日常の領地経営はそれぞれの大名に任されました。
記述自体は教育出版、帝国書院、育鵬社に近いものがあります。財政力を削ぐ、という記述があります。
⑧学び舎
こちらも私立で採択されているところがある学び舎の教科書です。
【学び舎の記述】
大名は江戸城に登城して将軍にあいさつし、服従のあかしとしました。3代将軍・家光のとき、大名の妻子が江戸の屋敷に住み、大名が1年ごとに領地と江戸を行き来する参勤交代の制度を整えました。
別のところにお手伝普請の内容が触れています。また、大名行列の道のりと総費用についても触れています。
中学社会の検定教科書の記述については以上となります。
■令和書籍の記述は?
検定教科書に申請している令和書籍の記述はどうか、ということが気になったので、こちらについても少し触れていきます。
【令和書籍の記述】
幕府は、武家諸法度を定め、全国の大名らを統制すると、三代将軍・徳川家光のころには参勤交代の制度を整えました。以降、大名は一年おきに領地と江戸を行き来することになり、移動の経費だけでなく江戸での滞在費を各大名に負担させました。大名にとっては大きな負担でしたが、その分、街道の経済は潤いました。
ここでの一番のポイントは、「街道の経済は潤いました」の部分です。これは参勤交代の部分ではどの検定教科書でも触れていませんでした。今回のものは令和2年に申請して不合格となったものです。
すべての教科書に共通していることですが、「大名の財政負担を削いで……」ということが目的とは書かれていません。
■では、何が原因なのか?
中学社会の教科書を見た限り、前述のツイートの内容を書いていませんでした。補助輪参考書や辞書型参考書でも触れていなかったのです。
野島先生の「野島の日本史B最速要点チェック」(東進ブックス・現在は廃刊)では東京大学での出題例を題材に「大名の財政負担を……」という目的で制度化されていないことをはっきりと書かれています。現在だと「共通テスト日本史Bが1冊でしっかりわかる本[近世~現代編]」(かんき出版)や「読んで深める日本史実力強化書」(駿台文庫)などを参照するのがいいでしょう。
3年前の記事で指摘を受けて様々な教科書などを見て、何が原因か、というのを考えましたが、教科書を見る限りでは十分なものが見つかりませんでした。
実際、入試問題でも一問一答形式の問題、短文記述問題でも多数出題しています。
考えられることは、指導者がどこかで内容の曲解をしている可能性があると思います。加えて、今まで教えてもらった誤った内容をそのまま鵜呑みにして指導しているのでは、と思いました。
そして、そのような授業は個別指導を中心に起こっているのでは、と思います。また、社会を専門にしていない先生が上記のような内容を曲解して指導しているのでは、と思います。
それは、映像授業でも影響が出ているのです。そう、7~8年前にあるトライイットの映像動画です。
大体、3~4分ごろに参勤交代についての説明があるのですが、ここでは「大名にお金を使わせることを目的とする」という情報を話しています。つまり、これが7・8年前のことだとすると、2016年ごろのものだと思います(実際は2016年2月とありました)。入試問題をもとに説明しているとは思いますが、おそらく、そういう情報を誤って理解している可能性があるのでは、と思います。
ちなみに、自分がやっていた映像授業についても少し確認しましたが、やや誤解を招く恐れがある文言だったので、修正が必要と判断しています(ご指摘を受ける前の情報のため)。これについては、次に映像撮影を行う際に修正できれば、と思っています。自分のテキストについては、上記の指摘を受けて、その部分をしっかりと修正しています。
影像授業が分かりやすい、という人も一定数いるのは事実ですが、一つ誤った情報を流すと大変なことになります。そのため、近年の入試問題をしっかりと見直し、解析していかないといけません。僕も自戒を込めて指導の際にしっかりと教科書などを見ていきたいと思います。
■中学内容だからといっても……
中学内容だからといっても、高校内容や大学入試もある程度は目を通しておいた方がいいと僕は思います。おそらく、僕が中学内容だけでそのまま指導していたら、上記のような誤りの情報を流し続けていたのでは、と思います。そう考えると、指摘をいただいたことは一つのきっかけになった、と僕は思います。
中学内容だけで指導ができる、というのは限界が来ていると思います。そして、その内容が高校の地理総合・歴史総合・公共の土台になり、それから地理・日本史・世界史・倫理・政治経済といった専門的な科目につながっているのでは、と思います。
学校の先生は、新課程学習になってから授業構成など授業準備が非常に大変だと思いますが、それだけの準備をしっかりできる所には感服します。
僕も可能な範囲でしっかりと文献などを見ていけたら、と思っています(実際は購入しても読む時間があまりないのが難点……そこは少し反省しないと!)。あとは、自分の地域で採択されている教科書だけでなく、様々な教科書の文言も見ておくといいでしょう。その違いをどう授業に組み込むか、どう説明に織り込むか、を意識していけばいいと思います。
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