【高校入試紙面講義】2019年広島県 大問3

公式Twitterでも連絡した通り、昨日は僕の所用で金曜日の紙面講義を本日に変更しました。
公民で一つの単元に絞って出題する地域はあまりありません。ここ近年、広島県では一つの単元に絞って地理・公民は出題されることがあります(2020年は地理についてはテーマ地理総合問題に戻っている)。
では、こういう出題をする都道府県ではどう対策を取っていけばいいか、考察していきましょう。なお、紙面講義初の2019年の入試問題を取り扱います。
また、今回は難問が多い広島県の入試問題を取り上げますので、正答率が伸びない人も考え方をしっかりと学んでいただけたら、と思います。今週は解説部分までは無料公開なので、考え方を知っていただけると幸いです。よろしくお願いいたします。
※注意!:2021年の公立入試については、都道府県によっては国際社会の分野は出題をしないと発表があったところもあります。そのため、各都道府県教育委員会が発表しました出題範囲についての発表に気を付けてください

■問題の概略

問題は国際連合のできごとを年表にした問題です。やや現代史の歴史の知識も出てくるところがあります。思考力・判断力を求められる問題もあります。問4では公立入試ではここ近年出題されている対比討論型の問題です(広島では同年の大問1の問3で出題されている)。この問題は関連知識や背景知識が必要になります。今回はその話もしていきたいと思います。

■解説

それでは、解説していきましょう。


(1)総会は、国際連合の中心的な審議機関です。次のア~エのうち、総会のしくみとして適切なものを全て選び、その記号を書きなさい。
ア すべての加盟国で構成される。
イ 常任理事国と非常任理事国で構成される。
ウ 一国が一票の投票権をもつ。
エ 一国でも反対すると決定できない。
(2)太郎さんたちが調べると、これまで総会では世界にとって重要な宣言や条約が採択されてきたことが分かりました。次の資料は、総会で採択されたある宣言の一部を示しています。この宣言の名称を書きなさい。
【資料】
第一条 すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。

(1)この問題は、総会の内容を答える問題です。公民の正誤問題は語句でウソはついていません。内容で正誤判定をしてください。そして、広島県では恒例のすべて選ぶ問題なので、消去法という方法を使うことはできません。
アとウは総会の説明です。イとエは安全保障理事会の説明です。ここの学習が追い付いていない人は今のうちに定着させてください。よって、正解はアとウになります。
(2)この条文は、世界人権宣言です。有名な史料の最初の第一条については知っておくといいでしょう。日本国憲法・大日本帝国憲法・フランス人権宣言などは押さえておいてください。

2 下線部②(安全保障理事会の決議に基づき国連軍が派遣される)に関して、花子さんは国際連合の中で強い権限を持つ安全保障理事会の活動の目的について調べ、次のようにまとめました。花子さんのまとめはどのようなものだと考えられますか。花子さんのまとめの中の(  )に当てはまるように、適切な内容を書きなさい。
【花子さんのまとめ】
安全保障理事会は、侵略など平和を脅かす行動をとる国に対して経済制裁や軍事行動などの強制的な措置を決定し、その決定に従うよう加盟国に要求することができる。これは、(  )ことを目的としている。

今回は安全保障理事会の内容をもとに強制的な措置を行う目的を問う目的定義型の問題です。軍事行動を行った例としては、湾岸戦争やイラク戦争、アフガニスタン侵攻などがあります。これを引き起こした国に対して行います。つまり、世界の平和と安全を守るために行動をすることが書ければ正解になります。
解答例:世界の平和と安全を守るため

3 略年表中の( A )には、国際連合のある専門機関が入ります。次郎さんが調べると、この専門機関は世界の貴重な文化財や自然を人類共通の遺産と位置付け、その保護を図る活動などを行っていることが分かりました。この専門機関の名称を書きなさい。
年表 1972年:( A )で世界遺産条約が採択される。

世界遺産を取り扱う国際機関はユネスコ(UNESCO・国連教育科学文化機関)です。この問題は基本語句のため、落としてはいけません。

4 下線部③(国連食糧農業機関・FAO)に関して、咲子さんは国際連合が行っている食料に関する支援に興味をもちました。咲子さんは南スーダンに対する食料に関する支援について調べ、次のメモを作成しました。メモに示された支援(ア)・(イ)は、どちらも食料不足への対応という点は同じですが、その目的には違いがあります。支援(ア)・(イ)の目的は、それぞれどのようなものだと考えられますか。メモを基に簡潔に書きなさい。
メモ
(ア)南スーダンでは、干ばつによる被害と国内でおこった紛争により、総人口の25%近くが飢餓状態に陥った。このため、国際連合では、南スーダンの各地に食料を輸送し、人々に配布した。
(イ)国際連合では、病気や乾燥に強く比較的少ない肥料で栽培が可能な稲の普及に努めており、非政府組織(NGO)とも連携して、この稲の栽培に必要な知識や技術を南スーダンの稲作普及委員に習得させる研修プログラムを実施している。

食料不足に対する支援を行うことに対する対比討論型の問題です。いつもならどちらか一方を答えるといいですが、この問題は両方答えないといけません。なお、効率と公正の問題も両方答える問題になってますが、一文にまとめる問題も出ています。
(ア)は、食料を輸送し、人々に配布したから食料を配布することで飢餓状態を解消することが分かればいいです。(ア)についてはそこまで難しくないと思いますが、(イ)については少し関連知識を活用できなければ正答率が上がらないかもしれません。(イ)は食料の輸送ではなく、食料のつくり方を習得させる、というところから、南スーダンの自立を促し、自分たちで食料を栽培する知識や技術を身に付けて食料不足を解消させることが分かります。今の解説を見ても分かるように、できる限りメモにある言葉を使って記述しています。自分の言葉を使うのが悪いわけではないですが、記述が苦手な人は、資料などにある言葉を活用することもしていきましょう。
解答例
(ア)食料を輸送し人々に配布することで、飢餓状態を解消すること
(イ)自分たちで食料を栽培する知識や技術を身に付けることで、自立を促し食料不足を解消させること

■正答率

1(1)30.7%でした。完答であることで正答率が低いように思いますが、語句のみで覚えている人はこういう問題は苦手だと思います。
(2)38.8%でした。部分点込みだと38.9%です。宣言を規約・条約と勘違いした人がいたかもしれませんが、通常の語句の問題だと正答率は高いものの、条文という別の角度で来ると途端に正答率が下がったのかもしれません。宣言と規約は別物です。この形式も過去の公立入試で出題されていますので、関連知識として覚えておきましょう。

2 54.3%でした。部分点込みだと67.2%でした。部分点をもらえたのか、何も書かないで0点になるのか、では大きく違います。

3 55.9%でした。部分点込みだと56.2%でした。基本語句を問う問題でありながら、予想よりは正答率は低いです。世界遺産とUNESCOがつなげて覚えておかないといけません。なお、世界遺産の審査機関であるイコモスまでは覚える必要はありません。

4(ア)54.3%でした。部分点込みだと69.1%でした。こちらはしっかりとメモを読めばできていたと思います。部分点込みでも70%くらいあるため、ここでは失点すると痛いと思います。(イ)45.8%でした。部分点込みだと65.1%でした。この問題も同様にまとめやすかったかもしれませんが、(ア)と違うのは、踏み込んだ話が必要になります。その分だけ正答率がやや低かったかもしれません。しかし、それでも何か書こうとして部分点をもらっていた人も多かったので、特別に難問ではなかったと思います。

■2021年の国際社会の単元

2021年の公立入試のみの話ですが、冒頭でも述べた通り、公立入試に関しては出題をしない都道府県がいくつかあります。ですが、私立入試についてはこの限りではありません。出題については各学校の出題についてを確認してください。

では、この先からは出題がある地域向けの話ですが、限定公開といたします。こちらで今年出るであろう国際社会の問題を少し考察していきます。

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