高校入試社会究極のTactics集 年代並び替え問題の攻略
紙面講義などを通じて、全体的に正答率が低い年代並び替え問題。そろそろこんな声が聞こえてきそうです。「究極のTacticsに年代並び替え問題がないですか?」って。一応、攻略法はないわけではないのですが、基本的なやり方を身に付けなければ、いつまでたっても正答率は上がりません。
ですが、事実、年代並び替え問題の正答率はよくありません。全国の公立入試を5年分考察したら、色々と見えてきたことがあります。そういった部分をなんと、無料で本舗初公開したいと思います(ちなみに指導している機関では、日本史については指導してますが、高校入試ではあまり指導していない)。なお、この方法は日本史や世界史などの年代並び替え形式の問題でも使えます。
最後までお付き合いください。よろしくお願いいたします。
■年代並び替え問題の学習法
年代並び替え問題の学習法ですが、まずは年表で歴史の大きな流れ及び動きを掴むのがいいです。市販されているものでいえば、「歴史年表書き込みノート」(Gakken)、「スーパー歴史年表」(文英堂)など自分に合うものを一冊用意すればいいので、歴史の流れをまずは掴んでください。その時に一緒にやってほしいことは、日本の時代・中国の王朝・朝鮮の国家・世界史との関連性などを意識しながら学習してください。中学社会では日本の時代との関係性でよく出てきますので、それも合わせて学習してください。
また、下記のサイトなどでも歴史年表の学習ができます。
CAMELの映像授業を使われている方は、僕が監修しているオリジナル歴史年表講座があります。演習用のプリントも付属予定です。テキストが完成しましたら、そちらにも付属しますので、よろしくお願いいたします。
では、具体的にどのように学習するのか?一例としては該当する単元の学習をして、ノートの暗唱を行ってください。その後、上記の年表ノートなどを用いて演習をしてください。その流れ・動きをしっかりと内容と一緒に押さえ直してください。
また、実戦問題で出てくる年表を用いて学習するのもいいでしょう。あとは年号並び替え形式の問題が出たときに自分で作った年表などに書き加えるのもいいでしょう。
■年号並び替え問題の出題形式
では、年号並び替え問題の出題形式ってあるのか、といわれると、実はあります。それも、前近代(江戸時代中期まで)と近現代(江戸時代後期も含む)では出題の特徴が大きく異なります。
その特徴とは……
前近代は世紀・時代区分(大まかな区分)の出題だが、近現代は西暦区分(細かい区分)で出題されるのです。では、実際に問題を使って話したいと思います。各都道府県の教育委員会が正答率を出しているところはそれも出したいと思います。と、同時に解答のアプローチ法も示したいと思います。なお、掲載する問題はすべて各都道府県教育委員会様より使用許諾を得ています。
まずは、古代の時代並び替え問題です。こういう並び替え問題の攻略は人物・政策・歴史名辞などで判定するのが鉄則です。時代は全て飛鳥時代ですが、時期が大きくずれています。僕が言う歴史のズレとは、30~40年単位で異なる時です。30~40年未満であるなら歴史のズレは小さいと判定します。今回は前者になります。
アは大宝律令という政策が判定材料です。西暦は701年ですが、8世紀前半と判定します。イは聖徳太子の人物で判定できますが、冠位十二階や十七条の憲法といった政策も判定材料にできます。十七条の憲法は604年で7世紀前半です。この2つは時期のズレが大きいと判定できます。ウは中大兄皇子や中臣鎌足といった人物で判定します。政治改革に着手とは、大化の改新のことです。ここでは大化の改新と明記してなくても、内容から判定できるようにつくられています(これは正誤問題でも使われる技法です)。645年なので、7世紀中ごろとなります。よって、正解はイ→ウ→アとなります。
実際の正答率は吉野の手元にありますが、教育委員会からの指導により具体的数値は公表できませんが、入試ランクとしては掲載できます(この辺りも問い合わせ済みです)。ランクとしてはAランク(正答率60%以上~80%未満)でした。
今度は時代で判定する問題です。これが先ほど言った大まかな時代区分、のタイプの問題です。実際の問題では写真を見て古い順番に並び替える問題ですが、著作権等の関係で写真は掲載しません。
アは飛鳥時代、イは奈良時代直前に鋳造されました(飛鳥時代の区分ですが、奈良時代としてもいいと思います)、ウは弥生時代、エは縄文時代(世紀でいうなら紀元前20世紀くらいです)と時代で区分できる問題です。
よって、正解はエ→ウ→ア→イとなります。ここで引っかかっている人は、アとイが区別できなかったかか、エの時代区分ができていなかったかのいずれかだと思います。ただ、正答率はそこまで低くないので、このような問題は間違えると点差を付けられてしまいます。
先ほどの問題と大きく異なるのは、歴史の流れが非常に重要になる、ということが分かります。
今回の問題の肝は歴史名辞があるため、大まかな歴史の流れが分かればそこまで難問ではありません。
ポーツマス条約が1905年、下関条約が1895年、甲午農民戦争が1894年、南満州鉄道株式会社設立が1906年とわかれば、並び替えが容易です。点差を分けたのは日清戦争と日露戦争の前後関係がそれぞれ理解できてたかが正答を分けるポイントとなりました。
正解は、ウ→イ→ア→エとなります。
そして、正答率28.9%を見る限り、先ほどの問題と性質が異なることが分かります。先ほどの例2では大きな時期のズレを判定すればいいのに対し、今の例3では、近い時期の因果関係や流れを正確に把握しないといけないため、このトレーニングができていないことがわかります。
なお、同時期の並び替え問題を出した2019年の埼玉県では正答率が7.4%で2019年の大阪府が35.4%です。これだけ見たらわかるようにこの形式の並び替え問題の正答率が悪いことが分かります。前者は点差を付けられる可能性はあるが、後者は点差を付けることができる、ということがここからでもわかります。ただ、大阪府については、並び替え問題といっても選択肢になっているため、その分だけ正答率が多少上がっているのでは、と思います(といっても、やり方は大きく変わらないはずですが……)。
※追記:入試問題の許諾関係で問題を差し替えました。よろしくお願いいたします。
現代の並び替え問題ですが、問われる形式によって正答率が異なります。今回は先ほどの例3のように歴史名辞で判別が可能です。注意点は正しいものを3つ選んだうえで古い順番に並び替える形式です。いくつかの府県でも問われる形式なので、気をつけましょう。
アの日中平和友好条約は1978年、イの公害対策基本法は1967年、ウの農地改革は1946年、エのPKO協力法が1992年。高度経済成長が始まるのが1955年からなので、これらの年号が分かれば、ウ以外を選んだうえで、古い順番に並び替えてください。正解はイ→ア→エとわかります。
なお、同じ戦後の並び替え問題を出した2019年の大阪府の正答率は42.4%となっています。この問題は出題頻度の高い高度経済成長期の並び替え問題だったことが影響していると思います。
※追記:入試問題の許諾関係で問題を差し替えました。よろしくお願いいたします。
これを見て、何か気づきませんか?上記の例題4つと明らかに異なる点があるのです。
実は、イの選択肢が工場法とすぐにわかればいいのですが、この問題では工場法の内容がそのまま選択肢として使われているのです。そして、アについても勤労動員という歴史名辞を使わないでそのまま内容が選択肢として使われています。このタイプの問題は正答率が下がります。よって、ウの八幡製鉄所を基準に大まかな動きを考える必要があります。
1880年代半ばに産業革命がおこり、女性が工場で出稼ぎを行いましたが、低賃金・長時間労働が問題となりました。日清戦争後、労働条件の改善を要求するために労働組合が結成されました。そんな中、日本は日清戦争の賠償金を元手に官営の八幡製鉄所を1901年に操業します。その後も労働条件の改善を訴えていき、1911年に工場法が制定され、1916年に施行されました。そして、第二次世界大戦中には工場などの労働者を補うために、中学生や女学生も鉱山で働くようになりました。
この動きを知っておく必要があります。それが分かれば、正解はウ→イ→アとなります。
正答率についてですが、熊本県は県庁で正答率などは公開はしていますが、Webでは公開していません。また、郵送などの対応もされていませんので、現状は入手出来ていません。予想正答率ですが、20%~30%くらいでは、と思います。ただ、アが難問だとしたら正答率は10%前後になる恐れもあると思います。
実は、年代並び替え問題については、このように歴史名辞を使わないで内容だけで選択肢を出してくるケースもあります。もちろん、正誤文でもこのような形式がある場合もあります。そのため、語句だけで探そうとしても手がかりが見つからないため、難問となってしまうのです。
■年号並び替え問題の攻略は?
実際の入試問題を使って、アプローチ法を話しましたが、例1・2は大まかな時代・時期区分で判定できますが、例3・4では反面、西暦年が分かっていなければ解けない問題もあります。そして、例5のように、歴史名辞を使わない選択肢も出ているのです。それぞれの攻略法を話したいと思います。
➀時代別の年表を使って流れを掴む
⇒それを行ったうえでやることは、その時代に活躍した人物・政策・事件などを押さえてください。同時に、中国の王朝や朝鮮の王朝、世界のできごとも合わせて押さえるといいでしょう。これは前述した通りなので、特に問題はないと思います。
そのときに、歴史名辞があるなら判定材料として使ってもいいです。ただし、気を付けないといけないのが、判定語句などが内容や語句の意味に置き換えられているときです。正誤問題でもそうですが、これは判定材料として見つけないといけません。
その上で、まずは確実な前後関係を掴んで、そこから選択肢を絞ることはできますので、それだけでも正答率は上がります。
②近現代はテーマの流れも掴む
⇒近現代は前近代よりもより正確に時代の流れを掴まないと正答率が上がりません。では、どうするか。一つはテーマでの流れを意識すること、もう一つは西暦年も意識して押さえてください。その時に教科書などで出る順番を意識して学習してください。
基本的なやり方は前近代も正誤問題も同じですが、それを正しく並び替えられるかをトレーニングしてください。
③語句や人物・政策などの並び替えを演習する
⇒一番やりやすいのが、語句・人物などの時代並び替えができるかどうかをやってみるのがいいと思います。例えば、推古天皇・聖武天皇・天智天皇の正しい順番ができるか、という練習問題をやってみてください(正解は推古天皇・天智天皇・聖武天皇)。その上で、その人物が行った政策・事件・関連人物なども合わせて学習すればいいでしょう。
例5のようなタイプの問題もありますので、内容→語句に置き換えられるようなトレーニングも忘れないようにしましょう。もちろん、語句→内容の置き換えもできるようにしましょう。丸暗記だけでは通用しません。
今までの丸暗記だけの学習では、年号並び替え問題の正答率は上がりません。日本史になると、元号も判定材料になることもあります。それも含めて判定材料を作っておくといいでしょう。
もし、並び替え問題が苦手な人は、こういう形式の問題に慣れておくといいですが、共通テストでは、時代の流れの並び替えに加えて、因果関係の関係性もできるようにしないといけません。こういう形式も知っておかないと正答率を上げることはできません。
■正答率が下がっている原因は指導者にもある?
指導者の中には、このようなアプローチ法を否定する人がいます。ですが、自分たちが指導しているやり方で正答率を安定して上げることができていますか?正答率が上がっていないこと、歴史の正答率が下がっている、社会の平均点が下がっている、など実際の公立入試でこのようなデータが出ています。その原因を掴んで対策しないと意味がないと思います。それを無視して、ただ暗記したらいい、という無責任な指導はできないと思います。
社会を指導する先生は、本来は暗記だけに頼らない指導ができなければなりません。合格するためだけなら、暗記推奨でもいけますが、その先につながる指導ができなければその後、苦労することになると思います。
僕はこのような正答率が下がっている原因を少しでも正答率を上げたいと思い、紙面講義を行っています。高校入試までに社会などが仕上がっていない場合、紙面講義を購読して少しでも正答率が上がるような対策をしてください。社会ばかりに時間を取られすぎないこと、科目バランスを取ること、など気を付けなければならないことはありますが、この時期でどうしても模試などで点数が上がっていない人は一つの参考にしていただければ、と思います。
皆様のサポート、よろしくお願いいたします。