【大学入試紙面講義】第1回施行調査 大問5 A

水曜日はいつも通り大学入試センター試験・共通テストの考察を行います。今回は近代史の問題を取り扱います。
近年のセンター試験は、大問1がテーマ史、大問2が原始・古代、大問3が中世、大問4が近世、大問5が明治、大問6が大正以降、となっています。しかし、共通テストは大まかな時代幅はセンター試験と変わらないものの、古代でも中世・近世の話が出ることもあります。それは、関連性を重視していることからも分かると思います
例えば、大問3は中世の問題ですが、Bの問題で奈良から平安の仏教史の関連で出ています。それを受けて、時代別の問題といいつつ、関連性を重視した問題も出ていることが分かります。
今日は共通テスト第1回施行調査の大問5Aを扱います。よろしくお願いいたします。今回より問題は赤本やサイトより取り込んでください

■問題(概略)

Aの問題は、年表を使って答える問題です。問1では、3枚のカードを使った並び替え問題です。それぞれに入る内容の組合せを答える問題です。基本的には時代の流れを説明する問題です(2回目も似たような問題があるが、問われるアプローチが多少異なる)。問2は評価と根拠を答える問題です。かつてセンターでもあった語句と内容の整合問題を内容と内容の関連性で問わせる方式に変えています。問3はセンターでは聞かれなかった方式で、どちらかを選んで、その理由を整合する方式です。その答え方を解説したいと思います。
今回は、それぞれの解き方が分かれば点差を付けることも可能な問題ばかりです。それでは解説に行きましょう。

■解説

問1
カード2:ペリーが来航し、武力を誇示しながら大統領の国書を渡して、日本の開国を求めた。
a アメリカはカリフォルニアまで領土を拡げ、太平洋を横断する貿易船や捕鯨船の安全に関心を持った。
b アメリカでは国内を二分した戦争が終わって統一が回復され、海外通商に関心が生まれた。
c 瓦版や錦絵が多数出回り、民衆の間でもアメリカなど欧米への関心が高まった。
d 新たに開港場が設けられ、アメリカは日本にとって最大の貿易相手国となった。

この手の組合せ問題は、カード1:a・b、カード3:c・dでそれぞれ正誤判定をすればいいです。これは今までのセンター試験の解き方と何ら変わりません
カード1の判定です。aは正文です。カリフォルニアまで領土を広げたのは1848年です(ただし、この年号を覚える必要は無い)。bは誤文です。文章自体は正しいのですが、国内を二分した戦争は南北戦争で1861年です。よって、これは開国後に起こったことなので、カード3に入る内容です。しかし、選択肢ではカード3にbを入れることはできないため、誤文となります。ただし、文章自体は正しいこと、南北戦争と語句で書いてなくても、内容から判断しないといけません
カード3の判定です。cは保留の選択肢です。こういう判定不能の内容が出てきた場合は一旦解答を保留します。こういう選択肢を○っぽい、×っぽいと答えると正しい正誤判定はできません。dは誤文です。今回はアメリカは日本にとって最大の貿易相手国、の部分が誤りです。アメリカは貿易が始まったのちに南北戦争が起こっていますので、貿易どころではなくなります。そのため、この選択肢はカード3に入るものの、内容が誤りのため、カード3にはcが入ります。もし、この正文を知らなければ、周辺知識として足しておくといいでしょう。開国後の文化の単元で付け加えるか、開国後の影響で加えておくといいでしょう。
よって、正解は➀です。

問2 下線部ⓑは日米修好通商条約の調印
評価
X 幕府は西洋諸国との外交経験が不足しており、外国の威圧に屈して、外国の利益を優先した条約を結んだ。
Y 幕府は当時の日本の実情をもとに外交交渉を行い、合理的に判断し、主体的に条約を結んだ。
根拠
a 後に条約を改正することを可能とする条文が盛り込まれていた。
b 日本に税率の決定権がなく、両国が協議して決める協定関税制度を認めた。
c 外国人の居住と商業活動の範囲を制限する居住地を設けた。
d 日米和親条約に引き続き、日本は片務的最恵国待遇を認めた。

今度は日米修好通商条約締結に対する評価と根拠を答えます。正誤組合せは先ほどの問1と同じです。ですが、今回は文章自体は正しいため、表かと根拠が整合できるかで判定します。
Xは外国の利益を優先した条約から、日本は不平等条約を締結したことが分かります。aについては事実ですが、外国の利益を優先した条約、という内容とは関係がありません(史料集では載っていないが周辺知識として入れてもいいと思います)。よって、bの方を正文にしなければなりません。
Yは日本の実情に応じて、とあるので、海禁政策(鎖国)を尊重した形で、開港地を限定したことから判定できますので、cが正文です。dですが、片務的最恵国待遇は日米和親条約のみの話なので、修好通商条約では行っていません。そのため、誤文と判定します。こっちの方が簡単に判定できたのでは、と思います。
よって、正解は③となります。

問3
できごと
➀桜田門外の変 ②第二次長州征討
理由
➀ この事件の結果、流通機構が混乱し、幕府の市場統制力が弱まったから。
② この事件の結果、圧倒的な軍事力を背景とした幕府支配が困難となったから。
③ この事件の結果、幕府は朝廷への報告を行い、諸大名にも広く意見を述べさせたため、外交を専断できなくなったから
④ この事件の結果、一部の幕閣による専制政治を進めてきた幕府が、強権で反対派を押さえられなくなったから。

問3はこの共通テストになってから初めて出た形式の問題です。2つのできごとから一つを選び、それに対応する理由を答えます。この問題のポイントはわかるものから判定することです。その後、解きやすい方を解答と選べば正答率は上がると思います。
理由を一つずつ解析しましょう。➀は流通機構が混乱したことは、日米修好通商条約の結果と判定します。②は幕府支配の困難は、幕藩体制の崩壊を意味します。よってそれに対応するのが、長州征討の失敗です。今までは幕府の権威をもって征討できたものができなくなったのです。③は幕府が朝廷への報告を行い、諸大名にも広く意見を求めたのは、ペリー来航が起こってから老中阿部正弘が行いました。これにより、幕府の権威が落ちるきっかけとなりました。④は強権を発動できなくなったのは、強権を誇っていた大老の暗殺が予想されます。よって桜田門外の変と推察します。
よって、できごとを➀とした場合、根拠は④できごとを②とした場合、根拠は②となります。

■正答率

問1 34.2%でした。この並び替え問題は慣れていなかったため、難しかったかもしれません。前後の歴史事象の関係はセンター形式の年号並び替え形式に近いと思います。苦手な方は実戦問題集などでトレーニングをしましょう。

問2 43.9%でした。文章正誤ではなく、指定内容正誤問題と考えればいいでしょう。事象と根拠の整合性を見なければならないため、少し難しかったかもしれません。

問3 44.0%でした。分かる所から正解を重ねれば問題ないと思いますが、この問題はダミーから絞っていく方法も使えると思います。

どの問題も点差が分かれやすい問題です。共通テストは確実に取れる問題としっかり考えないといけない問題をトレーニングから身に付けておきましょう。

■共通テスト形式で正答率を上げるために

共通テストまであと1か月弱になりました。Twitterでも予備校の先生がセンター試験の過去問が対策として使える、というのですが、僕もその意見には反対ではありません。まずはセンター過去問をしっかりと解いてください。その後、対策問題集や共通テスト用の基本問題集を解くのがいいでしょう。もし、補助輪参考書を使うなら、「決める!共通テスト」(Gakken)、「一冊でしっかりわかる本」(かんき出版)、「共通テストの点数が面白いほどとれる本」(KADOKAWA)などがありますので、自分が使える問題集を1冊用意すればいいでしょう。ただし、「一冊でしっかりわかる本」の日本史は2冊あるので気を付けてください。ただし、二次試験に使うことはできる内容も多いので、二次試験で日本史が必要な受験生はこれを勧めます。

問題集としては、「大学入試共通テスト実戦問題集」(旺文社)、「日本史トレーニング問題集」(山川出版社)、「共通テストスマート対策」(教学社)、「はじめての共通テスト対策」(エデュケーショナルネットワーク)など使うといいでしょう。実戦問題集は、河合出版、駿台文庫、Z会などありますが、志望校や目標点に合わせて購入されるといいでしょう(代々木ライブラリーについては問題量が少ないため演習量が確保できないかもしれません。入門編として使っても構わないと思いますが……)。史料や図版の問題集なら、「日本史図版・史料読み取り問題集」(山川出版社)などがありますので、もし、来年受験生の方は参考にしていただけると幸いです。

あとは問題を解くのですが、大事なのは、出題形式もできれば掴んでおくといいでしょう。どのような形式で問題が出題されているのか、できごとと論拠の組合せなど、解説部分もしっかりと読んで周辺知識として掴んでください。問題を解くだけ、答え合わせをするだけ、ではもったいないです。一番勉強できるときは問題を解いたのちです。だから模試などをやった後の復習が大事なのです。このひと踏ん張りが正答率を上げるための要因だと思ってください。過去問や実戦問題集などで問題形式に慣れ、テーマの関連知識も掴んでいただけるとこれからの学習の幅も広がっていきます。ただし、日本史ばかりに時間を取られすぎないように気を付けてください

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中学社会・日本史講師吉野@予備校講師
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