正答率の低い問題
本日もよろしくお願いいたします。現在、限定公開ですが、社会の公立高校入試解析を行っています。2021年の正答率データなどが公開された奈良県と神奈川県については既に解析が終わっています。そして今回、そのことを踏まえて、正答率の低かった問題はどういう形式だったのか、というのを詳細にみていきたいと思います。
公立高校入試解析については限定公開ですが、今回は特別に無料公開といたします(正答率自体は公開されているため)。どのような問題が正答率が低いのか、を話したいと思います。今後、その逆に正答率の高い問題についても考察したいと思います。よろしくお願いいたします。
■正答率の低い問題の特徴
まず、社会の入試問題で正答率の低い問題はどのような問題があったかを列挙してみたいと思います。ここでいう正答率が低いとは、正答率が50%を切る問題のことを指します。その中でも20%を切る問題は特に難問と指定しています。
➀複数の資料を用いる問題(地理・歴史・公民)
②資料を用いるなかで計算が必要な問題(地理・歴史・公民)
③用語説明型の記述問題(地理・歴史・公民)
④近現代の年代並び替え問題(歴史)
⑤地理・公民の最新語句(地理・公民)→③と重複している
⑥太字で書かれていない語句(地理・歴史・公民)
⑦関連知識や背景知識を必要とする問題(地理・歴史・公民)
⑧正しいものをすべて選ぶ選択肢
これらが主に正答率が低い問題でした。では、一部実際の問題と正答率を見て簡単に考察をしたいと思います。
■近現代の年代並び替え問題
この問題は前近代のときはそこまで正答率が低くありませんが、近現代の年代並び替え問題となると途端に正答率が30%とかひどいところでは10%台になるところも出てきます。この問題は、過去の記事でも指摘しているところです。
例えば、埼玉県2020年の問題(大問4の問1)で見ると、1867年から1889年の中のできごとを古い順番に並び替える問題です。これは明治維新→自由民権運動→憲法の発布という流れが分かればそこまで難しくありません。ですが、この問題の正答率は36.6%で半数近くの受験生は間違っています。
また、2020年の栃木県の大問4の問3の年代並び替え問題については正答率が15.4%と低いです。こちらは具体的な年代がなく、かつ年代が近いものを4つ選ぶ問題のため、歴史の流れが定着していなければ難しい問題となります。また、アの学徒出陣とイの対日石油輸出禁止の時期で困った人もいたのでは、と思いますが、これは太平洋戦争に向けた流れを掴んでいたらそこまで難しくはありません。
では、正答率が下がる原因とは何でしょうか。
皆さんは年代並び替え問題の出題の特徴が2つあることに気付いてますでしょうか?ほとんどの方はこのことを知りません。
【年代並び替え問題の出題形式】
➀前近代は時代ごとで判定することが多い→やや正答率は高い
②近現代は歴史の正しい流れ、正しい年代を知らなければ解けない→正答率が10~30%台になることが多い
この話は、僕の「究極のTactics集」にあるものです(上記にリンクあり)。が、当時作成したものでは年代並び替え問題もTactics集は作っていませんでした。そのため、この解析を行っている最中でTactics集を作ったのです。これから新たなTactics集を作っていきたいと思います。
そのことを踏まえると、歴史年表の活用が十分でないこと、歴史の流れが十分に理解できていないことが分かります。そのことを知らずに並び替え問題を解くため、正答率が下がるのです。
上記の問題で例外はあります。それは、並び替えが選択肢になっているケースです。特にすべての通りではなく選択肢が一部に絞られている場合、並び替える選択肢が3つの場合、に関しては例外的に正答率が高いことがあります。でも、やっていることは選択肢があってもなくても関係はありません。歴史の流れを正確につかむことが正答率を上げる学習法ではないのでしょうか。
■関連知識や背景知識を必要とする問題
この話は、上記の記事でも少し触れていますが、資料の考察のために、周辺知識や関連知識や背景知識を必要とします。この問題も正答率が思ったほど高くなく、石川県の問題はやや難問といわれています。
この前の入試解析で使用しました2018年の広島県の飛び地の地域と新宮市との関係を問う問題での正答率は部分正答も含めて、驚愕の2.8%しかありませんでした。これは河川と県境が重なっているため、背景知識としての河川があることに気付かなかったこと、材木を運ぶ手段について河川を利用することが分かっていなかったのが原因です(社会を指導できる講師の先生でも正解が導けられなかった)。見たままのものから判断したため、壊滅的な正答率になったとみられます。
これについては、他の地域でも汎用知識として使うことができます。例えば、ルール工業地帯で鉱産物の運搬についての方法、アメリカの鉄鉱石の鉱産物の運搬についての方法、どちらも水運を利用して運搬しています。これを知っていれば、応用して使うことができるはずです。が、ほとんどの受験生はそれを使うことができずに書けなかったのでは、と思います。
そのため、受験生の大半は、周辺知識・関連知識・背景知識の3つの知識を身に付けていない、ということが分かります。今後の社会の入試は丸暗記型の学習はほとんど通用しません。2022年から難易度が変わるところも出てきます。それに対してしっかりと対策をしていきましょう。
■用語説明型の記述問題
意外と正答率が低い問題として、用語説明型の記述問題があります。え、語句の意味を覚えていたらできるのでは?と思われますが、その通りです。
が、それでも正答率が低いのです。では、実際にどのような形式で出たときは正答率が高く、逆に正答率が低いのか、を考察していきましょう。
2020年の滋賀県ではフェアトレードに関する用語説明型の問題が出ていました。
【フェアトレード】
・公正取引のことで、発展途上国の産品を適正な価格で取引すること。発展途上国の経済的な自立を目標としている。(「中学詳説用語&資料集 社会」(受験研究社)より引用)<公民>
・生産物が不当に低い値段で取引されている人々や地域に対して、公正な報酬を支払って行う貿易。生産者や地域の自立を促すことが目的。(「中学社会用語・資料集」(旺文社)より引用)<地理>
上記のことを用いて答えられたら正解です。これは用語集に載っている意味です。ここに注目できれば正答できたのでは、と思います。また、近年の公立入試でもいくつかの府県で出題がされています。用語、意味の整合性をしっかりと取っていきましょう。以下に、実際の模範解答例を出しておきます。
実際の模範解答:発展途上国でつくられた農産物や製品を、適正な価格で取引する(こと)
しかし、正答率は5.5%しかありませんでした。英語にすると、フェアは公正といった意味があり、トレードは交換や取引、という意味があるので、そこから最低でも公正な価格で取引する、という部分だけでも書けると思います。そして、原産国の紅茶とはケニアのことです。ケニアは発展途上国であり、公正貿易、と書いているので、発展途上国でつくられた製品や作物、というところまでつなげられたらほぼ正解に行けるはずです。
この原因は何か、というと、上記にある正答率が低い理由の原因の一つである「地理・公民の最新語句」が定着しきれていない、と思います。フェアトレードはここ近年でいわれてきた新語です。そのため、このような知識をほとんど持たずに取り組もうとしているため(知識偏重型の学習が原因)、正答率が低いのでは、と思います。
また、社会の学習が追い付いていない受験生も多い(一番は個別指導塾の横行が原因)ため、このような語句頻度の低いものや新語についてはスルーされがちです(入試に出ないとは言っていない)。が、年々入試の傾向は変わっていってます。その部分も気を付けないと思わぬ落とし穴に引っかかってしまいます。そのため、そのことも含めて指導を行わないといけません。
もう一つ。このテーマとは少し離れますが、2020年の栃木県の問題で技術革新(イノベーション)を答えさせる問題がありました。問題文はこうなっていました。「新しい商品の生産をしたり、品質の向上や生産費の引き下げをもたらしたりするなど、企業が画期的な技術の開発をおこなうことを何というか」と出ていまして、技術革新(イノベーション)を答えさせます。
【技術革新】
・企業が新しい経営方式や生産方法、商品、生産管理などを取り入れることによって生じる大きな変革。(「詳説用語&資料集 社会」(受験研究社)より引用)
・新しい技術や経営方式、機械などを取り入れること。(「中学社会用語・資料集」(旺文社)より引用)
と、問題文と用語集の内容が大きく異なります。つまり、問題文の言い回しが変わっているために答えが導けなかったケースもあります。その影響もあり、正答率は25.6%と低いです。もし、これが逆で聞かれていた場合、より正答率が下がっていた恐れはあったと思います。
ということは、以前から僕が指摘している、「語句と内容の整合」ができていない方が多い、ということが分かります。そのため、用語説明型の短文記述問題の正答率も下がっているのでは、と思います。
■そのほかにも
そのほかにも、複数の資料を用いる問題でも正答率は低いです。論述問題でも正答率は10%を切りますが、部分点をもらった場合はそれなりの正答率になっています。その反対に、こういう問題・形式なら正答率が高い、というものもあります(こちらについては別記事でアップします)。
ちなみに、論述問題の定義ですが、公立高校入試では50字以上の記述問題のことを指します。なんでも論述問題というのは表記として誤りです(日本史では80字以上の文章記述問題のことを指す)。
そのため、僕は
・50字未満の記述問題→短文記述問題
・一問一答形式の記述問題→一問一答
・50字以上の記述問題→論述問題
と定義しています(文字数などで定義が変わるかもしれませんが)。
■そのために計画していること
実は、このことを踏まえて、全国の受験生に何かしらの還元をするために、「単元別・テーマ別の問題攻略」と「出題形式別」のTactics集を作っています。全国の公立入試問題の良問を題材にして、様々な角度で問題を解くための土台作りができるものを作りたいと思っています(単元別については色々な出版会社様がつくられています)。
特に出題形式別については、現在市販されているものにはないものを作れると自負しています。去年から行っています紙面講義、全国高校入試平均点、正答率などをもとに様々なアプローチができる問題集がつくれたら、と思っています。このような計画にご協力してくださる出版会社様、担当者様がいらっしゃいましたら、ぜひ公式Twitter、公式Facebookなどに一報ください。ご連絡お待ちしております。色々と構想しているものを提示できたら、と思っています。