令和書籍の採択

本日もよろしくお願いいたします。
そろそろ各自治体で2025年から採択される中学教科書が決まり始めてます。今年は令和書籍の参入もあり、どのような変化が見られるか、注目したいと思います。
そのことについての私見と採択があったときの学習についての注意点などを現時点で判明してるところから考察、まとめていきたいと思います。
最後までお付き合いよろしくお願いいたします。


■令和書籍とは

まず、今回の中学社会歴史で検定教科書に合格した令和書籍ですが、主な著者は竹田恒泰つねやすで明治天皇の玄孫やしゃごとして有名な方です。90年代の日本史を学んだ方なら、竹内睦泰むつひろ氏の名前を出すとわかる方もいらっしゃると思います。系統としてはそのような毛色が見られました。
日本の歴史を天皇政権別、政権担当別にまとめている構成は斬新ざんしんです。
教科書としてはかなり中学生にとってはかなり細かい内容となっており、中学社会であまり触れられない天皇や将軍も太字で記載してました。その分、探究するテーマもふんだんに入れているのはこの本の特徴です。
竹田恒泰氏が仰ってたのは、指導者でもこの一冊で十分な指導ができるようにまとめているみたいです。

■令和書籍の利点

利点としては、天皇別、政権担当別に歴史をまとめてる構成になってることから、年代の整理はしやすいのでは、と思います。
実際、現在の公立高校入試では時期判定の問題の正答率がよくありません。正しく整理されていれば、学習するのにはいいと思います。
あと、難関私立の解析をしていることから、それらの高校に入りたい人にとっては十分な内容があると思います。

■令和書籍の欠点

では、令和書籍の欠点をみますが、これについては言いたいことはたくさんあります。

まず、準拠ワークの問題があります。現在、塾関係の教材を手掛けてるところからの話では、令和書籍に合わせたワークを作る予定はない、とのことです。ということは、市販でもワークなどは作られない可能性が高いと思います。そのため、定期テスト対策などに苦戦する可能性が高いです
聞いた話では、学校用教材としても準拠ノート(ワーク類も含む)を作らないそうです。

続いて、中学社会の内容として分量が多すぎることです。私立中学の先生が令和書籍を採択されるならある程度は対応できるかもしれませんが、公立中学の先生が令和書籍の教科書で学習するとなれば、何かと準備などが大変になると思います。
それに対応した動画などを配信する、という話はありますが、使いこなすとなるとかなり大変になると思います。

恐らくこれが致命的なのかもしれませんが、他の教科書と比べて世界史分野の関連がやや弱かった印象でした。今の新課程からの教科書は世界史分野との関連性を重視されてるので、ここが弱いなら公立中学での採択はかなり厳しいと思いました。

他にもありますが、現場の先生が実際に使うとするなら、特に準拠用のワークがないのは公立中学の先生からすると採択しにくいのでは、と思います
ただし、歴史の読み物として使うならなかなか面白い視点はあると思います。Amazonでの評価としては、正しい日本の歴史を……という評価が多くみられますが、その評価と実際に中学校の教科書として採択できるかは別問題です。

■令和書籍の教科書には期待したいが…

令和書籍の教科書に期待してる読者が多いと思いますが、現実問題、学校での採択という話であるなら、僕は上記の理由などで令和書籍が公立中学で採択される可能性は限りなく低いと思います
9/3現在で、実際に採択されてる教科書は東京書籍、帝国書院が多く、日文や教育出版と続いてます。石川県加賀市で育鵬社が採択されていましたが、今回は帝国書院の歴史・公民の採択がやや多くなっているのは注目といえます。

育鵬社や自由社の学校採択を阻止する市民団体も動いている、という話もあります(大阪のある地域では令和書籍の採択をしないように嘆願書たんがんしょを出したとも聞いてます)。

期待したい気持ちもありますが、知識の補完として活用するなら僕は使うと思いますが、学校での採択となると話は大きく変わります。採択の立場からすると、生徒の学習が令和書籍ではパンクする恐れが高いので、妥当とは思いますが東書、帝国、教出から選ぶと思います。個人的には高校学習のとっかかりのしやすさから山川にしたいですが、上記3社になるだろう、と思います。
山川出版社は参入して2期目と考えると、そろそろ公立中学でも採択があってもいいと思います。理由としては、歴史総合などの世界史単元については山川に勝る教科書はないからです。といっても、最低限なら帝国書院や東京書籍でも対応は可能です。
理由としては、準拠教材の豊富さ、ガイドなども豊富にあるなどから生徒が学習しやすいものが選ばれやすいのかな、と思います。準拠ワークの有無は大きいと思います。
あとは地域の事情もあるので、必ずしも、これらの理由が該当するとは限りません。

■令和書籍が採択された場合の学習対処

では、仮に令和書籍が学校で採択された場合ですが、2つのケースが考えられます。

①私立中学で採択された場合

可能性があるとすれば、私立中学で採択された場合です。私立中学で採択された場合、準拠ワークではなく塾用教材も選択肢にあるため、教材に困ることはないのでは、と思います。もちろん、それだけでテスト対策が万全になるか、ということはわかりませんが、少なからずいろいろと選択肢はあると思います。
令和書籍はややレベルの高い教科書のため、新中学問題集(教育開発出版)、Winning(好学出版)、実力錬成問題集(文理)、徹底演習テキスト(受験研究社)などが教材の候補としてあると思います。

②公立中学で採択された場合

現在は公立中学では採択はないものの、仮に公立中学で採択がされた場合です。
この教科書を使った場合の問題点として、塾での過去問テスト対策が非常に組みにくいこと、市販教材や塾教材での対応がないため、授業の組み立てに苦労することなどがあると思います。
竹田恒泰氏は教科書1つで指導できる、とうたっているものの、保護者からすればテスト対策など不安になるでしょう。そして、塾に行ってもどのように指導したらいいかてんやわんやになります。加えて、大手塾の強みであった従来の定期テストの過去問も使えない、使いにくい恐れが高いのです。実は、塾のほうが定期テスト対策に困ることになるのでは、と思っています。

学校でも準拠ワークがないため、新中学問題集など塾用教材を副教材として使う可能性は高いです。そうなると、上位層の生徒はより伸びる反面、苦手な生徒は置いて行かれる恐れが高いと思います。
また、そこを太字にする?という語句や人物まで太字にされているので、語句を暗記して……の学習を中心に行えば、より理解が難しくなる、点数がとりにくくなりそうな気がしました

ということは、竹田恒泰氏が仰っていた強みがあまり現場には反映できていない可能性もあると思います。

あと、市販教材で学習するなら、最低ラインでも「最高水準問題集」(文英堂)、「ハイクラス徹底問題集」(文理)を使うのがいいです。苦手な人は標準編の教科書ワークか、「ニューコース問題集」(学研)、「実力アップ問題集」(文英堂)、「チャート式」(数研出版)などで土台構築をするのが吉です。

もし、今後、令和書籍の「国史教科書」に対応した準拠ワークやガイドが作成されるなら、少しは可能性はあると思いますが、今のところ、探究学習の資料としての活用で参照する使い方がメインになると思います。
確か、YouTubeチャンネルで内容の補足をまとめたものがあるそうですが、それを使いつつまとめるか、「超速!日本史の流れシリーズ」(ブックマン社)と併用して中学内容を拾いながらまとめるのもいいかな、と思います(ただし、超速シリーズについては15〜20年前の内容なので、使う際は大幅な加筆修正が必要となりますので、そのあたりは気をつけてください)。

今回の話は、教科書展示会で見させていただいたもの、過去に販売されていた不合格検定教科書などをもとにまとめてます。ただし、敢えて内容などについては踏み込まないようにしました。あくまでも、指導難度、使いやすさ、探究課題、学習の補助などを中心にまとめました

■以上のことから

もうここまで言えばわかっていただけると思いますが、「国史教科書」で正しい歴史を学ぼう、という意見がたくさんあるのはわかりますが、それが実際の教科書採択に直結するかについては別問題であることがわかります。実際に、教科書採択の結果より令和書籍の採択は9/3時点では公立中学では一つもありません(私立中学については情報が入るのが年末か年明けになる予定)。もちろん、これから採択をされるところもありますが、今の流れからすると、大きく変わらない気がします。
間違ってほしくないのは、中身に問題がある、とは言ってません。地域柄の実情、学びやすいもの、準拠ワークなどの対応があるない、などで大きく変わると思います
今後、準拠ワークなどが作成されれば少しは変わる可能性があると思います。

この本についてはコンセプト自体はしっかりしていると思います(内容についてはあえて触れませんが……)。読み物としてもいいとは思います。ただ、教科書として採択となると指導者側も生徒側もかなりのリスクを負うことになると思います。
まずは準拠用の学校用ワークを作成するところから始めてもいいのでは、と思います。もしくはそれに対応できる問題集などを検討したほうがいいと思います。

いいなと思ったら応援しよう!

中学社会・日本史講師吉野@予備校講師
皆様のサポート、よろしくお願いいたします。