【大学入試紙面講義】2016年センター試験本試 大問1
大学入試共通テストまであと1か月となりました。共通テストの学習は進んでいますか。この時期でも正誤問題の正答率を上げることはできます。ただし、それも、学習の定着がある程度できていることが前提条件となります。できているが、点数が伸びない人は、正誤問題のアプローチ法を間違えています。この大学入試紙面講義を購読してください(記事自体は無料です)。
本日は、センター形式でもおなじみのテーマ史の問題を扱います。テーマ史は全時代満遍なく出てきますが、問題自体はそこまで難問ではありません。正しいアプローチ法を身に付けましょう。
■問題の概略
A・Bと分かれており、日記に書かれたことを題材としています。前半は「史料としての歴史」がテーマとなっており、日記や印刷に関わる内容で話しています。後半は、日記に関する私見をまとめています。問題自体は日記の内容を直接聞く問題は多くありません。それに関連する問題が出ると思ってください。
■解説
それでは、解説に行きましょう。
A
問1 空欄( ア )( イ )に入る語句として正しいものを、次の➀~④のうちから1つ選べ。
~7世紀後半に( ア )に派遣された伊吉博徳の記録などがそれだ。現存する最古の自筆日記は、( イ )の『御堂関白記』らしい。( イ )の「この世をば我が世とぞ思ふ望月のかけたることも無しと思へば」という和歌も、同時代の藤原実資の日記『小右記』に記されて伝わった。
➀ ア 唐 イ 藤原道長 ② ア 唐 イ 藤原頼通
③ ア 宋 イ 藤原道長 ④ ア 宋 イ 藤原頼通
それでは行きましょう。アですが、伊吉博徳(いきのはかとこ)のことを知らなくても問題ありません。知らないといけないのは7世紀後半の中国はどの王朝か、ということが分かればいいです。となると、唐と判定できます。宋は10世紀中ごろに成立した中国の王朝です。よって、時期が大きく異なります。
イは『御堂関白記』で判定するか、和歌で判定するかのどちらかが分かれば問題ありません。となると、この和歌を詠ったのが藤原道長とわかればいいです。もちろん、『御堂関白記』の作者が道長とわかればそれでも構いません。藤原頼通は和歌などの作品集よりは、宇治に平等院鳳凰堂を建立した人物で覚えている方が多いと思います。
よって、正解は➀となります。
問2 下線部ⓐ(『日本書紀』)に関して述べた次の文X・Yについて、その正誤の組合せとして正しいものを、下の➀~④のうちから1つ選べ。
X 『日本書紀』は、神話から始まり、聖武天皇の時代までの出来事を記している。
Y 『日本書紀』など、古代の歴史書を研究した津田左右吉は、『古事記伝』を著した。
➀ X:正 Y:正 ② X:正 Y:誤
③ X:誤 Y:正 ④ X:誤 Y:誤
日本書紀の内容に関する正誤問題です。
日本書紀の背景知識を。日本書紀は720年に舎人親王らによって編纂されたもので編年体で記述されています。また、神話から持統天皇までの歴史を記述しており、公式の歴史書となっています(古事記は国内向けになります)。
六国史の最初の作品でもあります。江戸時代になると、国学者本居宣長によって、『古事記伝』を著し、古代の歴史書研究が進みました。昭和になって、津田左右吉が『古事記』『日本書紀』の文献学的批判を行い、『古事記及び日本書紀の研究』を著し、古代の科学的解明に貢献しました。
ここから、Xは誤文です。聖武天皇の政治は724年からです。よって、日本書紀が成立したときは聖武天皇はまだ天皇になっていないため誤りです。Yも誤文です。津田左右吉ではなく本居宣長です。津田左右吉も歴史学者ではありますが、『古事記』『日本書紀』の文献学的批判を行い、古代の科学的解明に貢献したものですが、代表作品は『神代史の研究』などです。
よって、正解は④となります。
問3 下線部ⓑ(印刷と出版が普及した)に関連して、印刷・出版に関して述べた文として正しいものを、次の➀~④のうちから1つ選べ。
➀ 鎌倉時代、律宗の僧侶は五山版とよばれる漢詩文集、仏典などを刊行した。
② キリスト教宣教師がもたらした活字印刷機で、キリシタン版(天草版)が出版された。
③ 享保の改革では、洒落本が取り締まられ、山東京伝らが処罰を受けた。
④ GHQは、戦時中の言論統制を否定し、占領政策を批判する自由を認めた。
印刷や出版に関連する正誤問題ですが、時期が大きく異なります。この手の正誤問題は基本的に語句でのウソではなく、内容・時期の判定になることが多いです。
➀の五山版は律宗ではなく臨済宗の僧侶が刊行したものです。鎌倉時代の部分は少し怪しいですが、保留にしても問題ないと思います。②は正文です。もし、意地悪なひっかけをするなら活字印刷機のところだと思いますが、この話は教科書にもしっかり載っていますので、確認してください。③は享保の改革ではなく寛政の改革です。天保の改革では柳亭種彦(『偐紫田舎源氏』)や為永春水(『春色梅児誉美』)が処罰されています。こちらと混同しないように気を付けてください。④は言論統制を強化し、占領政策の批判を許さない体制を取りました(プレス・コードなど)。➀・③は時期相違、④は内容相違となります。よって、正解は②となります。
B
問4 空欄( ウ )( エ )に入る語句として正しいものを、次の➀~④のうちから1つ選べ。
~日記といえば、紀貫之の『土佐日記』のような( ウ )で書かれた日記について調べればよいと思っていた。~鎌倉幕府の歴史書『( エ )』も、幕府内部のこのような記録や貴族の日記などを参照しているらしい。
➀ ウ 漢文 エ 愚管抄 ② ウ 漢文 エ 吾妻鏡
③ ウ かな エ 愚管抄 ④ ウ かな エ 吾妻鏡
ウは簡単です。平安時代の文字はかな文字を使っています。そのため、かなを使っています。エについては、歴史書がどっちか、という問題です。しかし、これだけでは判定は難しいですが、後半の幕府内部の記録から吾妻鏡を選ばないといけません。愚管抄はどちらかというと歴史哲学書です(「道理」による時代の解釈)。よって、正解は④になります。
問5 下線部ⓒ(人々の暮らしに直結する災害や米価の変動など)に関連して、米の生産や価格に関して述べた文として正しいものを、次の➀~④のうちから1つ選べ。
➀ 弥生時代前期の水田は乾田中心であったが、後期には湿田の比重が高まった。
② 奈良時代、多収穫米の外来品種である大唐米が、日本列島全域に普及した。
③ 民衆が米価の高騰に苦しむ中、幕政を批判して大塩平八郎が武装蜂起した。
④ シベリア出兵を見越した米の買い占めで米価が暴落し、米騒動が起こった。
突然、農業史に関する問題が出てきていますが、この大問1のテーマ史はどの角度で出題されてもいいように準備はしておいてください。この問題も時期判定・内容判定が中心となります。
➀は誤文です。乾田と湿田の説明が逆です。前期は湿田中心で後期から乾田中心と変わります。②は誤文です。大唐米の存在を知らない人が多いと思います。大唐米は鎌倉時代に普及したこと、西国中心に普及したこと、この2点で誤文となります。③は正文です。中には「米価の高騰に苦しむ」の部分で保留にした人もいると思います。ですが、この蜂起の前に天保の飢饉がおこり、米価の高騰が起こっています。そして、各地で百姓一揆や打ちこわしが多発しています。その関係でこの文は正文と判定できます。④は誤文です。米の買い占めにより、米価は高騰しています。
よって、正解は③となります。
問6 下線部ⓓ(自由民権運動に参加し、女性の地位向上につとめた岸田俊子)に関して述べた次の文X・Yについて、その正誤の組合せとして正しいものを、下の➀~④のうちから1つ選べ。
X 学制公布直後から、女子の就学率は男子とほぼ等しかった。
Y 市川房枝らが新婦人協会を結成し、女性の政治参加を主張した。
➀ X:正 Y:正 ② X:正 Y:誤
③ X:誤 Y:正 ④ X:誤 Y:誤
最後も2文章正誤問題です。この問題は岸田俊子のことを知らなくても問題なく解けます。
Xは誤文です。女子の就学率が増えたのは1890年以降の話で、最初の就学率は20%もいっていません(「日本史のアーカイブ」より引用)。Yは正文です。市川房枝や平塚らいてうらが新婦人協会を結成し、女性の政治参加を主張しました。当時は治安警察法により女性の政治参加は認められていませんでしたが、1920年の改正で女性の政治参加は認められました。しかし、女性の参政権や選挙権は戦後になってからになります。
よって、正解は③です。
■難易度の概観
A部分は標準です。B部分はやや正答率は落ちると思います。問5はやや正答率は下がると思います。全体的にそこまでの難問ではないものの、正確な知識で判定できていれば、この問題は高得点を狙いたいところです。
■正誤の判定は語句だけで判定しない
この時期、現役生の一番の悩みといえば、正誤判定の正しいやり方が身についていないことです。これは共通テストだけでなく、マーク形式の問題を課す私立大学においても同様です。基本的な解き方・考え方は同様です。
上記の記事で正誤問題が上がらない理由を述べています。これ、実は現役受験生の半数以上はこのやり方を知らずに入試に臨んでいるのです。実際に模試などで点数が半分くらいしか取れていない人は、正誤判定のしかたを大きく間違えているのです。自分の知識の範囲内であればそこまで問題はないのですが、学習が定着していない範囲が出た場合は、途端に正答率が下がってしまいます。
私立で記述などが課されるところは学習のしかたが多少異なりますが、正しいアプローチ法・学習法で進めてください。
入試まで残り1か月半となりました。一般入試で受験をされる方は最後の仕上げのチャンスが冬期休暇の期間です。共通テストまで日本史を使う方、一般入試まで日本史を使う方などいらっしゃいますが、今できることを全力で悔いなくやり切ってください。僕も共通テストの問題を入手次第、解析に入りたいと思います。